チョコレート・ジャムズ
ステージ上では転換が行われ、今度は男女混成のバンドが演奏の準備をしている。
新入生歓迎会と銘打っているが、実質は各部が活動内容を新入生に説明する場に過ぎない。帰宅部道を極めることに三年間を費やそうと今決めた身としては、ガイダンスで削られた体力を回復するため、ゆっくりと眠りたいのだが床の硬さがそれを許してくれない。
入学初日から仲良く会話できる友人がいるはずもなく、手持ちぶさたになり配布されたプログラムを確認すると、軽音楽部の演奏の後に有志によるバンド演奏の時間がある。
おそらく機材の準備があるため、このタイミングに割り当てられたのだろう。
しかし、軽音楽部の演奏を聴く限りではあまり期待しない方が良さそうだ。
どうすれば波風を立てずにこの空間から抜け出せるか思案していると、角が生えたような赤いギターを構えた女子生徒が喋り始めた。
目鼻立ちがはっきりしており、一見すると勝ち気なような印象を受けるが、はにかんだような笑顔は人懐っこい子犬を連想させた。校則に違反しないように肩の辺りまである髪を束ね、キチッと制服を着て背筋を伸ばした姿からは、なんとなく忠犬という言葉がしっくり来るような気がした。胸元のリボンが赤いため、自分達の1つ上の学年である。
他のメンバーも校章やリボンが赤いため、同学年なのだろう。