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ゲームの世界に転生?  作者: まほろば
17の町と20の町
39/95

老姉妹



19の町への馬車を恨めしく見ながらがっくりした。

17の町から20の町へ着いたのはついさっき。

魔法使いも目の前で観察出来たし良い旅だった、とついさっきまで思ってた。

なのに…、何故か19のイベントがグレーに。

何故?

ちゃんとポーションを渡して小瓶を貰ったのに。

どこで間違えたのかも分からなかった。

兎に角19の町へ行かないと。

気持ちは19の町までの2日が勿体無いと思ってて転移を使おうか迷っていた。

また最初からイベントやり直し?

へのじになりそうな口を引き上げて、試しに転移を使った。

どっちかの馬車が着たタイミングで客に紛れれば…。

見ると2台の馬車が乗り場に到着していた。

よっし。

気合いを入れて宿へ入る。

宿の夫婦は私を覚えてないらしく、普通に料金を払って個室がとれた。

懲りずに確かめると、まだイベントはグレーだった。

また初級ポーションの人助けから?

部屋で時間を潰していると、外に馬車の音がした。

「急病人だ!誰か初級ポーションを!」

イベント発生を確かめて行ってみると、外の荷馬車に見覚えのある女性が寝せられていた。

あの人は確か15の町の金持ちの所からの出戻り?

何故19の町に?

もしかだけど、このイベントはエンドレスなの?

嫌だけど宿の夫婦へ初級ポーションを渡した。

今回は渡しただけでイベントクリアになった。

連れてきた人からのお礼だとまた小瓶3つを宿の夫婦に手渡されおしまい。

「本当にありがとう」

宿の夫婦からも、お礼の気持ちだからと端に花を刺繍したハンカチを貰った。

お返しに小瓶を1つ手渡した。

これでもイベントがグレーになったら、残念だけどクリアは諦めるしかない。

グレーになる度に飛んでくるのは無理があるもの。

翌朝食堂へ行くと昨夜の話を泊まり客がしてた。

我が儘がすぎて戻った村から追い出し、19の町の近くの村を拠点にしている冒険者に持参金付きで嫁がせたそうだ。

あれから10日?2週間くらいの間に色々あったらしく、話す顔もうんざりしていた。

お疲れ、と思いながら馬車の時間を待った。

「お客さんは20の町へ行かれますか?」

そう尋ねてきた宿の夫婦に頷いて見せた。

宿の夫婦は知り合いの老婦人2人を一緒に20の町へ連れていって貰えないかと頼んできた。

少し離れた村に住んでる老姉妹で20の町に湯治へ行く処らしい。

湯治?

え?温泉があるの?

湯治に温泉は絶対無くてはならないものだ。

20の町に温泉があるなら、私も泊まりたかった。

『ご一緒します』

紹介された老姉妹は双子に見えるくらいよく似ていて穏やかな笑顔の2人だった。

各々ハルとナツと名乗った。

「よろしくお願いしますね」

お喋り好きな老姉妹2人との短い旅は不安もあったけど、にこにこのお喋りは苦痛にならなかった。


その日の20の町への乗客は8人で、荷台は冒険者に見えない青年だった。

今回は4人組冒険者パーティーが後の馬車に居た。

「ルアンさんは冒険者なの?」

老姉妹の問いに頷いた。

「女の子には辛い仕事じゃないかしら」

老姉妹の心配そうな素振りに悪意は見えなくて、本気で心配してくれていると感じられた。

それがちょっとこそばゆい。

急に他人から気遣われて、酷く居心地が悪かった。

夜になって夜営地に着く。

焚き火を囲んで夕食を食べ、静かに夜はふけた。

「一緒に馬車の中で寝たら?」

老姉妹の誘いを遠慮して、馬車の下に入ってマントにくるまった。

その真夜中、忍び寄る気配に目が覚めた。

ハッとして馬車の下から転がって飛び出した。

強盗?

心臓が痛いほどなって酸欠になりそうだった。

暗闇に見えるのは爛々と光った目で、それが四方から4つ自分に向いていた。

「ちっ!」

魔物じゃない!

それは人間だった。

「大人しくすれば殺さないでやる」

は?

何言ってるの?

ぞわぞわと体から汗が出た。

その時やっと自分を囲んでいるのが冒険者パーティーの4人だとようやく気付いた。

気付いたけど襲われる理由がまるで分からなかった。

「逃げても無駄だぞ」

捕まえようとしてくる手を叩き落とす。

飛んで距離をとり剣を抜いた。

次に素早く腰の袋から雷の腕輪を選んで身に付けた。

「およしなさいな」

「もてない男が4人がかりで女の子を襲うなんて」

「恥ずかしすぎますよ」

!!

