イベントと何かの兆し
お風呂に入って戻ったら袋は無くなっていた。
イベントが始まった。
ホッとしながら部屋で待つ。
前回は女の子とお姉さんだった。
女の子が自分たちの部屋と間違えて入ったらベッドに可愛い袋があって手にとってお姉さんに見せに行ったら怒られてお姉さんと一緒に謝りにきた。
今回はどんな設定なんだろう。
それから1時間くらい経って、やっとドアがどんどんとノックされた。
ドアを開けると兵士とウサギ耳の子供が立っていた。
兵士の手にはピンクの袋が掴まれていた。
ドアから死角になってる所にもう1人兵士がいる。
この展開は今までなかった。
招いてないのに兵士たちはずかずか入ってきて、部屋を見渡してから私を見た。
私はまだドアの取っ手を右手で持ったままだった。
男の子は兵士に右手をがっしり捕まれていた。
嫌な予感がする。
「この袋はお前の物か? 」
うん、と頷いた。
「中の武器は?」
『10の町のダンジョンのドロップ品』
「喋れないのか」
ニヤリと笑った兵士の顔に背中がぞわっとした。
「このガキが袋を持って走ってたから捕まえたんだが。盗まれたんだな」
『違う、あげた』
ドアを足で押さえて、メモに書いた。
子供を助けないとあの獣人の奴隷と同じになる気がして、必死だった。
「こいつは盗んだと言っていたぞ」
『あげた』
「この袋をじゃあどこから買ったか言えるのか」
メモに買った店を書いた。
「調べてやる。これは証拠品として持っていくぞ」
『その子は返して』
頷きながら走り書きのメモを見せた。
兵士は子供を投げるように押し付けてきた。
子供を何とか抱き止めてホッとしてたら、宿のおかみさんが兵士が空けたままのドアから怒った顔で入ってきた。
「こんなみっともないトラブルは初めてだわ。可哀想だと思って雇ってあげたのに。あなたもこの子の仲間なんでしょ、この子を連れてさっさと出ていって!」
おかみさんに説明する事も出来ずに追い出された。
呆然と立っていたら今度は子供に手を引っ張られた。
「せっかく俺が取り返したのに!お前じいちゃんの店の袋盗んだんだろ!」
子供は興奮していて私の話を聞きそうもなかった。
この世界でも…話せないだけでこうなんだ。
泣きたい気分なのに笑いになった。
子供にぐいぐい手を引かれてどこかの家の前まで釣れてこられた。
きっとここがこの子のお祖父さんの家なんだろう。
「じいちゃん!じいちゃん!泥棒捕まえてきたよ!」
お祖父さんの家のドアも開いたけど外の家のドアも開いて、ぞろぞろ出てきた。
やっぱり…。
子供がお祖父さんと呼んだのは鞄屋さんのおじさんだった。
売って、子供に取り返させるつもりだったんだろう。
話せない私の話なんてどうせ誰も読んでくれない。
好きにすればいい。
「泥棒はこの女か!」
「そうだよ!」
がっしりした狼?の耳の青年が私の襟首を捕まえた。
抵抗はしかなった。
「その子はお客さんだ」
おじさんはそう言って私を持ち上げた人に下ろす動作をした。
「だってこいつ人間なのにじいちゃんの袋持ってたんだぞ!」
「私はこの子に大金貨190枚で大少2つの袋を売ったんだよ」
「だって…、じゃあ何でそう言わないんだよ!言えばあんな兵士に袋を持ってかれなかったのに!」
おじさんは悲しそうに子供の頭を撫でてしゃがんだ。
子供と目を合わせてゆっくり言い聞かせる。
「言わないんじゃない。言えなかったんだよ」
もう一度子供の頭を撫でて立ち上がると、私にすまないと頭を下げてくれた。
「じいちゃん!」
「まだ分からないか?この子は話したくても声が出ないから話せないんだよ」
「えっ!」
子供や周りの人が驚いた表情で私を見た。
「孫が迷惑を掛けてすまなかったね」
ううん、と首を振った。
「兵士に袋を取られてしまったのかね?」
困って子供の方を見た。
