温泉とダンジョン
20の町へ着いて直ぐ、老姉妹の案内で温泉のある宿へと向かった。
老舗?らしく一晩大金貨1枚は驚いたけど温泉の魅力には勝てなかった。
最初は老姉妹の顔を立てて泊めてやるみたいな対応だったけど、支払いのギルドガードから私がAランク冒険者って知ったら態度がコロッと変わった。
一月逗留する老姉妹に習って、私も一月先払いした。
翌日から湯治しながらのダンジョン攻略を始める。
この前みたいな変な冒険者パーティーも居るから、周りを警戒しながら先へ進んだ。
10階層に着くと、誰も人が居なくなった。
その先も人の気配はない。
警戒しながら進むと、10階からは弱い雷属性を使う土の魔物が出て来はじめた。
11階、12階と進むと数も増えてくる。
幸運だったのは風の魔法が効いたこと。
階毎に検索を掛けてみたけど隠しボス部屋は見付からなかった。
ならとボス部屋の前で装備を最強に変えて挑む。
ピコーーン。
ボスは1.5メートル位のはにわみたいな土の魔物で、風が良く効いた。
ポーーン。
レベルも1上がった。
ドロップは変わらずランダム装備を1つ。
今回は剣だった。
宿に戻って温泉に入って、朝と夜を老姉妹と一緒に食べて、昼はダンジョンに潜る。
その暮らしを半月続けた。
レベル60になるとスキルが2つ増えた。
voiceと擬装。
驚きだった。
voiceの、半径30メートル内に居る人たちの頭の中に私の声を届ける、って何?
まさか、集団念話とか言う?
安易には喜べない。
考えて、まず試してみてからにしよう。
もう1つの擬装も使いどころが分からない。
変装した姿を自分だと周囲に見せるスキル?
例えば魔法使いに見せたり?
そうか、もし私が魔法使えるってバレたとき姿を魔法使いにしたらそこから逃げられる気がする。
考えたら、逃げるときに使えるスキルなんだ。
ある日、老姉妹を訪ねて身なりの良い老人が着た。
その老人が老姉妹を湯治に呼んだ人物らしい。
「息子の式までによろしくお願いしますよ」
「分かってますよ」
「はいはい」
式、って結婚式かな?
老姉妹が湯治しながら機織りしてるのを初めて知る。
織り掛の布を見せて貰うと、メダルに刻まれた模様と似ていてハッと思った
「良い仕上がりだ」
老人は満足そうに頷くと、金貨の袋を置いて帰った。
じっと布を見ていた私に気付いて、老姉妹は町の外れにある神殿を教えてくれた。
「美しい神殿よ」
「1度見てきたら?」
早速行ってみよう。
何かヒントが掴めそうだと思った。
神殿はひっそりと森の中にあった。
訪れる人が居るようには見えないけど、神殿を流れる空気は清浄だった。
中を見て回って、神殿の中心でメダルを手にしてみても、残念だけど何の変化も無かった。
違ったみたい。
がっかりして天井を見たら、大きなメダルが掘られていた。
あ、もしかしたら。
その足で、転移でダンジョンに飛んだ。
10階から天井を確かめながら移動する。
あった。
11階の休憩場所には広い部屋の天井に、神殿と同じメダルが掘られていた。
見ると床にメダルがはまる溝まで見えた。
風魔法を使って、床にメダルをはめてみた。
ここの主は雷の竜だから、普通にはめに行く勇気は1%も無かった。
落雷とか怖すぎる。
メダルをはめてもダンジョンに動きは無かった。
??
違った?
諦めてボスまで行って倒す。
その時、ボスの後の壁に青いメダルの扉が見えた。
!!
あれだ。
装備を変えて、裏ボスに挑む。
ピコーーン。
裏ボスは3メートルくらいのストーンゴーレム。
こっちも風が効いた。
ポーーン。
倒してから周りを確認したけど雷の竜が居そうな気配は無くて、会えなくてホッとしてる自分がいた。
ドロップは雷のドラゴンが彫られている指輪。
裏ボスは1回きりだと諦めてたら、翌日もその次もボス部屋から裏ボスの扉は消えなかった。
裏ボスのドロップは1回だけでみたいで何回倒してもドロップは無かった。
でも経験値は美味しかったから、毎日通った。
たまにだけど私よりボスの雷の方が速い時があって、改めて雷の竜のダンジョンなんだと体感した。
裏ボスのお陰で、レベルも70まで上がった。
一応、20の町のダンジョン攻略は終了。
先払いした料金の分温泉に浸かってゆっくりするつもりだけど、その後どうしよう。
20の町から27の町まではハルツになる。
未知のハルツに不安もあって21の町へ行くか本線を進むか、決めあぐねた。
それに、チェスターに戻れるのかも不安だった。
部屋で転移を選ぶと、選択地にチェスターの町も点滅していた。
行けるっ!
選んだのは10の町のダンジョン6階。
歪んだ視界が戻るとダンジョンの中だった。
地図で10の町のダンジョンなのを確認してから、周りをぐるりと見回した。
魔物と戦ってるパーティーが近くにいて、聞き慣れた声が聞こえていた。
まさかのトーヤパーティー?
近付いてみたら、トーヤは居なくて他の4人が居た。
盾が2人にアタッカー2人。
守りが厚すぎる気がするけど、戦えてるからよし。
でもトーヤは?
その疑問は7階手前で知った。
トーヤと赤茶の金髪と、何故か盾を持ったダンが一緒に居た。
何故トーヤとダンが?
あの様子だとパーティーを組んでいるようだし。
「早く打てっ!」
ダンが魔法使いに怒鳴る。
魔法使いは余裕で魔法を唱えてる。
「早くしろっ!」
やっと唱え終わった魔法は魔物に避けられた。
この世界の魔法が声に出して唱えないと使えないんだって知ったのは、17の町から20の町への本線を戻った時だった。
ゆうに1分くらい口の中でもごもごして、えいっとばかりに杖を魔物に向ける。
これがこの世界の魔法?
見てて、知らず笑ってた。
私が使うのが炎とすれば、魔法使いが使うのは火。
その火を10倍くらいに増幅させるのが杖。
杖を使っても、魔法使いの火力は私の炎に満たない。
私対魔法使い1人なら絶対私の魔力が勝るけど、私対魔法使い複数なら…数に勝てる気がしなかった。
私も杖を使ったら?
期待したけど、私の魔力に耐える杖が無くて諦めた。
魔力を流すとパンと弾ける、とか辞めて欲しい。
取り敢えずチェスターに戻れるのは確認出来た。
それだけでも収穫だって思いながら、見付からないうちに転移で宿に戻った。
本当ならクラークさんにお礼を言いたかったけど、顔を出したらまたトーヤを任されそうで止めた。
その後、迷って21の町へ行こうと決めたのは老姉妹と別れる前日だった。
「困ったときは力になりますから訪ねてきてね」
「遠慮はなしですよ」
最後まで優しい言葉を貰って、別れるのが辛かった。
21の町までは馬車4日で銀貨6枚。
御者が獣人になった。