トラブル2つ
早朝から町を歩いた。
次の町までの足りない物を買いながらのんびり歩く。
冒険者ギルドと鍛冶屋と乗り場と宿を往復するだけの毎日だったから出ていく前に見て回りたかった。
そう言えば…この町のクエストってダンジョン攻略だって思ってたけど、ボスのドロップを出せなかったらクエスト完了にならないよね?
ステータスから10の町のクエストを見たらミミックがドロップする氷の防具だった。
慌ててアイテムボックスの中を捜すと幸いにも2つ入っていた。
パーティークエストは6階の狼3匹討伐だった。
その足で依頼を受けて納品する。
町を出る前に思い出して良かったと独り思った。
買い物の最後に、お菓子の仕入れと明日の乗り合い馬車の時間を確かめに乗り場に行った。
そこには鍛冶屋のおじさんが鬼のような形相で私を待ち伏せていた。
「何故売りに来ないんだ」
『乗り場の噂を聞いた。おじさんが11の町から魔法使いが来たら知らせろと頼んでいることを』
おじさんはばつが悪そうにそっぽを向く。
『その魔法使いから直に買いたいと言ってることも。居合わせた本人がもうこの町には来ないと言った』
「また次からはお前から買う!それなら良いだろう。そう頼んでくれ!」
大声で怒鳴るおじさんにノーと首を振って書いた。
『もう連絡がつかない』
「そんな、もう前金を貰ってるのに…」
呆然としてるおじさんをその場に置いて、明日の乗り合い馬車の時間を確かめるとすぐ帰った。
嘘をつくからそれを隠すのにまた嘘をつく。
嘘は負のループだと思った。
凹みながら宿に戻ると、私を訪ねて来た人を食堂に待たせていると言われた。
食堂に居たのはトーヤだった。
何故?一番にそう思った。
「やあ、元気そうだね」
トーヤは自分が着いたテーブルに私を手招きした。
「君がまだ居てくれて良かったよ」
『どこからここを?』
座って素早く書いて見せた。
トーヤが1人で来たのも私を警戒させた。
それに、他のメンバーは?
「冒険者ギルドで話せない女の子って聞いたら受付のおじさんが直ぐ教えてくれたよ」
話せない女の子…。
トーヤにとって私はそう言う存在なんだろう。
その私に何の用が有るか分からない。
最後に8の町で別れてから…、半年以上過ぎていた。
「この宿に泊まってるって事はこの町のダンジョンで稼げてるんだよね?」
『ソロだから6階までしか行けなくても採算があう』
警戒しながら頷いてメモを見せた。
「えっ!6階までなの?」
トーヤは驚いてから独りぶつぶつ言っていた。
「パーティーならそれより先に行けるよ。俺たちと組めば良いじゃん。ね、そうしようよ」
強引な誘いにノーと返した。
何かトーヤが焦ってるように見えた。
『他のメンバーは?』
「疲れて宿に居るよ」
今日着いた?
それにしてはトーヤの装備や足回りが汚れていた。
「分かった、話すよ」
トーヤは肩をすくめて話し出した。
7の町のダンジョンで予算最低額の資金と防具と実力が上がったから、次はこの町のダンジョンで資金を稼ごうと攻略に来たらしい。
昨日この町に着いて、今朝から潜ったが散々に遣られて昼前に逃げ帰ってきたそうだ。
そこで思い付いたのが私で、聞いたらまだ居たからパーティーに誘い込もうとしたと言ってきた。
やっぱりか…。
予算最低額って…、私独りでも貯めるのにかなり掛かったのに4人なら宿代とか食費も4倍かかるし単純に差し引きしても半年じゃ貯まらない計算だと思う。
嫌な予感しかしない。
4の町のダンジョンの苦い経験も思い出された。
『明日11の町に行く予定』
「えぇー、もう少し居なよ。せめて後1週間」
ノーと断る。
「1週間だけ俺のパーティーに入ってよ」
お願いと諦めないトーヤに最後は根負けした。
リリカやあの4人と同じくトーヤも私がイエスと言うまで止めないのだろう…。
押されてばかりいたらさっきの二の舞だ。
私が出す条件をトーヤが飲むなら1週間パーティーを組むとトーヤに伝えた。
「条件って?」
『パーティーリーダーは私』
トーヤのパーティーに入ったら1週間経っても外さない不安があるから。
トーヤは嫌な顔をしたけど、それが嫌なら組まないとキッパリ伝える。
「それで良いよ」
渋々なトーヤの言動は何故かリリカと被って見えた。
トーヤに急かされて冒険者ギルドへ向かう。
受付はおじさんだった。
お姉さんは奥に居た。
「パーティー申請を」
「カードを出しな」
トーヤがカードを出すと、おじさんは私にも手を突き出した。
「早くしろ」
私は違うと首を振った。
『私がパーティーリーダーでパーティーを組みたい』
おじさんは呆れて私を見てきた。
「しゃべれない奴にリーダーが出来るかよ」
「やはりそうですよね」
トーヤは嬉しそうに言った。
「パーティーに入れて貰えるだけ有り難いと思え」
『パーティー規約を読んでから言ってください』
「何だと!」
威嚇されてもここで引くわけにはいかなかった。
『本人の意思に反した申請は承認不可』
おじさんが睨み付けてきても引けない。
受付で睨み合ってる私とおじさんのバチバチの空気を感じたのか、奥で話していたお姉さんとハゲ頭のおじさんがこちらに歩いてきた。
「どうかしたの?」
「こいつがいちゃもん着けてるんだ」
お姉さんの問い掛けに受付のおじさんが言い返した。
剥げたおじさんは私の書いたメモで経緯が読めたらしくトーヤの書いた書類を確かめていた。
「君はパーティーに入りたくないのかな?」
私はパーティーを組むことを承知した経緯と条件を書いて剥げたおじさんに見せた。
「これは不受理だね」
「マスター!」
おじさんが怒鳴った。
「彼女はパーティー参加を拒否してるんだろ?なら不受理は当然だよ」
「こいつは喋れないんですよ。折角パーティーに入れてやるって奴が居るんだ、有り難く入れて貰え!」
剥げたおじさんは怒ってるおじさんに奥を指差した。
何故かおじさんはムッとして奥に行った。
「うちの職員が失礼をしたね。私はこのギルドのマスターで《クラーク》。このチェスター国のギルドを総括してる。よろしくね」
『初めまして、隣の彼は私の名前を知らないので呼ばないでくださると有り難いです。私はルアンです。よろしくお願いします』
「…あの」
それまで空気だったトーヤが私をリーダーにするパーティーなら私が承知するとギルドマスターに言った。
この状況でまだ言うのか、と流石に呆れてしまった。
トーヤは、私とは友人で自分のパーティーが困ってるから助けて欲しくて強引に勧誘したと言う。
「彼とは組んだことはあるの?」
『無いです』
ソロで旅をしてると書いたらただじっと見てきた。
「旅は楽しいかい?」
『はい』
「困ったらどこの国のギルドでも良いから連絡してきなさい。力になるよ」
『ありがとうございます』
クラークさんに深く頭を下げた。
本来ならトーヤとのパーティーを拒否するところだけど今は職員も出払っていてサポートを付けられない、なので私に1週間だけ着いて欲しいとクラークさんに頭を下げられてしまった。
1週間後に冒険者ギルドが責任をもってパーティーから外すとまで言われたら断れなかった。