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ゲームの世界に転生?  作者: まほろば
8の町と9の町
17/95

不信感



目が覚めた時、世界は暗闇だった。

恐怖で大量の空気が喉で爆発した。

声が出てたら…、絶対自分の絶叫が聞こえたはず。

胸を押さえて飛び起きた。

心臓が壊れそうなくらいどくどくしてる。

顔を上げようとするとくらくらと世界が回った。

これって…一気に魔力を使ったから?

落ち着いてきたからそーっと視線を上げていく。

見たことある四角い窓から外の明かりが見えた。

あ…、馬車の中だ。

みんなは?

よろよろと立ち上がって馬車から降りると兵隊みたいな制服のお兄さんが2人建物の前に立っていた。

「やぁ起きたんだね」

笑ってるお兄さんに若干身を引きながら頷いた。

「他の乗客は中に居るよ。案内するから着いてきて」

さっさと歩きだすお兄さんを急いで追いかけた。

私の後ろにはもう1人のお兄さんがいた。

なんか…嫌な感じがした。

みんなは広い部屋に居た。

部屋にはお兄さんと同じ制服の人もたくさん居た。

乗客1人1人に制服の人が話を聞いていた。

きっとこの制服の人たちは警察みたいな所の人たちじゃないかな?

おじさんが部屋の入口で固まっていた私に気付いてこっちだ、と手招きしてくれた。

訳が分からないままおじさんの隣に座る。

出来るならおじさんの後ろに隠れたいほどだった。

「盗賊をやっつけたのは覚えてるか?」

おじさんの問い掛けに戸惑いながら頷く。

「今その盗賊の調書を作ってるんだ」

『夢中で覚えてない』

書いて見せたら、おじさんだけじゃなくおじさんの前に座ってる制服のおじさんも頷いてた。

暫くはおじさんと制服のおじさんの話が続いた。

話の途中で馬車が襲われた理由も聞いた。

8の町の大きな商店の店主が乗り合わせていて、身代金目当てに拐うつもりで襲ったとおじさんたちが捕まえた10人が自供したそうだ。

荷台の2人も盗賊の仲間だったそうだ。

その商人と乗り合わせた夫妻の奥方の方が今回盗賊に切られた被害者だと聞かされた。

!!

一気に記憶が呼び起こされる。

切られた女性の土気色の唇や馬車の蒸せるような血の臭いに体が震えた。

両肩を掴んでも震える体は前屈みになっていた。

「上級ポーションを出したのは覚えてるかい?」

制服のおじさんが義務的にそう尋ねてきた。

頷いてから震える手でメモを書いた。

『あの人は?助かったの?』

「助かったよ。君のお陰だ」

ホッとしたら体の力が抜けた。

「君は何故上級ポーションを持ってたの?」

不思議な事を聞くなと思って隣のおじさんを見た。

聞いてくる意味が解らなかった。

「上級ポーションは1つ大金貨50枚もする。それを2つも乗り合わせた乗客に使ったからだよ」

おじさんの話を聞きながら、苛立ちを隠して前に座るおじさんをじっと見た。

「私たちはね。その上級ポーションの出所を知りたいんだよ」

制服のおじさんは優しげに見えてもこちらを疑って探る目をしていた。

「君の荷物も調べさせて貰ったけど携帯食と水袋しか入ってなかったね」

!!!

ショックだった。

例えようのないショックだった。

荷物を見たの!!