あれはイベント用だから無くなってもかまわない。
頷けば子供が怒られる気がして書くのは躊躇われた。
「孫を気遣ってくれるんだね。ありがとう」
ううん、と首を振ってそこから立ち去ろうとしたら、子供にまた手を引っ張られた。
「俺のせいで宿を追い出されたから泊まるとこ無いんだろ?家へ泊まれよ」
子供から話を聞いておじさんも泊まるよう言った。
町を出てテントで寝るつもりだったけど、おじさんの親切な誘いに頷いた。
おじさんの家でお茶をご馳走になって、お客さん用の部屋へ泊めて貰った。
子供はここの少し先に両親と住んでいて、この家にはおじさんだけで住んでいるそうだ。
おじさんから柄の違う小さい袋を貰った。
中に何か入っていた。
「君は10の町のダンジョンはクリアしたのかな?」
少し悩んで頷いた。
「炎の剣を手にしたのかい?」
少し悩んで、鎧の中から大きい方の魔法の袋を出して、その中から出したように見せて炎の剣を出した。
「そうか。君は女の子で子供だから肩にかけてたら盗まれかねないよね」
うんと頷いた。
「久し振りに見たな」
おじさんは優しい目で炎の剣を見ていた?
「君はパーティーを魔法使いと組んでいるのかい」
心臓がドキドキしてるけど頷いた。
『親切な魔法使いさんが1日だけ組んでくれた。6階までソロで行けたから』
「そう、良かったね」
おじさんを騙してる気がして、小さく頷いた。
「袋の中に14の町に住んでる友人の住所を書いたメモと手紙が入ってるからね。ダンジョンに潜るならヒントをくれると思うよ」
驚いた。
もしか…したら、ってちょっと思ってたから、それがホントになるなんて…。
「あと、これをあげよう」
おじさんは透明なガラスのブローチくれた。
「なるべく見えるところに着けておきなさい。獣人がこれを見たらきっと助けてくれるからね」
私はブローチを握り締めてしっかり頷いた。
寝る前にステータス画面を見るとイベントクリアになっていた。
翌朝早く表が喧しかった。
おじさんの後ろから外に出ると血だらけの獣人がわめきながら暴れていた。
暴れてるんじゃない、痛みにのたうち回ってるんだ。
急いで上級ポーションを出しておじさんに渡す。
暴れてて私では飲ませられないから。
「良いのかい?」
『私が作ったからタダ』
迷ってるおじさんに書いて見せた。
「えっ!」
4人がかりで押さえて飲ませる。
見ると首に隷属の首輪がはめられていた。
ポーション1つじゃ足りなくて血が止まらない。
こうなったら…一か八か、首輪に触って心の中で《解呪》を唱えた。
隷属の魔法は解けても首輪は外れない。
鍵開けを試す。
1拍おいて首輪が外れた。
暴れていた獣人は意識を失ってぐったりしていた。
「…何が起きたんだ?」
そこにいる人みんなが見てくるから、急いで書いた。
『鍵開けを試して…』
「鍵開け?ダンジョンの鍵付き宝箱を開けるあれか?」
うん、と頷く。
「鍵開けか…、首輪を外すのに3分くらいだったか」
「そうだな。一人一人外していくには時間が掛かりすぎし鍵開けの技術を持ってるやつが少なすぎる」
「しかし外す手掛かりは掴めた」
「ああ、彼女に感謝しないとな」
そんな会話をしていた所に人が走ってきた。
急いで来たらしく息があらい。
「いたっ!」
丸い耳の獣人に支えられながら走ってきた人が言った。
「1の町にっ!」
「やっと…やっと見付かったか、今日まで長かった」
「御様子は?」
「閉じ込められていたから足腰は弱っているが他は心配ないそうだ」
「2日後には黒鷲部隊が王都までお連れする」
「これで勝利は俺たちのものだ!」
1人が叫んでから、みんなハッとして私を見た。
「この子が1の町で見たと教えてくれたんだよ。話せないことで人の中で辛い目にも合ってる。この子は誰にも話さないよ。ね?」
おじさんは穏やかに笑ってそう言った。