捕縛と手紙
20の町から本線の23の町を目指した。
ここからは23、25、27の町と乗り換えが多い。
23の町までは7日で金貨8枚。
馬車3台にお客は11人、荷台は青年1人だった。
同じ馬車に乗り合わせたのは、ひょろっとした商人の青年と神経質そうなおばさん。
絡まれたくないから出来るだけ外を見てた。
カレンとガウはどうしただろう。
私と同じく要領悪いから心配だった。
休憩の度に乗客は降りて体の凝りをほぐしてるのに、荷台の青年は1回も降りて来なかった。
夜に焚き火を囲んでも誰も話さない。
23の町から来た馬車も同じ焚き火を囲んだけど、こちらもお喋りする人はいなかった。
不思議だけど、どちらの冒険者パーティーも互いに黙殺しあって挨拶もしない。
嫌な雰囲気だけどパーティーが2つもいるから奇襲されても心配ないし、私もゆっくり眠った。
2日目の夜、獣の声で目が覚めた。
戦っているのは荷台の青年に見えた。
冒険者パーティーは?
ざっと見たけど居ないから、私も降りて戦った。
倒して魔法の袋に放り投げる。
それを6回繰り返した。
終わってから、焚き火の周りに倒れてるのが冒険者パーティーだと知った。
「ちっ、眠り草の効かない奴が居たのかよ」
眠り草!
なら彼は盗人だ。
すっと構えた私に青年が慌てて手を振ってきた。
「違う違う、俺はあるものを盗みたくて使ったんだ」
じいっと見たら、この馬車に軍の書類を持ってる奴が乗っててそれだけを盗みたくて眠り草を使ったと説明してきた。
青年が話終える前に冒険者パーティーの数名が立ち上がって青年を捕まえてしまった。
彼らには効かなかった?
違う。
寝た振りして捕まえるタイミングを測っていたに違いなかった。
「お前が掴んだ情報は誘き寄せるための偽だ」
「何だとっ!」
青年が体を捻って逃れようとしてもがっつり捕まれてるので、身動きとれなかった。
「お前も共犯か?」
栗色の髪の青年に聞かれて意味が分からなかった。
誰の共犯?青年の?
「面倒だ。2人とも捕まえろ!」
後ろの黒っぽい髪のおじさんが命令するから、咄嗟に後ろに下がって身構えた。
「この女使えるな。こいつにも鎖を着けろ」
咄嗟に何がくるか分かって、急いで光の結界を張って解呪を唱えた。
ドームのように張るより体にぴったり張る方が難しいけど、危険を回避するにはそれしかなかった。
魔法使い2人が呪文を唱え始めて私に杖を向けた。
向けられた杖を避けて走る。
魔法使い2人の後ろに回り気絶させた。
『これ以上するならあなたたちも眠らせる』
初のvoiceは緊張した。
クラークさんと練習はしてたけど内心ドキドキでビクビクしていた。
胸ポケットからギルドカードを出して、残りの冒険者にギルドランクを見せた。
「調べるから寄越せ」
栗色の髪の青年が手を伸ばして来た。
強引に奪いに来る手からステップで逃げた。
その言葉で偽の冒険者パーティーだと分かった。
『私を捕まえたらチェスターの冒険者ギルドが出てきますがそれでも捕まえますか?』
「う、嘘をつけっ!」
「まてっ!17の町の反乱の時チェスターの冒険者が居たのを忘れたのか!」
奪いに来た人の後ろに立っていた赤茶の髪の青年がそう言って止めた。
もしかしたら、あの時居たのかもしれない、と思うと背中に汗が伝う。
もしあの時居たなら、彼は私が話せない事を覚えてるかもしれなかった。
「お前の名前は?」
『ルアン』
緊張で息が出来ない。
「やはりか」
赤茶の髪の青年は後ろの上官と何か話した後、馬車に戻れと合図してきた。
見ると馬車の乗客も身構えて私を見ている。
それで分かった。
乗客全部軍人なんだ。
これが青年を捕まえる罠だと気付いたけどもう遅い。
捕まった青年はギラギラした目で私を睨んでいた。
もしやカレンに関係した人かもしれないと気付いたけど、後ろから馬車が着て乗せていってしまった。
翌日、赤茶の青年の上官に呼ばれた。
「今からはモナーク軍のために働け。チェスター国には後から伝えておく」
『断ります』
自分が乗っている馬車の中だけと、範囲を決めてvoiceを使うのは難しかった。
「罪人として捕まりたいか」
『捕まえたらチェスター国と戦争になりますが、それも辞さないと言いますか?』
「お前を捕まえようとチェスターに分かるものか」
『なら捕まえてみてください。私を捕まえた瞬間、チェスターの冒険者ギルドが動きますから』
上官と呼ばれたおじさんが黙ると、赤茶の青年が私に一礼して下がるように言った。
それから暫くして、赤茶の青年が私の乗っている馬車に来て話始めた。
部下の乗客は聞こえないふりで外を見た。
「悪かったね」
『いいえ』
「君が強いから、上官は軍に欲しかったんだ」
私は黙っていた。
彼は話せないと知らない?