他人の荷物を勝手に見るなんて信じられなかった。

いくら警察みたいな所だって許されないと思った。

怒りで震えながら隣のおじさんを見た。

おじさんの目にも制服のおじさんと同じ光が見えた。

…すーーっと私の中で感情が消えていった。

人を信用するから裏切られる。

懲りない自分が浅はかで愚かに思えて笑いたかった。

『祖父が薬剤師なので旅に出るとき困ったら売りなさいと2本持たせてくれた』

書いたメモを2人に見せた。

おじさんはハッとして私を見てきたけど、自分の愚かさを知った今気持ちは動かなかった。

これは万が一アイテムボックスが見付かったら魔法の袋だと誤魔化すために考えてた設定だった。

魔法の袋が上級ポーションに変わっただけ。

地図から仮のおじいさんの居場所も考えてあった。

私がすらすら書くので制服のおじさんの口調も柔らかくなっていた。

『他には』

「所持金は?」

『隣の方に旅の心得を教えられましたから』

そう書いて見せてから、腰のベルトに着けてる袋を制服のおじさんに渡す。

中には整備の道具と金貨が5枚。

『他はギルドカードに』

胸ポケットからギルドカードを出してそれも制服のおじさんに渡した。

『他には』

制服のおじさんから袋とギルドカードが戻される。

「いや、手間を取らせた。手続きが終わったら盗賊検挙の褒賞金をギルドカードの方に入れさせて貰うよ」

『盗賊を倒した記憶は曖昧なので褒賞金は捕らえられた方々に渡してください』

「乗客の話を総合すると、盗賊のうち8人を倒したのは君だと解っている」

制服のおじさんは書類を捲りながら付け足した。

「それに君は盗賊を殺さず捕まえている」

『いえ、私には捕獲する余力は有りませんでした。褒賞金は辞退します』

「君が受け取らないなら他の人も受け取りにくいだろう。受け取ってくれ」

制服のおじさんはチラッとおじさんを見た。

それを見て頷く。

制服のおじさんも頷いた。

携帯食と水袋が入った袋を返して貰いその場を去ろうとしたらまた制服のおじさんに呼び止められた。

『まだ何か』

「上級ポーションの代金の返却方法をね」

制服のおじさんが30才くらいの男性を呼んだ。

その人が切られた女性の旦那さんらしかった。

「妻を助けてくれてありがとう。返済方法を…」

御礼を言う旦那さんの目元がピクピク痙攣していた。

上級ポーション2本の代金、大金貨100枚の重圧がそうさせるのだと痛いほど分かった。

『その話は別室で』

制服のおじさんが私のメモを見て、話しやすいよう個室へ案内してくれた。

「返済方法は…」

話し出した旦那さんを手で制して、代金はいらないと書いて渡した。

ここでも制服のおじさんにした作り話を繰り返した。

アイテムボックスには暇な時に作りおきした上級ポーションが大量にある。

代金を貰う気持ちは最初から無かった。

それより。

あの制服のおじさんに聞かれたら何年も払い続けると言うようにと伝えた。

もしただにした話を他の誰かから聞いたら、その時は代金を請求すると書いて見せた。

直ぐに部屋を出ると怪しまれるから、30分ほどその部屋で待った。

待ってる間に女性の怪我の状態を聞いた。

出血が多かったから今は寝てばかりだが、血が増えれば元に戻ると医者に言われたそうだ。

旦那さんの奥さん自慢に苦笑しながらもささくれてひねくれた心が温かくなった気がした。


話が終わって建物を出ようとしたら入口の制服のお兄さんにとめられた。

もう真夜中で宿も食堂も閉まってるので奥の仮眠室を解放してるからそこで休むようにと案内された。

これって強制?

8の町に家がある人は制服の人が送り届けたそうだ。

案内された部屋には見知った顔ばかり7人いた。

おじさんやおじさんのパーティーメンバーも居た。

軽く頭を下げて反対の隅に膝を抱えて座った。

おじさんは話かけたそうにしてたけど、ぐっと睨んで全身で拒否した。

膝の間に顔を埋めて、ステータス画面から8の町のクエストを確認する。

8の町の冒険者ギルドから9の町の冒険者ギルドへ預かり物を届けるのと、8の町の鍛冶屋から依頼の装備を10の町の道具屋へ届けるのか。

前の時は両方一編には受けられなくて苦労したけど今回はダイジョブみたい。

パーティークエストは剣士ゴブリンの討伐3回。

気を紛らしていたけどお腹空いた。

今食べれるのは袋にある携帯食だけ。

もう携帯食は食べたくない。

温かいパスタが食べたい!

アイテムボックスに有るのに!

朝になったら、絶対一番に食料の調達をしよう。

サンドイッチみたいに湯気の立たない物をメインに買い集めて、こっそり食べる用に温かい物を買う予定。

買い物が済んだら冒険者ギルドで宿を紹介して貰ってゆっくりお風呂に浸かってぐらぐらキテるこの気持ちを沈めなきゃ誰かに八つ当たりしそうだった。

ダンジョンのお陰で懐は暖かいし、気分転換にウインドショッピングも良いかも。

このゲームの世界に来た最初でギルドカードが砂になって大金が消えたから、怖くてギルドカードに大金は残しておけなくなっていた。

ギルドカードみたいアイテムボックスが消えたら…全力で世界を滅ぼしちゃいそう。

ダークな気分の時に考え事すると破滅的な思考に埋まってしまいそうなので止めます。

買い物行く前に残金確認しとかなきゃ。

ギルドカードに大金貨83枚。

アイテムボックスに大金貨820枚。

早く大金貨1000枚の大台に乗せたい。

やっぱり私はこつこつ貯めてにまにまにやけるコレクターなんだと痛感してしまう。

アイテムボックスの数字で、ふと昔を思い出した。

ギルドカードからお金を引き出す度に大金貨じゃなくて金の板を勧められてた。

そんな大金じゃお釣りがないってお店に嫌がられる、って何回か伝えたら大金貨で来るようになった。

後から大金貨だと数えるのが大変だと言うギルド側の事情を知って、宿屋と食堂はギルドカードからの支払いに替えた。

つい思い出し笑いが零れる。

替えたら替えたでカードがLSだからなお苦労して、それも今では懐かしい思い出だった。

笑ったら元気が出た。

全ては明日。

今日は膝を抱えて寝よう。



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