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『百歩蛇』/『クローン』

『百歩蛇』


むかしむかし、この村のあたりにはよく毒蛇が出た。

中でも百歩で毒がまわって死ぬという、百歩蛇の噂は村人を震え上がらせた。

それで、木が生い茂った山道のあたりは特に怖くて、ふだん用のない者は誰も近寄らなかった。


それでも、食うに事欠いて、山菜目当てに嫌々山を目指す者があとを絶たなかった。

太郎もそのひとり。空腹に耐えかねて、ふらふらと山を登った。


若い太郎は足腰も強く、粥腹を抱えても何とか進んで行った。


しかし道中、案の定、毒蛇と鉢合わせ。


逃げようとしたが、肝心なときに力が入らず、あっさり噛まれてしまった。


玉虫色に光る鱗――あれは間違いなく百歩蛇だ。


太郎はそう確信し、絶望したという……。



……うちの太郎じいさん曰く、これ以来車椅子の生活を余儀なくされているらしい。

まあ、うちのじいさんの言うことだから、当てにならない。




『クローン』


クローン・カンパニー設立のニュースは余りにも突然であり、また余りにもセンセーショナルだった。

欧州の某国。ここに、クローン研究を専門とする会社が興ったのだ。倫理的にも技術的にも課題の多いクローン技術である。宗教界は黙っていなかったし、一般市民にも不安が広がった。


その後、この会社を興した人物が、内臓に病気をもった老齢の大企業会長であると報じられるにあたって、批判はピークに達した。彼は、蛍雪の末、小さな会社から一代で大企業に育て上げた苦労人であった。それゆえ大変尊敬されていたのだが、今回は彼の臓器移植のためにクローンが研究されているのだろうと噂になったのだ。



果たして彼のクローンが誕生した。


「おお……」


眉間にしわを刻んだ老齢の会長は、誕生したばかりのクローンのいる保育器を見るなり、歩み寄ってそっと話し掛けた。


「私は長い間仕事一筋で、女には目もくれなかった」


今にも泣きそうな顔で、保育器のガラスを指で触りながら続けた。


「――ああ、私の息子よ、“完全なる跡継ぎ”よ」




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