2つの出会い
翌朝、朝食を食べに食堂へ行くと宿屋のおじさんからおいでおいでと呼ばれた。
おじさんは隅のテーブルに置いてある食器の山を指して、13の町の宿屋へ届けて欲しいと言った。
「家で半分使うから残りの半分を届けてやってくれ。13の町の宿屋の主人は私の弟なんだよ」
頷いて小さい魔法の袋へ届ける分の食器をしまった。
朝食を食べながら確認すると13の町のお届け物クエストが点滅していた。
お昼のお弁当を受け取って乗り場に行くとあの6人パーティーが乗り合い馬車を待っていた。
御者に荷台を指すと、満員だと断られた。
仕方無く通常の料金を払う。
13の町まで馬車3日で銀貨6枚だった。
乗客は11人で荷台1人。
不敵な御者の笑いにカッとしたけど、言っても無駄なのは 嫌でも分かった。
今回も太ったおじさんとおばさん2人で1台で、私は冒険者パーティーと2台に分乗だった。
怪我のせいか6人は口数も少なく苛々していた。
何か様子から私に怒っているような気がするけど殆んど絡んでないから、怒る理由が分からなかった。
最初の休憩のあと、パーティーのリーダーがムッとした顔で聞いてきた。
「宿屋に泊まったんだ」
ムッとしてる理由が分からないけど頷いた。
「金あるのかよ」
昨日文句を言ってた冒険者が舌打ちした。
ああそうか。
彼らも私を下に見てたのか。
「晩飯恵んでやろうと思ってたのに来ないしよ」
え?
「俺らが野宿してるのに、喋れない奴がぬくぬくベッドで寝るとか有り得ねぇ」
彼は何が言いたいのだろう。
6人なら討伐依頼も受けれるからパーティー資金の不足は考えにくいし。
彼らが何を言いたいのか全く分からなかった。
「何で金がある」
え?
ポカンとリーダーを見返してしまった。
「聞いてるのか?」
『クエストと討伐をしてるから』
頷きながらメモを書いて見せた。
「この町の何処に依頼があるって言うんだ」
11の町で受けた依頼と、宿屋のおじさんから受けた依頼をリーダーに見せる。
「こんな依頼は見たこと無いぞ」
『あるから受けてる』
めんどくさくなりそうな予感にうんざりしてると、馬車は今夜の夜営地に着いた。
焚き火の番は太ったおじさんと私でした。
6人のパーティーは怪我を理由に馬車で寝るらしい。
おじさんに順番で眠ろうと伝えると、先に寝なさいと笑顔で言われた。
互いに先を譲り合っていたら、荷台の1人が降りてきて火の番に参加すると言ってくれた。
冒険者は22、3才くらいでシャープな印象だった。
お湯を沸かしながらお茶の袋を2人に見せると、頷いてコップを出してきた。
楽しい雰囲気で煎れたお茶は美味しかった。
「最初は私が火の番をしよう」
また最初に戻ってしまって3人で笑ってしまった。
「私は20の町で商いをしているニコルだ。今回は仕入れの交渉に町を歩いてるところだよ」
おじさんは主に洋服や小物を扱っているそうだ。
今回は布地と革の買い入れに来たと話した。
『私はルアンです。14の町のダンジョンへ行く途中です』
荷台の人は私が話せないのを知って一瞬だけ目を見張ったけど、直ぐに自己紹介を始めた。
「カレンです。私も14の町のダンジョンへ行くところです」
名前で女性だと知って、今度は私が驚いた。
ちょっとボーイッシュだけど横顔が綺麗な人だった。
「お2人ともソロかな?」
ニコルさんが凄く自然に聞いてきたからつい笑って頷いていた。
カレンも笑いながら頷いている。
「2人ともソロで潜れるなんて強いんだね」
どう答えたら良いのか分からなくてカレンを見たら、カレンも私を見ていた。
「2人のギルトランクを訪ねて良いかい?」
普通なら警戒して教えないのに、ニコルさんの聞き方がとても柔らかくて教えてしまった。
私のメモを見てカレンも同じだと頷いてきた。
「これは最強の火の番だな」
愉快そうなニコルさんにカレンも私も笑顔になった。
真夜中に出た熊はカレンが倒して魔法の袋へ入れた。
カレンの武器は2本の短剣で、戦い方が時代劇の忍者みたいでかっこ良かった。
「次はルアンが倒して」
あ…。
ゲームの世界に来て、初めて名前を呼ばれたと気付いたら妙に胸が熱くなった。
カレンに返事をしてなかったと慌てて頷いた。
そして明け方、襲ってきた熊は私が倒した。
日が上り朝食のあと馬車に戻ると、馬車で眠った3人がきつい目で私を見てきた。
「お前強いんじゃん。荷台の奴も」
夜中のバトルを見ていたらしかった。
「何で狼の時助けに来なかったんだよ」
『狼はあなた方パーティーの獲物』
「苦戦してたんだから助けるのが普通だろ」
「狼の毛皮があれば宿代くらい楽に払えたんだ」
じっと3人を見て書いたメモを見せた。
『獲物は倒した人の物』
「最初俺たちが戦ってたんだ。貰う権利がある」
ため息が出た。
そんな屁理屈は通用しない。
彼らが強気でこんな態度に出るのも、相手が話せない私だからだ。
いい加減うんざりしてきて、走ってる馬車の扉を開けて荷台へ飛び移った。
3人は慌ててたけど知らない。
カレンはニコルさんたちが乗ってる前の馬車の荷台にいた。
荷物の隙間で眠っているらしい。
私も隙間を見付けて昨夜の寝不足を補った。
ダンの時で荷台に乗るコツは掴んでたから、揺れに任せて昼まで普通に寝られた。
御者の昼食の合図で目が覚める。
起き抜けで暫くぼんやりしてて、荷台から下に降りるのがめんどくさかった。
見るとカレンも荷台の上で昼食にしていた。
目線が合ったタイミングでオレンジに似た果物を投げるとウインクが返ってきた。
夕方夜営地で焚き火に火を着けていたら、6人が携帯食を持って馬車から出てきた。
「今日は俺たちも火の番に参加する。そして獲物は参加したメンバーで平等に分けよう」
平然と言うリーダーにニコルさんも苦笑していた。
「熊は強敵ですよ」
「だから8人でかかれば楽勝でしょう」
「そうなると8人で頭割りするんですか?」
ニコルさんが穏やかに確認した。
…それって得するのはパーティーの6人だけじゃ。
唖然としてたらカレンが立ち上がった。
「私は断る」
すたすたと荷台に戻るカレンを追って、私も戻った。
「何でだよ!俺たちだけに押し付けるのかよ!」
口々になじる6人にニコルさんが聞いた。
「あなた方は冒険者のルールを押し曲げて2人の女性を危険に晒すのですか?」
「え?」
ニコルさんの言ってることが理解できないらしく、騒いでた6人の動きが止まった。
「今熊や狼が出たらどうするんです?あなた方は身軽ですから荷台に飛び上がれば難を逃れるでしょうが、それが出来ない女性たちはどうするんですか?」
「そ、そんなの馬車の中に居れば良いじゃんよ」
「熊が扉を叩き壊して中の乗客を襲った惨事がいくつもあったじゃないですか」
「うっ…」
「火の番は彼女たちにお願いして良いですね?」
こうなれば6人も頷くしかなかった。
その夜は静かな夜で1度も襲われることなく朝を迎えた。