少女と私
4の町は私の予想より小さかった。
大きさだと2の町くらいだけど、売ってる装備は初級装備より少し強く値段も高くなってた。
やっとお財布が潤うかも。
まず冒険者ギルドへ行って宿を紹介して貰う。
そして鍛冶屋も紹介して貰えるか聞いてみた。
ギルドでも買い取りはしてるけど鍛冶屋の方が2%くらい買値が高いらしい。
紹介された鍛冶屋で初級の中くらいの装備をかなり売って、大金貨15枚と金貨8枚を受け取った。
この町からは魔物の討伐も依頼に混ざってきて、Cランクで受けられる討伐は少ないけど、それなりに報酬額は高い。
町を一回りして、美味しそうな物を探した。
そろそろパン以外が食べたくなっていた。
この町でも食糧は多目に買ってアイテムボックスに貯えた。
これで準備は終わり。
後は明日冒険者ギルドからダンジョンの依頼を受けて出発するだけ。
翌朝依頼を受けに冒険者ギルドへ行くと、依頼書と柔らかい布を渡された。
受付のお姉さんの説明だと、ダンジョンの宝石は硬度が低くてぶつけるだけで砕けてしまうらしい。
ゲームの時はそんな設定無かったのに、そう思うけどクエストクリアしたいから頷いてうけとった。
改めてダンジョンへ向かう。
途中3の町からくる冒険者パーティーとすれ違ったりしたけど、リリカとはすれ違わなかった。
きっと宝石を持って家へ帰ったんだろうと考えてそれ以上気にしなかった。
ダンジョンには夕方着いた。
ダンジョンの前には何組かのパーティーが夜営の準備をしていた。
私と同じく明日の朝から潜る予定だと分かる。
私も少し離れた場所に夜営の支度をした。
今日はテントを出すわけにもいかないので、枯れ木を集めて焚き火をした。
小さい鍋を火にかけてお茶っ葉を少し入れた、みんなはこれをどうやって濾して飲んでるんだろう?
今度宿のおばさんに聞いておかないと、とかぼんやり考えていたら声を掛けられた。
「ちょっと良いかな?」
斜めに前からの声に、体がビクッとした。
急いで顔を上げると、そこには二十歳より若そうな青年が笑顔で立っていた。
「初めまして。少し話して良いかな?」
警戒しながら小さく頷くと、青年は私の斜め前にしゃがんだ。
「何日か前だけど、女の子と一緒にいたよね?」
リリカの事かな?
頷いた。
「あの子が君が喋れないって大きな声で言ったから覚えてたんだ」
ひゅぅと喉が鳴った。
思わず後ずさる。
「あっ、ゴメン!悪意はないから。無いよ!」
青年は慌てて立ち上がり体の前で違うと手を振った。
「ソロでダンジョン潜る様に見えるし、心配だから声かけたんだ」
『大丈夫』
地面に指で書いた。
「本当に?」
うんと頷いて見せる。
「今パーティー満員だから君を誘えないけど困った時は力になるよ」
青年は《トーヤ》と名乗り、困った事が起きたらギルドに伝言を残しておいてと言ってパーティーの輪に戻っていった。
何か照れ臭くて直ぐ寝た振りをしたけど、このゲームの世界に来て初めて人の優しさを感じた。
翌朝、ダンジョンに着いた順で潜るのがルールだ!、と先頭のおじさんが大声で叫んでいた。
1階層だし間を5分空ければ宝石は復活するから、焦る必要は無いのにと思う。
列の前の方にトーヤの姿が見えた。
困ったら伝言かぁ。
あ………。
トーヤが自分の名前を聞かなかった事に気付いて思わず笑ってた。
名前も知らない人からの伝言なんて私なら気持ち悪いから受け取らない。
きっと彼もだろう。
…何だ、からかわれたんだ。
バカみたい。
浮かれた自分が悔しかった。
かなり凹んでるのに潜る順番は回ってくる。
ダンジョン内の迷路はステータス画面の地図に初回の時の道順が残っていたので、最速でボスのスライムを倒して宝石を手にする事が出来た。
あっ!
出る前に思い出して渡された柔らかい布で宝石をくるむと、そーっとアイテムボックスにしまった。
止まってると後からくる人の邪魔になるから急いで出口を目指した。
ん?
前方に人影を見付けて近付いたら、手足が傷だらけのリリカだった。
私も驚いたけど、リリカも驚いていた。
「ありがとう。探しに来てくれたのね」
走って抱き着いてきたリリカを支えきれなくて2人で尻餅を着いた。
リリカがどうしてここにいるのか知りたいけど、今は後が詰まってるし脱出するのが先決だった。
リリカは宝石が何とかとかブツブツ言って、通路を逆行しようとする。
仕方無いので力任せにリリカを引っ張って、やっとの思いで外に出た。
出てくる人の邪魔にならないよう、出口から離れた場所まで移動して座った。
疲れた顔のリリカに水袋を渡してあげると、水袋を高く持ち上げ一気に全部飲み干した。
水を飲んで落ち着いたのか、リリカは宝石が砕けたことや何故かお願いしたパーティーからあの場に置き去りにされたと訴える。
黙って聞いていると、砕けたからもう一度連れて行ってくれとパーティーにせがんだらしい。
何と無く、どんな会話があったのか想像出来てしまい言葉が見付からなかった。
「一緒にダンジョンへ行ってね。今度は割らないよう気を付けて運ぶわ」
ノーと首を振って、硬度が低いから家まで持っていくのは無理と地面に書く。
「助けに来てくれたのに、何でそんな意地悪言うの」
助けに来たとかじゃなくて依頼を受けてここに来たと書いた。
「それなら宝石を見付けたのよね?もう時間が無いの。その宝石私に頂戴」
リリカも頂戴なんだ…。
地面に『ノー』と書いた。
「何で!」
リリカの声で気付いたのか理由を書く前にトーヤが近付いてきた。
「どうしたの?向こうまで聞こえたよ」
「きいて!彼女ったら酷いのよ!!」
リリカはどんなに自分が困っているのかをトーヤに訴えて、私がノーと書いた地面を指して泣きながら意地悪だと私をなじった。
リリカが話す方が私が書くより何十倍も早くて、トーヤも話の途中からは私を避難するように見る。
もうどうでも良いい。
好き勝手に言えば良い。
すっと立ち上がって、リリカとトーヤをきつく睨んで背を向けた。
リリカが何か叫んでいたけど、2度と関わる気持ちは無かった。