これって…
ここ…は……
気が付くと真っ白な場所にいた。
ぐるりと見渡してみても何処もかしこも白。
あぁ…
…死んだのかも。
何故かそう思えた。
ファンタジー小説でよく読む転生の設定はこんな感じだから、直ぐ思い付いた。
死んだなら…。
声が出るかと期待したけど、やっぱりムリみたい。
期待した分がっかりしたけど、産まれたときから出なかったらしいから今更で、すんなり諦める。
難しい病名は忘れた。
私は産まれながらに声帯がなくて声が出ない。
手術で人工の声帯にしても喋れないって言われたら、諦めるしかないよね。
けど父親は『声が出ないくらいなんだ』って普通の学校へ通わせた。
子供って残酷だから小学校の時は毎日虐められたよ。
中学からはクラスに居ないものとして扱われた。
私の分だけプリントが無かったり、グループ分けに入れて貰えなかったり、毎日が辛かった。
明日からの高校生活、どうなるのかと不安を抱えて眠った所で私の記憶は途切れている。
あのあと、何があったんだろう…。
そう思った次に、もしかしたらずっとここ?そう思い当たったら身震いがした。
人は嫌いだけど、周りに人の気配が無いのは静かすぎてもっと怖かった。
どんな死に方をしたのか気になって記憶を辿るけど、やっぱり思い出せない。
心残りとか全然無いから、どうでもいいけど。
あ、ゲーム…。
あーあ、明日バージョンアップって予告あったのに。
多分レベルの解放だろうと思うけど、詳細だけでも知りたかったなぁ。
アイテム使って転生して、今の上限レベル150から160にきっとなるはずだったんだよね。
また1からレベル上げだけど、ステータスは転生する度に初期ステータスが高くなるから5回の転生を終えてる私のキャラはレベル1でも転生未経験のキャラの2倍以上のステータス。
勿体無いなぁ。
死んで惜しいと思うのがゲームしかないなんて。
自分でも何て生き方してたんだろって思うよ。
ゲームの中は良かった。
喋れなくてもコメント入力すれば誰とでも会話できたし、リアルの私を誰も知らないから話せなくても困らなかった。
『CWR』
大陸各地に点在する町を1から順番に廻って、クエストやイベントで装備やアイテムをコツコツ集めながらレベルを上げる単純なアイテムコンプリートゲーム。
1部のプレーヤーたちは、アバター機能の多彩さから自分のキャラを着飾って着せ替えをメインに楽しんでいた。
職種は基本の剣士や魔法使いから上級職まで色々。
職種は選択制ではなくて、レベルと転生回数で自動解放され取得済みになる。
レベル100になったら転生アイテムを使って転生。
転生すると初期ステータスに1割弱の補正が付いて最初の町から再プレイスタート。
転生する度にレベルが10解放される。
アイテムコンプメインで戦闘は形だけのオートで終了。
熱狂的なプレーヤーは少ないけど、アイテム欄が埋まっていくのをニマニマ見てる私みたいなコレクターにはぴったりなゲーム。
それにパーティーでも独りでもコツコツレベル上げ出来たのが私には合ってた。
『なら転生するか?』
体がビクンってした。
誰!!
何処にいるの!!
思い切り周りを見回した。
何回見回しても周りは白一色の世界。
心臓がドクドクいってた。
転生って言った?
そっか。
やっぱり死んだんだ。
ほんのちょっとだったけど、これは夢かもって気持ちもあったんだ。
『私はお前たちの言う神』
かみ?…。
ははは。
笑ってる自分が可笑しい。
ホントに神がいるなら…。
拒絶する私に生暖かい風が吹き付けられた。
『私の存在を否定するか』
声は苦笑を含んでいた。
『お前が望む世界に転生させてやろうと思ったが』
ホントに?
そう思いながらも、私は本気にしてなかった。
出来るはずはないって気持ちの方が勝ってたから。
『トラックにひかれた記憶も無いか』
…え。
…思い出せない…ひかれて死んだ?
部屋で寝てたのに?
信じられなかった。
『望んだ世界を楽しめ』
呆然と目を見開いていた私の体がグンと宙に浮いた。
視界が暗転したあと、小さな家が密集した路地に私は立っていた。