それともわざと黙ってる?
「どこまで行くの?」
『気楽な旅なので決めていません』
「そうか。さっきチェスター国に直ぐ分かるって言ってたけどそれは何故かな」
私の反応が薄いから青年は本題を切り出してきた。
『秘密です。多分この会話も伝わっています』
ぎょとした青年は強く私を見た。
平に見せてるけど、この青年がおじさんの上官だ。
『チェスターを出る時、冒険者ギルドの総括に保険をかけておいたから安心して行けと言われました』
胸ポケットからギルドカードのvoiceの印を見せる。
『こちらには聞こえませんがあちらには聞こえているのかもしれませんね』
「…そ、そうだね。君は強いのに過保護だね」
青年の引き釣った顔から、彼は忘れていると確信出来て肩から力が抜けた。
『強くないですよ。チェスター国で私より弱い人は少ないですから』
「君より強い人がたくさんいるの?」
『はい』
クラークさんの通訳はクララさんで慣れたつもりだったけど、狸と狐の馬鹿仕合いの通訳は疲れる。
23の町へ着く前日に、あの赤茶の青年がまた馬車に着てアジトを白状したと教えてきた。
??
だから何?
「本当に関わりは無いのか」
『誰と?何の話ですか?』
しつこいと思って聞き返した。
「少し先の町に反乱軍がいたんだ。制圧して残党を探しているところだ」
『それが?』
「興味無しか?」
『興味?』
「本当に知らないんだな」
『だから何を?』
ついきつめに聞き返してしまった。
「分からなければそれでいいんだ」
かなり不機嫌な顔をしていたらしく、前の商人風の兵士が説明してくれた。
「27の町に軍への反乱者がいて、密告から一毛駄賃にしたんだが、うち数名に逃げられてね」
『あの荷台の人がそのうちの1人とか?』
「そうだ。だから残りを探している」
『何人足りないの?』
「最低でも4人」
納得した顔で頷いた。
「旅でそんな噂聞かないか?」
先週は村の魔物退治をしていて、27の町の話は聞いたけど全員捕まったって聞いてると伝えた。
「捕まってない話はしないように」
急に軍人らしい話し方になって、それだけ言ったらプイッとそっぽを向いた。
赤茶の青年も休憩になったら馬車を降りた。
ホッとした。
もしかしたら、と思ってたからいつ嘘がバレるか内心ひやひやしていた。
聞いていて、やはりカレンが行くと言ってたとこだと確信してしまった。
カレンたちはどうしたんだろう。
まだ捕まってない4人の中に居るのだろうか。
もし捕まっていたら…また隷属の魔法で…。
想像したくない。
カレンと連絡を取る方法が無いから苛々ばかり溜まって気持ちがささくれだった。
カレンも気になるけど、軍の情報網はどうなってるんだろう。
この世界に電話とか無いのに、どうして自白したとか赤茶の青年に分かるのか。
疑問が残った。
あの捕まった青年は、逃げた残りの4人の居場所を知っていたに違いない。
話の通りなら、捕まった彼は隷属の魔法でもう話してしまってるだろう。
無駄だと思っても、手掛かりが27の町しかないから今は行くしかない。
後の事は27の町に着いてから考えよう。
翌日、23の町に着いた。
25の町への馬車は明日の朝だとあった。
それまで町を見て歩こう。
歩き始めて直ぐ、付けられてるのに気付いた。
相変わらず子供はぶつかってくる。
屋台や店で少し買って、鍛冶屋に雑魚装備を売ってから冒険者ギルドへ行った。
宿を紹介して貰いゆっくりお風呂に入った。
宿の中までは入ってこないから、多分念のために尾行させてるんだと思う。
今は気付かない振りで過ごすしかない。
宿で装備の手入れをしていると、冒険者ギルドの職員が手紙を持ってきてくれた。
相手はハルナツさんで、苦労して手に入れた装備と腕輪をルルに渡した事への謝罪が書いてあった。
クララさんを問い詰めて聞いたらしい。
冒険者にとってどれだけ装備が大切か切々とクララさんは語ったそうで、全てはルルのためだと言ったらしく、ハルナツさんも凄く怒っていた。
それは私も一緒だとハルナツさんが言えば、ルルは初心者だから労れて当然と返されたと書いてあった。
ルルはもう村に居らず、あの青年もルルを追い掛けて村を出ていったらしい。
クララさんはルルに家にあるお金を全部持たせたらしく、暮らしていけないと逆に泣き付かれたそうで、今は村八分になっていると書いてあった。
なぜ村八分?
それよりルルの事が気になった。
嫌でもダンとカラを思い出して、大きな怪我をしませんように、と今は祈るしかなかった。