えっ!!

「ばばぁは黙ってろ!」

「そうはいきませんよ。か弱い女の子を4人で襲うなんて許されません」

「私たちを殺して口封じも考えているようですが、私たちが無事に着かないとあなた方が疑われますよ」

「老婆の1人や2人居なくなろうが分かるものか」

「それは違いますよ。こちらは20の町の金持ちの招待で湯治に行くところですからね」

「私たちが無事に着かないと人騒ぎ起こりますよ」

「ああ?なるかっ!」

「なりますよ。私たちが織る布が欲しくて湯治に招待するくらいですもの」

「私たちが無事到着しなかったら金持ちはどうするでしょうねぇ」

「そちらの態度次第では未遂で見なかった事にしても良いんですよ」

「ちっ!」

冒険者パーティーも脅しの効かない老姉妹には形無しだった。

「お嬢さん。剣をしまって馬車へお乗りなさい」

「今夜は私たちが守ってあげますからね」

………

『ありがとうございました』

馬車に落ち着いてからお礼を伝えた。

まさかの展開に着いていけてなかった。

まかさこんな地味子を…。

老姉妹は冒険者パーティーを見た時から感付いていて、宿の夫婦に何かあったらと伝えてあったらしい。

「何も無くて良かったわ」

『ありがとうございました』

「もしかしたら、あなたはチェスターからのお客さまじゃないかって2人で話してたの」

…え?

老姉妹は、宿で私を見て直ぐそう思ったらしい。

「ご免なさいね。黒髪に黒い瞳の人は多いけど、あなたほど黒い人は少ないわ」

??

言われてる意味が上手く掴めなかった。

「あなたはチェスターから着たのでしょう?」

返事が出来なかった。

「警戒させてしまったわね」

「私たちの村にチェスターから着た人が住んでいてね。その人が話してくれたから知ってるの」

「あなたはチェスターからの人かしら?」

引き気味に頷けば、やっぱりと満面の笑顔を2人の老姉妹に向けられた。

「チェスターは特別な国なのよ」

「あら…、あなた知らないの?」

え?何を?

訳がわからず2人の老姉妹を交互に見てしまった。

「チェスターはね『神の箱庭』と呼ばれる国なの」

神の箱庭?

「神の祝福を受けた国だと思ってね」

老姉妹の話を纏めると、チェスターは神の力に護られた国でお伽噺の国らしい。

「チェスターの時は止まっていると言われてるわ」

「毎日同じ朝が始まるの」

??

「チェスターの国民は年を取らないのよ」

!!

老姉妹の話は驚きだった。

チェスター国と11の町の間には神の結界があって、それを通れた人は今まで数人らしい。

え?

でもあの無口な盾の子も、前に入ってたパーティーのメンバーも11の町に来れたって…。

彼らも稀な人なの?

この世界で、チェスターは現実の国であって現実の国じゃない国らしい。

多分ゲームの設定からそう思われてるんだろう。

11の町の人には10の町や8の町への馬車が見えないと教えられ、何故かストンと納得できた。

「来れても戻れない人もいるのよ」

えっ!

戻れない?

チェスターに?

「チェスターを出てから変わったことはない?」

「身長や髪が伸びたとか」

え?

「チェスターを離れると、それまで止まってた時計が動き出すから年を取るわ」

あ……。

確かにこの1年で、髪が伸びたり身長が高くなった気もしてる。

え、それって…。

「チェスターには子供がいないのよ」

「死んでしまう人がいないんですよ」

…見たこと無い。

チェスターに子供はいなかった。

それって同じ朝が繰り返されるから?

チェスター国の人は何故死なないの?

混乱して体が震えていた。

「落ち着いてね」

「旅が落ち着いたら1度チェスターに帰ってみるのも良いと思うわよ」

「困ったら連絡してきてね」

「うちの村にはチェスターからの人が住んでいるから力になれると思うわよ」

老姉妹はそう言って村の名前を書いたメモをくれた。

『ありがとうございます』

私もギルドガードを出して、困ったときはギルドに言伝てしてくれるよう伝えた。

「あらっ、Aランクの冒険者さんなのね」

「強くても女の子だから無茶しないのよ」

老姉妹の言い方に笑いしかなかった。




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