少年と魔獣の熊
翌朝、早めに冒険者ギルドへ行った。
依頼の防具を受け取って親子の到着を待った。
暫くして来たお母さんは優しそうな人で、子供は…男の子だった!
勝手に女の子だと思い込んでたから驚きから固まってしまって、きっと変な人と誤解されたと思う。
私も緊張してたけど男の子もガチガチだった。
母親とぎこちない挨拶をして、男の子の名前は《テリー》だと紹介された。
乗り合い馬車の乗り場まで母親も一緒だった。
お父さんにお迎えを頼んだのに、から乗り場に着くまで延々と聞かされた。
乗り場に着いても母親のお喋りは止まらない。
私は聞いてる振りで近くに検索を掛けていた。
あの4人やトーヤに依頼の邪魔をされたら困るから何度も調べた。
多分彼らが乗る乗り合い馬車の出発時間がもっと早いか遅いかなのだろう、居ない事にホッとしてテリーと馬車に乗った。
後からおじさんたちと同じ馬車だったかもの可能性に気付いて慌てて検索したのは内緒の話です。
母親は馬車が出るまで話続けたから、走り出してその姿が見えなくなってやっと緊張が解れた。
初めは馬車からの景色が珍しいから外を見てるのかと思ったけど、何か変だった。
休憩してても大人しいし、お昼も黙々と母親から持たされたお弁当を食べてた。
変だった。
大人でも揺れる馬車の旅は疲れるのに、疲れたと愚図りもしなくて静かにしている。
まるで我慢して我慢してじっとしてるみたいで。
変だった。
夜営地に着くと携帯食を食べて本を読み出した。
私は両手一杯お菓子を持ってテリーの隣に座り、本の上でばら蒔いた。
本から溢れたお菓子にテリーはビックリしてたけど、1つむいて口に入れてあげたらニコッとした。
『一緒に食べよ』
テリーは困ったように私を見て頷いた。
読んでる本の話やどのお菓子が好きかとか、仲良くなるために話題を探してテリーと話した。
テリーが自分からも話を振ってくるようになったから然り気無く聞いてみた。
『初め緊張してたでしょ?私そんなに怖かった?』
テリーはモゾモゾしながら話してくれた。
「お母さんが冒険者は怖い人ばかりだから良い子にして静かにしなさいって」
『私怖い?』
「ううん、怖くない」
『じゃあ仲良くしようよ』
「うん!」
それからの旅は楽しかった。
アイテムボックスのサンドイッチを2人で食べたりお菓子を食べたり、テリーは良く笑って良く話した。
そこの所はお母さんに似たみたい。
テリーは将来お父さんの畑を継がないで冒険者になりたいと言った。
私はダンや4人やトーヤのパーティーの話をした。
「危険なのは解るけどお姉さんも女の人なのに冒険者してるじゃん」
痛いとこを突いてくれる。
むくれるテリーに嫌だけど書いて見せた。
『話せない私には冒険者しか道が無かった』
読んでテリーはハッとしていた。
『この依頼もテリーが字を読めたから受けられた』
「ごめんなさい」
謝るテリーの口にあめ玉を入れてあげた。
『仲直り』
「うん!」
翌日は忙しかった。
何故かウサギが大量に出た。
乗り合わせた冒険者は私の他にもう1人。
2人でウサギの相手をした。
御者は売った2割をくれるならと血抜きをしたウサギを馬車の荷台に乗せてくれると言った。
私としては入れると素材になるアイテムボックスを周りに知られずに済むので直ぐその条件を飲んだ。
この先もこんな事は何度もあると思う。
その時用になるべく早く魔法の袋を買おう。
休憩の時、魔獣と魔物の違いを聞いてみた。
区別ができないと伝えたら、動物のデカいのが魔獣でダンジョンに居るのが魔物だと教えてくれた。
たまにゴブリンとか魔物が外にも居るが出るがそれは少数だと冒険者は言った。
一応頷いたけど私には良く解らなかった。
ゲームの時はダンジョンより外に多かったと思ったけど…、違うのかな?
夜は冒険者がウサギ5匹解体してくれたのでみんなで焼いて食べた。
テリーも初めてらしくみんなを真似て食べていた。
その翌日、今日は9の町に着くと疲れた乗客の顔も安堵の表情になっていた。
お昼を食べて休憩していた所に熊が襲ってきた。
普通の熊と違って目が赤かった。
逃げ惑う乗客。
冒険者も馬車の影に隠れている。
テリーを馬車に乗せて、熊と向き合った。
怖くてもここで逃げるわけにいかなかった。
振り下ろしてくる熊の手を避けて、切るより心臓を目掛けて突いた。
1度、2度、力が足りないから瞬殺とはいかなかったけど何回か頑張って何とか倒せた。
力を入れすぎてしゃがんだ私に駆けてきたテリーがしがみついて泣き出した。
「お姉さんお姉さんお姉さん!」
落ち着いてから。
『テリーをお父さんに届けるまで死ねないでしょ』
笑ってメモを見せたらなお泣かれた。
冒険者が言うには馬車に乗せているウサギの臭いで襲ってきたらしい。
熊の魔獣は血抜きをして馬車の横に縛り付けた。
重くて荷台に乗らなかったから6人がかりだった。
もうすぐ9の町とい言う所で、テリーが小さい声で冒険者を諦めると言った。
私と熊との戦いを見て戦う恐ろしさを知ったと言う。
『今でも怖いよ』
テリーに書いて見せたら驚いていた。
「怖いけど戦うの?」
震える声のテリーに頷く。
『それが生きる方法だから』
私を見てテリーが未来を考えてくれたら満足だった。
9の町は6の町に似てた、違うのは家より大きな冒険者ギルドが有る事だった。
冒険者ギルドの建物で町の雰囲気が台無しだった。
冒険者ギルドでウサギと熊を引き取って貰った。
代金は大金貨12枚。
熊は高いらしい。
金貨にしてみんなで山分けにした。
熊は私1人で倒したとみんな山分けを遠慮したけど、怖い思いをさせたからとみんなに分けた。
もちろんテリーにも。
それから無事テリーをお父さんの元へ送り届けた。
別れはちょっと泣きそうになった。
9の町に来たら寄ってと住所を書いたメモを私に握らせて絶対だよって言ってお父さんと帰っていった。
気を取り直して受付のおじさんに依頼完了を告げた。
次は10の町だ。
そう思ってたら引き留められた。
「盗賊の褒賞金が届いている。それと盗賊退治でギルドレベルがBに昇格だ」
褒賞金が大金貨300枚だったのは驚いた。
半分は盗賊を犯罪奴隷として売った代金だと言われて、ロキを思い出していた。
盗賊は腕も達し生け捕りにするのは難しい、それなのにわたしは殺せなくて利き腕を傷付けただけだったから高いと聞いて複雑だった。
カードに入ってる金額を見ていたら4人が言ってた事を思い出した。
受付のおじさんに確かめたらキチンと入金されていた。
多分これで縁が切れるだろう。
ギルドカードから大金貨150枚を引き出した。
ギルドカードでも支払いは出来ると言われたけど、屋台とかはカードの支払いだと嫌がられる。
何とか引き出して次の10の町へ向かった。
10の町へは乗り合い馬車で6日、料金は銀貨6枚。
馬車は何事もなく10の町に着いた。