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蜂の巣とおばあさん



4の町へ戻るとその足で冒険者ギルドへ行った。

依頼完了。

出店で果物をたくさん買って、食べながら町を出た。

次の5の町からは乗り合い馬車が走ってる。

旅のスピードもグンと上がりそうだけど、ラストダンジョンを知ってるから先を急ぎたくない。

そんな矛盾した感情が私の中でぐるぐるしていた。

5の町までは5日。

のんびり歩こう。

5の町への道は歩いてる人が少なかった。

雨上がりに見た2組のパーティーが私の少し前を歩いていて、どちらからともなく頭を下げあった。

変だと思いながら1日目が終わり2日目も終わった。

何かが、何かが変だった。

妙な胸騒ぎみたいな…。

寝る前に、テントの中から周囲に探索をかけた。

ポツン、ポツンと反応があるのは挨拶しあったパーティーだと思う。

森中に散らばってる細かいポツポツは何?

それに…、少し奥には大きいポツンの周りに小さなポツポツも沢山。

ゴブリンが出るのは5の町を過ぎてからのはずだけど、ポツポツが多過ぎて不安は膨らむばかりだった。

念のため装備を最上級に戻して、重ねるように光の結界でテントを覆った。

寝付けないまま毛布にくるまってごそごそしてると、微かに羽音が…、光の結界が反応していた。

まさかと思って探索をかけると、テントの周りがポツポツで溢れていた。

他の冒険者の反応が無くなっていて…ゾッとする。

極度の緊張から、背中が痙攣していた。

どうする。

外に危険な何かがいる。

それも数えきれないほど。

どうしよう!

絶対出たら攻撃される。

……一か八か。

スキルから毒の霧を選ぶ。

悪魔と呼ばれてもいい、殺られる前に殺る!

結界の外、半径500を設定して毒の霧を発動。

波が引くようにポツポツが薄れて、奥のポツンとポツポツ以外は検索に何も引っ掛からなくなった。

ポーーン。

久し振りにレベルアップの音を聞いた。

ステータスを開くとレベルが1になっていた。

魔法を使ったから?

取得経験値と、横に攻撃対象ビーストと表示されていた。

蜂!!

正体を知ると逆に外に出るのが怖くなった。


眠れないまま朝が来て、光の結界の内側でこっそり外を覗いた。

地面が黒い何かに覆われていて思わず口を押さえた。

う……むり。

土を掘り返して全部埋めてしまおう。

黒い蜂、それもこれだけの数の蜂…不吉な予感は強くなるばかりだった。

土魔法でみんな土に埋めると改めて探索をかけた。

森の奥のポツンとポツポツは消えてない。

きっと奥のポツンは大きな蜂の巣で、ポツポツは…。

もし、このまま放置してまた襲われる人が出たら…。

だけど蜂の巣じゃない可能性も捨てきれない。

でももし大きな巣だったら?

間違った決断かもしれないけど、全滅させようと決めてスキルを発動させた。

ポーーン。

レベルアップの音がして、言葉にならない罪悪感が心を占めた。

恐々外に出て蜂の死骸が無いのを確かめてからテントを片付けた。

光の結界で自分の周りを覆ってから、大きなポツンの場所へ行った。

怖いけど…、結果を確かめるのはスキルを使った者の責任だと思ったから。

その場所は…。

数えきれない蜂…、中央は動かない巨大な女王バチと潰れた巣の残骸。

手を合わせながらみんな土に返した。

自分が自然の理を壊したんだと、苦しいほど目の前の現実に実感させられた。

それでも、自分が死なないために繰り返すだろう事も分かっていた。

ごめんなさい。

深く頭を下げた。


重い気持ちのまま歩いた。

5の町へ明日の夕方には着くだろう。

がらがらと前方から音がしたので顔を上げると、小道から荷車が出てきた。

荷車を引いてる人は荷物のざるとかかごとかが邪魔でよく見えないけど、ウンウン唸る声が聞こえていた。

荷物は軽いはずなのに?

荷車が重いの?

不思議に思って速度を速めて並べば、かなりな年配のおばあさんだった。

おばあさんはひょいと私の方へ顔を向けてきた。

私が何時までも追い越さないから不審に思った?

『引くのをお手伝いましょうか?』

と、メモに書いて見せた。

罪滅ぼしとは違うと思いたい、ただ無性に良いことをしたかった。

「悪いね。私は字が読めないんだよ」

おばあさんはそう言って私から目線を外した。

トントンと荷車の持ち手を指で叩いておばあさんの視線を自分に戻すと、喉を触って首を振った。

「しゃべれないのかい?」

頷いて荷車を引いた。

善意の押し売りかも、とも思うけど荷車を引く手を止められなかった。

おばあさんは少し先の小道を曲がって家へ帰るところだと言った。

明日、5の町から商人が来て荷車の荷物を買ってくれるらしい。

チラッと後ろの道を見た私に気付いたのか、あの小道の先に知り合い家族が3軒住んでいてその家族が作った細工物も一緒に買い取って貰うと言う。

「あんたもこの辺の蜂には気を付けるんだよ」

え?

おばあさんは最近森に蜂が大発生して、人を襲うようになったと言った。

「知り合いのじいさんも蜂に刺されて動けないから、こっちからこの荷物を取りに行ったんだよ」

………

「4の町から冒険者が討伐に出向くって聞いたけどまだなのかねぇ」

そんな情報4の町の冒険者ギルドには無かった。

あ、街道で会ったパーティーは、冒険者ギルドから蜂の討伐依頼を受けてた?

そうだったのかも…。

おばあさん、ありがとう。

おばあさんの家が見えるところまで送ってから、5の町への道に戻った。

気持ちも軽くなり、その日の夜は前日の寝不足も手伝ってぐっすり眠れました。


翌日は雨。

朝御飯を食べてボーッとしてたら、にぎやかな話し声が聞こえてきた。

一瞬ハッとしたけど、テントを張ったこの場所は道まで10メートルはあるし隠蔽をかけてあるから見付かる心配は無かった。

そっと見てみると、マントのフードを深く被った6人が5の町の方向から喋りながら歩いて来ていた。

にぎやかな女の子6人のパーティーらしい。

聞こえてくる話からすると蟻の偵察隊らしい。

4の町の討伐パーティーから報告が無いので5の町が偵察を出したんだと思う。

今からじゃ遅いけど、巣だけでも埋めないでおけば彼女たちが見付けて全滅を報告してくれたのに。

残念に思いながら、5の町でも蜂は話題になっていたらしいとも思った。

そう言えば5の町のクエストは何だろう?

気になって見てみたら、5の町の鍛冶屋に売っている防具の納品で既にクリアになっていた。

今までの町はクエストクリアが無効になってる感じだったのに、何故5の町だけがクリアなの?

隣のパーティークエストは勿論ノンクリアのままだ。

5の町のパーティークエストはゴブリン討伐10回。

やっぱり、と納得のクエストだった。

ゴブリンの単語の上に露草の採取とあった。

4の町のパーティークエストは露草だったのか。

露草が真夜中しか花を咲かせないって知らなくて最初の時は大変だった。

いつか、パーティーが組めたら2の町のパーティークエストからやり直したい。

こうして思い出すのは大変だったけど楽しかった事ばかり。

これからの旅も楽しもう。

外は雨だけど、私もマントのフードを深く被って5の町を目指した。



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