此処に、永遠に同じ時間を過ごすことを誓う
「夕方から雨だって」
「まじかぁ」
テレビを見ていた彼がそう言うので、雑誌から顔を上げて彼と同じ方向を見る。
可愛らしいお姉さんが、夕方の雨は明日まで続くとか、洗濯物は早めに取り込めとか言っていた。
仕方ないなぁ、とソファーの上で寝転んでいた私は、体を起こす。
私の猫のクッションを抱きながらテレビを見ていた彼も立ち上がり、手伝うわ、と一言。
おや、珍しい。
ガラガラ音を立てるベランダへ出るための窓。
開けた瞬間に冷えた空気が室内に入り込み、頬を撫でて髪を遊ばせる。
空は灰色のクモを増やしているようで、太陽が見えない。
「これは降りますなぁ」
「降りますなぁ」
私の言葉を反芻する彼だけれど、空なんて見ちゃいない。
何で私をガン見しているのか。
なびく髪を押さえ付けながら、これ以上風が室内に入らないように窓を閉める。
ハンガーを物干し竿から外して、ヒョイヒョイと自分の腕に引っ掛けていく。
右手で取って、左手に掛けて。
そんな私を相も変わらず眺め続ける彼。
手伝うって言ってなかったかい?
「手伝いなさいな」
ばさり、掛けておいたバスタオルを外して、彼目掛けて投げれば、物の見事に顔面キャッチをする。
風強いから飛ばされないようにしてね、と言えば、ちょっ、とか何とか聞こえてきた。
もそもそ、もぞもぞやっている彼を無視して、ハンガーを全て腕に引っ掛ける私。
何とか乾いているらしいが重い。
半分持ってもらおうと振り向けば、未だにバスタオルを顔面キャッチしたままの彼。
「ありゃ、ごめんね」
ハンガーを落とさないように気を付けながらも、バスタオルを彼から剥ぎ取る。
剥ぎ取ったそれを、今度は彼の頭に引っ掛ければ眉根を寄せられてしまった。
手伝うって言ったじゃないですかい。
バスタオルを被った状態の彼を見ながら、私のクビはゆっくりと傾いていく。
そんな私を見て、彼の首も同じ方向同じ角度で曲がる。
何だっけ、ほら、あれあれ。
「汝、良い時も悪い時も、富める時も貧しき時も、病める時も健やかなる時も」
はく、言葉が続かずに風に流される。
彼は私を見て固まっていて、私の腕は洗濯物の重さで小刻みに震えていた。
ヤバイ、落としそう。
バスタオルから手を離して、ごめん分かんないや、と言って窓を開ける。
半分持ってよ、なんて半ば押し付けるように洗濯物をハンガー付きで渡せば、溜息を吐きながらも受け取る彼。
何だっけなぁ、私の呟きを聞き取った彼が、私を押し退けて部屋に戻る。
ちょっとちょっと、私の抗議の声に被せて言う。
剥ぎ取ったバスタオルが、何故か今度は私の頭に被せられた。
「汝、良い時も悪い時も、富める時も貧しき時も、病める時も健やかなる時も、共に歩み、愛し、崇め、死が二人を分かつまで、お互いを慈しみ貞節を誓いますか」
疑問符のない言葉に、私が言葉にならなかった、覚えていなかった言葉を、スラスラと彼は口にする。
真顔で淡々と吐き出して、口も目も開きっ放しの私を鼻で笑いながら部屋に引っ込む彼。
冷たい風に吹かれながら、私はハンガーも洗濯物もその場に落とす。
雨に降られたわけでも何でもないのに、またしても洗濯機を回すことになる。
あぁ、最悪。
風に撫でられても引かない熱を感じて、私は一人、ベランダで赤くなった頬を押さえてしゃがみ込んだ。