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冒険者ギルド



この辺りのはず…。

柄の悪そうな人たちを避けて、食べ物が腐った臭いのする路地へと曲がった。

マスクが欲しい。

目指す奴隷商店が見付かる前に、この臭いで挫折してしまいそう。


思えば朝から最悪だった。

いきなり夜中の路地に飛ばされたり、冒険者ギルドに行ったらカウンターのおじさんに「喋れないヤツを冒険者に出来るか」とか言われて追い出されたり。

それを聞いてた冒険者から「喋れないなら奴隷を買って代わりに言わせればいい」って教えられなかったら途方にくれてたよ。

でも読み書き出来る奴隷っているのかな?

値段もあるし。

ゲームの時は最初からソロでプレーしてたから、奴隷とか見もしなかった。

プレーヤーの中には奴隷を複数人買ってパーティー組んでる人もいたけどそれはホントに少数で、大半はプレーヤー同士でパーティーを組んでいた。


やっと見付けた奴隷商店の店主に、筆談で奴隷を買いたいと伝える。

店主が奴隷を買ったことがあるかと聞いてきたから、これが初めてだと伝える。

どんな奴隷が必要なのかと聞かれて、冒険者ギルドで登録の手続きを手伝える者をと希望を伝えた。

店主は大半の冒険者は代価は高いが戦える戦闘奴隷を買うと言う。

薦められたけど戦闘奴隷を買うのは抵抗があった。

それに、もし自分が戦えなかったら生きる手段も変わってくるし…、なので最初の希望を繰り返した。

条件に合うのは2人。

人間の20才くらいの青年と、犬みたいな耳をはやした青年だった。

実際に奴隷を目の前にしても、不思議と人を買うって意識は無かった。

私的にはゲームの中のイベント感覚で、奴隷設定のNPCを買う気持ちだった。

人間の青年は大金貨3枚、犬耳の青年は大金貨8枚。

思ったより安かった。

この世界のお金は銅貨、銀貨、金貨とその上の大金貨が主に使われてる。

銅貨は1枚約100円、銀貨は1枚約1000円、金貨は約10000円、大金貨は約100000円。

その上には金を板にした物や金の伸べ棒もあるけど、そんな大金を扱うのは1部の豪商だけだから私には関係ない。

値段の違いを聞いたら、人間の方が弱くてすぐ死ぬからとか恐ろしい返事が返ってきた。

小説で読むように奴隷は主に絶対服従だと思い込んでいた私は、単純に安い方を買うことにした。

その時は冒険者登録で頭が一杯になっていて、登録した後の事なんて全然考えてなかった。

店主に言われるまま奴隷の首輪に魔力を通して契約を終える。

どうしても命令に従わなければ首輪に魔力を流せ、と言う店主の親切な忠告を、無知な私は右から左に流してしまっていた。


奴隷の名前は『ロキ』。

ロキに冒険者ギルドに行って登録するのを手伝って欲しい、と伝えるとバカにしたように笑われた。

「話せないのか」

何故かロキの笑い方に小学校の時の記憶が甦って、凄く嫌な気分になった。

そんな気持ちで奴隷商店を出ると、ロキは私の前をさっさと歩きだした。

喋れないから止めることも出来ない。

ロキはあちこちの屋台で、あれが食いたいあれが飲みたいとごねる。

奴隷はみんなこうなとかとうんざりしながら、言われるまま買い与えた。

どうにか冒険者ギルドに着いて受付に行けば、朝のおじさんじゃなくて綺麗なお姉さんに変わっていた。

ロキを促しても知らん顔。

腹が立って、ちゃんと話すように書いて突き出してもロキはニヤニヤ笑いながらそっぽを向いた。

そんな様子を見ていたお姉さんが話し掛けてきた。

「話せないのかしら?」

頷いた私は泣きそうになっていたと思う。

「用件を聞いてもいい?依頼を出したいの?冒険者登録かしら?」

お姉さんが優しい笑顔で聞いてくれたので、筆談で冒険者登録をして依頼を受けたいと伝えた。

お姉さんは私が腰に差してる剣を見て、登録は「剣士」で良いかと聞いた。

他にも職種があるのかと首を傾げていると、登録の職種は剣士と狩人と魔法使いがあると指を折りながら教えてくれた。

特に魔法使いは極々少数なので戦争の時の為に国に登録する義務があるらしい。

話を理解した瞬間、ざーっと血の気が引いた。

魔法で戦争なんて…。

思わずカウンターから1歩下がる。

そんな私を見て、お姉さんは笑いながら魔法を使えるのは金髪の人だけだからと教えてくれた。

