情報いろいろ
雨の中5の町へ着いた。
5の町は、とても不思議な町だった。
いえ、この町へ入るまでの景色が不思議だったんだと今更に思った。
例えるなら景色や人の姿を車の中からスモークを通して見てたような感じ。
ゲームの画面がそのままこの世界だと思ってたから多少見辛くても不思議に思わなかった。
それが5の町へ入った途端視界がクリアになった。
思わず何度も町を出入りして確かめたりしたから、もし誰かが見ていたら絶対不審者に見られたと思う。
もしもだけど、ゲームの中ではここまでがチュートリアルだったから画像が粗かったとか?
なら、ここからがゲームの始まりになるの?
私はガッツポーズして冒険者ギルドを目指した。
5の町は乗り合い馬車が出る町らしく、夜になっても活気に溢れていた。
町の大きさも始めの町くらいある。
冒険者ギルドがある大通りを私みたいにフードを被って歩いてる人たちも、この町の住人より冒険者の方が多そうだった。
地図を見たら建物100件くらいの町なのに宿屋や鍛冶屋や飲食店が半分近くを占めていた。
酔っぱらいを避けて冒険者ギルドに向かう。
到着した冒険者ギルドは夜だし雨のせいか人がまばらだった。
いつもと同じく受付のお姉さんに宿を紹介して貰う。
宿はこの建物の後ろだから夜だし裏口から行くようにと言われた。
冒険者の酔っぱらいが多いこの町の、女性に対するサービスだそうだ。
ありがとうと頭を下げて裏口を利用させて貰った。
宿は個室で1泊銀貨7枚、お風呂は銀貨6枚。
計金貨1枚と銀貨3枚。
宿泊費がぐんと跳上がった。
今日はどんな依頼があるか見てこなかったから、晴れたら見てみよう。
稼がないと。
それにどっちの道を選ぶかも決めないといけない。
鍵を貰って部屋へ行こうとしたら、時間が遅いので先に食べて欲しいと言われ食堂へ案内された。
メニューの中から食べたい物を選ぶらしい。
今までの町は座ればその日の食事が出てきてた。
色々違うなぁ、と思いながらメニューを見てたらパスタに目が釘付けになった。
パスタを指差して頼むと直ぐにミートソースのパスタが運ばれてきた。
何の挽き肉かは分からないけど美味しかった。
この町を離れる前に、これを大量にアイテムボックスへストックしよう。
翌朝、食堂の隅で朝御飯を食べていたら大声で喋る4人が外から入って来た。
宿のおばさんは嫌な顔を隠して注文を取りに行った。
朝からお酒らしい。
聞きたくなくても声が大きいから嫌でも聞こえた。
モナーク国とハルツ国が戦争する?
どちらに着くとか何?
ゲームの世界に国なんて無かったよ?
あ…、頭の中で戦争と魔法使いが繋がった。
急いで部屋に戻ってステータス画面から地図を選ぶ。
丹念に見たけど、ゲームの地図に国の場所は載ってなかった。
まず地図を手に入れよう。
冒険者ギルドに有るかもしれない。
裏口から冒険者ギルドに行って、受付のお姉さんに国が載ってる地図があるか聞いてみた。
欲しい理由を聞かれたから宿で聞いた話を伝えた。
お姉さんは大まかな地図をコピーしたようなざらざらな1枚を私にくれた。
そして、戦争の話は本当だけど、まだ公には出来ないから内緒ね。
と唇に人差し指を当ててしーーっと言った。
宿のお客は?って書いたら冒険者ギルドの職員が捕まえに行ったからダイジョブとお姉さんは言った。
貰った地図を持って部屋に戻った。
地図には3つの国の名前が書かれていた。
モナーク国とハルツ国とチェスター国があるらしい。
地図では10の町まではチェスター国とあった。
5の町から本線を行くと次は8の町でその次は11の町だから、10の町は支線になる。
3つの国の中でもチェスター国が一番領土も小さい。
その先は本線がモナーク国とハルツ国の境界線になっているらしい。
この地図では印刷が粗くて細かいところまで分からないけれど、上の方にかすれた50が読めた。
その先は…黒く塗り潰されていた。
私なら、50の町の先にある氷のダンジョンに入れる確信があった。
どうしよう。
本線を選べば最短の20で氷竜が眠る最終ダンジョンに辿り着くけど、先延ばしにしたい私の本音は本線じゃなく支線を選びたい。
現状は情報が少な過ぎてどちらも選べないけど。
それに遅々として上がらないレベルの低さが先を尻込みさせた。
翌日また裏口から冒険者ギルドへ行った。
どんな以来があるのか見たかったから。
Cランクの私が受けれる依頼は町の清掃とか薬草とか思った以上にお金にならないものばかりだった。
困る…。
まず雨が上がったら町の人の声を聞いてみよう。
5日後やっと雨が上がって町へ出た。
鍛冶屋で8の町までの装備を出せるだけ売って、整備用の油を買った。
売値は大金貨120枚、油は銅貨2枚だった。
鍛冶屋のおじいさんは戦争へ参加する軍資金のためにコレクションを売ったのかと聞いてきた。
迷っていると書いて渡したら、戦争は魔法使いに任せれば良いと苦い顔でぶっきらぼうに言われた。
若いもんが無闇に死にたがるから人が増えずに奴隷ばかり増えるんだ、とおじいさんは怒りだした。
奴隷!!
