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ゲームの世界に転生?  作者: まほろば
17の町と20の町
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リタイア

10年の修正をしてからこの先を書けたら良いなと思っています



馬車の乗客は私以外みんな獣人だった。

向かう町が獣人の町だから当然は当然なんだけど、向けられる視線が痛くて酷く居心地が悪かった。

「人間がハルツに何の用だ?」

私の前に座る犬耳のおじさんが敵意剥き出しで牙を見せた。

おじさんだけじゃなく他の2人も殺気だっていた。

馬車に乗り込むまではウサギ耳のおじさんから貰ったガラスのブローチを見える様に着けようと思ってた。

それを直前で止めたのは、14の町の紳士の応対が頭から離れなかったから。

信じない人は、きっとブローチを見ても信じない。

今までの苦い経験からそう思うのは当然だと思う。

『旅をしている』

「ぁあ?お前喋れないのか?そうかそうか」

ニヤニヤ笑うおじさんにゾッとした。

「よせよ。モナーク以下に成り下がりたいか」

おじさんの隣に座るきつい目の青年が、強い口調でおじさんの私に伸ばしてた手を捕まえた。

「良いじゃねえか」

「そうだ。だからハルツ行きの馬車に乗ったんだろ」

私の隣のおじいさんが意地悪くそう言った。

「よせっ!」

「モナーク人は仲間の敵なんだぞ!」

「敵を討って何が悪い!」

3人の言い合いを聞きながら、やっぱりって思ってた私はアホに見えたと思う。

仲間を捕らえられて殺されて、そう思わない方がおかしい。

頭ではそう思っているのに大丈夫と思ってる自分がいて、勝手に獣人に裏切られたと思ってしまっていた。

「見せしめだっ!」

「そうだそうだ!」

「殺してモナークに晒してやれっ!」

!!

段々興奮してくるおじさんとおじいさんが、狂った顔で私の両手を掴みに来る。

「よせっ!そんなに言うなら21の町の町長にどちらが正しいか決めて貰おう」

「わざわざ町長の手を煩わせる必要なはい」

「そうだそうだ」

「そう国王陛下にも言えるんだな」

青年の言葉におじさんとおじいさんがグッと黙った。

??

ハルツの王は国民に慕われてる?

3人の会話から、ちょっとだけそう思った。

「悪いが、21の町の町長に会うまで身柄を拘束させて貰う」

え?

「逃げられると思うなよ」

「公開処刑にしてやる」

言ってることが有り得なくて理解できなかった。

まさか…、私を罪人だと思ってる?

ああそうか、ハルツも喋れない私を差別するのか…。

ムラムラとどす黒い感情が胸を染めていく。

分かっていた事だけど、やっぱりこの世界に自分の居場所は無いんだ。

何処に行っても私は除け者なんだね。

やっぱり…そうか。

熔岩のように吹き上がる憎しみがつい可笑しくて、いつの間にか笑ってた。

青年は背負った袋の中から細い革ひもを出して、私の両手を1つに縛った。

「トイレの時は言え」


それから4日の旅はきつかった。

転移で逃げる事も考えたけど、それは最後の手段だ。

4日の間、青年の尋問みたいな質問が何度もあった。

「何処から着た」

『チェスター』

「嘘を付くな」

………

正直に答えたのがバカみたいだ。

こっそり雷の腕輪を右手に出しておいた。

最悪感電させるつもりだった。

「その装備は20の町のダンジョンドロップだろ」

少しは分かるらしい。

「攻略出来るのか?」

青年をちらりと見て、返事はしなかった。

どう伝えても無意味に思えたから。

「可愛いげのねぇガキだ」

「ちったぁ怖がって見せろ」

そんなの目の前の2人を喜ばせるだけじゃん。

弱い者にしか威張れない、中学の嫌味満載教師と変わらないじゃんか。

永遠とも思える4日が過ぎて、馬車は乗り場じゃなく1件の大きな家の前で止まった。

「降りろ」

青年に押されて馬車を降りる。

押されて玄関に辿り着く前に中から扉が開いた。

「何があったんだ?」

!!

太った熊耳のおじさんが出て来て、手首を縛られてる私を見て目を見張った。

「こいつはモナークのスパイだっ!」

「今すぐ公開処刑をっ!」

「まだスパイだと決まった訳じゃないっ!」

3人は我先と熊耳のおじさんに大声で話した。

大きな声で話してたから大勢の獣人が集まってきて、みんな私の姿を見ると敵意を露に睨み付けてきた。

黙って3人の話を聞いていた熊耳のおじさんは、暫くしてから私を見た。

「君は話せないのかな?」

警戒しながら頷く。

「もしや君は…」

少し考える仕草をしてから、熊耳のおじさんは悲しそうに私を見た。

「黒い髪、黒い目、話せない少女。すまなかったね」

「…あ」

青年が手首の紐を急いでほどいてくれた。

「まさか本当にチェスターから着たのか?」

「ブローチを持っているね」

防具の中から取り出したようにブローチを見せる。

「ぁあ、やっぱり」

「王子の命の恩人を…、陛下に何と申し上げれば」

頭を下げる熊耳のおじさんを他の獣人が止めた。

「いくら王子の恩人でも人間に頭を下げるなっ!!」

「人間は俺たちの敵だっ!」

「そうだそうだ!」

「ブローチ渡すから図々しくハルツに来るんだっ!」

「取り戻して見せしめにしろっ!」

それからは揉みくちゃにされた記憶が途切れ途切れにあるけど、気が付けば電撃を放っていた。

地面を埋めている獣人たちのほとんどが感電で痙攣していて意識がなかった。

ギリギリ殺してはいないはず…。

パキンっ。

私の中で、人への信頼とか何か言葉にならない大切な何かが割れた気がした。

例えば…。

もしこの場で強盗に襲われたら、殺すのを躊躇わないくらい冷酷になったと自分でも思った。

「君は魔法を使うのか…」

辛うじて意識のある熊耳のおじさんが、痙攣しながら呂律の回らない話し方でそう言った。

右手の袖を捲っておじさんに腕輪を見せた。

2度と会わない人でも、魔法を使えるとは知られたくなかった。

「その力をハルツに…」

………

この人は何言ってるの?

たった今私を殺そうとしたくせに?

最低。

モナークもハルツも最低。

まだチェスターの方がまし。

………

帰ろう、チェスターへ。

旅はもうおしまい。

これ以上醜い者は見たくなかった。

モナークとハルツで好きなだけ殺し合うといい。

倒れてる人を踏み分け見えないように家の裏に回ってから、迷わず10の町へと転移した。




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