動揺を隠して「剣士」と書いて見せる。

頷いたお姉さんはロキの顔と首輪を見てから、もう一度私を見てきた。

きっとロキの態度が気になったのだろう。

朝のおじさんとの事とロキを買った訳を手短に書いて見せた。

無心でペンを走らせていたら、動揺していた気持ちも次第に落ち着いてきた。

一方私の説明を読んだお姉さんは、凄い顔でギルドの奥を睨んでいた。

「直ぐにカードを作るわね。奴隷の冒険者登録もするのかしら?」

私がキョトンとしてしまったので、お姉さんは苦笑して私に言った。

「新人さんは薬草採取の依頼からよ」

私がこくこくと頷いたの見て、お姉さんはカードを作りに行った。

そこでやっとお姉さんから言われた話を理解した。

ロキの冒険者登録かぁ。

ロキは戦える奴隷じゃないはずだから、登録はしないでおこう。

出来上がって受け取ったカードには見覚えのあるペンのマークと、見慣れないvoiceマークが着いていた。

「会話は筆談で、の印なのよ。これで何処のギルドに行っても困らないわよ」

お姉さんは優しい笑顔でそう言ってくれた。

お姉さんに何度も頭を下げて感謝を伝えてから、薬草採取の依頼書を受け取って町の外へ向かった。


町の出口には門番が2人立っていた。

チラリとロキと首輪を見たけどそれだけだった。

門番の仕事は不審者を町に入れないことだから、すんなり外に出る。

ロキは文句を言いながら嫌々着いてきていた。

本当なら、戦闘奴隷じゃないロキは宿で休み薬草採取にも同行しないらしい。

ずっと文句ばかりのロキにうんざりする。

大金貨3枚は痛いけど、このまま嫌な思いをし続けるくらいなら奴隷商人に契約を解除して貰って別れようと本気で思った。

手早く薬草を集めていると、ロキが何かを見付けたらしく右前方へ石を投げた。

ボコッ。

嫌な音がしたと思ったら、水色のスライムが5匹も飛び出してきた。

予想外に数が多かったのかロキも慌ててる。

「お前主だろ!さっさとやっつけろよ!」

ロキは叫びながら町の方へ駆けて行ってしまった。

ふざけるなっ!

いくら叫んでもそれは声にならない。

しゃがんだ格好から動けない私に、スライムが襲いかかってきた。

戦闘はオートなんかじゃなかった。

スライムが私めがけて体当たりすると、左の二の腕の皮膚が切れて血が出た。

血を見たショックからその場にしゃがみこむ。

呆然と流れる血を見ていた私に、3匹のスライムがタックルしてきた。

体を襲う衝撃と痛みに意識が飛びかけた。

このままだと死ぬ!!

気が付けば、剣を抜いて目の前のスライムに斬りかかっていた。

取得している職種とスキルのお陰だろう、頭で思ったように体が動いた。

命がけの戦闘が終わって、スキル画面の回復魔法をタップする手が止まった。

ここで魔法を使ったら…。


傷だらけの姿で町へ戻ると、ロキが町の入口で門番の隊長と待っていた。

奴隷だけ戻ってきたのを不審に思って、足止めしていたと説明された。

何故ロキだけ先に戻ってきたのか、と問い質されて筆談で理由を伝える。

私が話せないと知ると、隊長はロキを買ったのはどこで何時買ったのかを怖い顔で尋ねてきた。

ロキを買った時の控えを見せながら奴隷商店の名前と買ったのは今日だと素早く書いて隊長に伝える。

隊長は頷いて近くの薬屋の店主に冒険者ギルドに連絡して奴隷商人を連れてきてくれるように頼んでいた。

隊長は私の目を見てゆっくりと話した。

「奴隷への命令は言葉で伝えないと意味がない」

…え。

冒険者から聞いた話を隊長にすれば、からからかわれたんだろう、と笑われた。

「だから、嘗められる」

隊長が不貞腐れているロキをジロリと睨んだ。

ロキのにやけた顔で自分の愚かさを知った。

そうなのか…、ロキは最初から命令出来ない私を嘲笑ってたんだ。

「奴隷商人が故意に教えなかった可能性もあるがな」

唖然としてる私に、買った当日なら奴隷を返品できると教えてくれた。

ロキを買った時に奴隷商人が言っていた奴隷が言うことを聞かないなら首輪に魔力を流せの意味を、この時やっと理解した。

契約した主が言い付けに背く奴隷の首輪に魔力を流せば、強い痛みがその奴隷を襲うらしい。

「今ならその奴隷を売った奴に戻せるが」

私は直ぐ『戻す!』と書いて隊長に見せた。



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