矢鷹十夜・代表取締① ワンモア その場で腹筋する
―――春乃西菜<はるのさいな>は面接に落ちた。
神様、仏様、私は前世で何か悪いことでもしたんですか?
生まれてこの方気楽に生きてきて、気がつけば子供の頃に自分より年上の五歳児達の年を越してて、あっというまに二十歳。
百回目にして落ちた。百一回ワンチャン。もういやだ。
フラフラとおぼつかないまま歩いていると、車が―――――
あやうく轢かれるところで後ろに倒れ、起き上がって姿勢を整える。腹筋しといてよかった。
私はなんともなかったのだが、車は止まった。そのまま帰ろうとしてたけど、一応謝ったほうがいいよね。
車から出てきたのは軟派なフワフワ頭のにーちゃん。
「君、大丈夫だった?」
「はい、なんともないです。ご迷惑かけてすいませんでした!」
私はペコリと頭を下げる。
「よかった」
「さようなら」
「待って」
帰ろうとすると引き留められた。どうしたんだろう。
何もなかったんだし弁証とかではないよね。
「君、パッと見新社会人って感だけど、もう仕事してる?」
「いえ、面接の帰りです。ちなみに落ちました」
「ならさ、うちの会社で秘書やらない?」
「やります!」
私は即答、即行で今から会社へ向かうという彼に同行する。
うわーでっかいビルだー。広いオフィスだー。あまりにすごすぎてまともな感想がうかばない。
「あれ?」
なんか火が飛んでいるのが見えた。
「どうかした?」
「いま火の玉が見えたんですが」
「あー実はこのビル、昔は妖怪が住む屋敷があってね。出るんだよ」
―――どえええ!?
しかし、私は怯まない。ここをクビになったら死ぬしかないのだ。