頭にロキと並んでた犬みたいな耳の青年が浮かんだ。
あの時はNPCだと思ってたから何の感情も沸かなかったけど今は違う。
おじいさんはこの国の奴隷は罪人ばかりで獣人の奴隷は極々少ないと言う。
ならロキは…。
モナーク国は人間が世界の王だと思っていて、ハルツ国の獣人を捕まえて奴隷として使っていると固まってた私に教えてくれた。
ハルツ国は獣人の国なのかと確かめると、おじいさんからそんな事も知らないで戦争に行くのかと冷たい目を向けられた。
本来獣人は能力が人より優れていて性格も温厚なので今までは争いにならなかったが、モナーク国の今度の王様は人は獣に勝ると言い出して大量の獣人を捕まえて奴隷にしたからさすがにハルツ国の王様が怒って宣戦布告をしたのだそうだ。
…それって、悪いの人間の方でしょ。
この国でも同じ人間に付く者と獣人に付く者がいがみ合っていて小競り合いまで起こっているらしい。
「お前はどちらに付く」
最後のおじいさんの問い掛けが酷く重かった。
考えながら大通りを冒険者ギルドへと歩いた。
大通りに出ている屋台は数が少なくて、食べ物より細かい細工のお土産にむきそうな品が主だった。
辺りを見ていたら、屋台のおじいさんから大通りは場所代が高いから交代で店を出すと聞かされた。
この町では乗り合い馬車が出る広場やその近くの公園に屋台が集まっているから行ってみろと言われた。
ステータスの地図を見ながらまず乗り合い馬車が出る広場に向かった。
出店は大通りと同じで旅立つ人が買いそうな品物が所狭しと並べられていた。
中にポツンとパンを売ってる店があった。
看板には細長いパンにジャムみたいな何かが塗られている絵が描かれていた。
試しに1つ買って食べてみると、イチゴジャムより甘くないジャムパンだった。
パン1つに銅貨7枚は高いけど、久し振りの味に追加で3つ買い足した。
パンを売ってたお兄さんは、11の町に行けばふわふわのパンと真っ白なクリームが一杯入ったパンも売ってると宣伝する。
クリームは日持ちしないからこのパンで宣伝してるとお兄さんは看板を指しながら上機嫌だった。
白いクリーム、きっと生クリームだ!!
何故11の町から?
疑問に思っていると、お兄さんが11の町より先には畜産の技術があると短く教えてくれた。
このチェスター国の土では牧草は育たず、家畜を連れてきてもすぐ死んでしまうのだそうだ。
干し草は…、教えてはならない気がした。
多分ゲームの設定が11の町から何だと思った。
だから装備を売るのも制限の設定で次の町の装備までしか売れなかったんだ。
次に行った公園は食べ物の屋台で溢れていた。
期待してたけど、残念ながら目新しい物は無かった。
あ、パスタだ!
きっと次の町にも何かありそう。
6の町にも、8の町にも美味しい物や目に留まる物がありそに思える。
どちらに行こうか。
6の町には馬車で2日、料金は銀貨4枚。
8の町には馬車で5日、料金は金貨5枚。
どちらも食事は自分で用意するんだと言われた。
この料金設定は食事抜きなら手頃なのかな?
乗り場で貰った紙を見ながら計算してみる。
携帯食が1食銅貨5枚、1日3食として6の町まで料金の銀貨4枚と携帯食の銀貨3枚で計銀貨7枚。
うーん、安いのか高いのかよく分からなかった。
あれ?
8の町への料金、高過ぎないですか?
食費と合わせたら金貨6枚近く掛かりますが。
馬車乗り場に戻って確認したら、盗賊の警備に冒険者を雇うから高いんだそうです。
盗賊!
隠れクエストの盗賊が発生してるの?
…どうしよう。
前は討伐報酬が高かったから喜んだけど、今は…。
人を傷付けると思うだけで吐き気がした。
決めた、6の町へ行こう。
そう決めて、食糧を買い漁った。