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やさしい嘘  作者: 明日盛
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 体育館。


 六年一組の生徒は座って担任の滋田先生の話を聞いていた。

 どうにも、僕はこの男性教師が苦手だ。


 野球部顧問の熱血教師である滋田先生は怖いし、「あと、一年で中学生だから」が口癖でやたら怒って不快な顔をする。

 普段は優しい先生なのだが、不機嫌になると怖いのだ。

 しかし、まあ、生徒のことは考えているし誠実で真面目だからそこはしたわれており、女子に人気もある。


 滋田先生がピリピリしているのもわからなくはない。

 一年前、僕らの一つ上の先輩の六年一組が問題児ばかりのクラスで、担任が気の弱い女性だったことから、授業中にガラスが割られたり、校庭に向かって机が放り投げられたり、暴行が多発した。普通に考えれば学校側は担任を変えるべきなのだが、どうにも規則に縛られた頭の固いやつらは合理的判断ができなかった。


 それを防ぐために再び六年一組に問題児ばかり集めて、学校で一番怖い先生を担任に持ってきたというのが生徒たちでのうわさだ。

 別に六年一組全員が問題児だとは言わない。だが、気の弱いやつ、いじめられそうなやつが一人もいないことは確かで、それは偶然ではありえない。あと、野球部員もやたら多い。


 完璧な守りだ。野球部員は滋田先生の味方で肉体と精神を鍛えられているから正義の門番だ、暴行なんて起きるはずがない。

 ただ一人の例外を除いて。


「さて、みんなが待ちに待った合唱会まであと二週間となりました。最後まで努力して小学校の素敵な思い出にしましょう」

 普段はすごく紳士的なんだよな。だから怒るとそのギャップが怖い。


「そこで合唱会の役割をここで決定したいと思います。ピアノは高寺さん以外に立候補する人はいますか?」

 誰も手を挙げなかった。滋田先生は少し待った。

「じゃあ、普段から演奏している高寺さんに決定ですね。次に指揮者ですが国枝君以外に立候補する人はいますか?」


 来た。

 僕の友達は全員指揮者になる気はないと言っていたが、あまり仲好くなくて話しかけてないやつもいる。

 その中のイケメンが立候補しないとも限らない。


「んじゃあ、俺立候補します」

 手を上げたのは毒島、男子生徒だった。


 えっ? お前が。

 正直驚いた。僕以外の生徒も驚いていた。


 毒島はイケメンではない。

 いや、そんなことより、毒島は六年一組で唯一暴行事件を起こした生徒だ。問題児でいじめっ子だ。

 六年生にもなって女の髪を引っ張って泣かせた。


 毒島は筋力もないからすぐに野球部員に鎮圧された。

 だが、野球部員のバッドを勝手に使って暴れだしたときには、急いで職員室からかけつけた滋田先生以外、誰も止めることができなかった。


 たちの悪いことに毒島は自分が面白いやつだと勘違いしている。口を開けばスベるし寒いギャグしか言わない。たまに面白い話をするがそれがバラエティ番組の丸パクリだと僕らは知っている。

 同情を引こうと自殺騒ぎを起こしたりもした。太った体は入りそうにない窓から顔を出して「俺は嫌われているからここから降りて死んでやる」と叫んでいた。


 あれは同情を引くのではなくギャグだったのだろうか。それとも大きな窓から身を乗り出せないほどのチキンなのか。

 誰も毒島を止めないのには驚かなかったが、(どう考えても体が窓に入らない)クラスのかわいい女子が「勝手に死ね」と言ったのにはビビった。


 ようするに嫌われ者だ。

 というか、嫌われ過ぎだ。


「……」

 いやー。

 勝てないだろ、僕に。


 てか、むちゃくちゃ票差がつくぞ。

 あまりの結果に悲しくなるぞ。

 僕もみんなもそう考えているから驚いたのだ。

 いったい何を考えているのだろうと毒島を見たらニタニタと気味の悪い笑みを浮かべていた。


 あー、狙いがわかったぞ。

 ギャグか同情票狙いだな。

 票がなければ「俺嫌われすぎだろー」と、同情票が数票入れば「○票も入っている」ってセリフで自虐ギャグになり、同情も引くかもしれない。


 同情票を入れる人がいるのか、誰が入れるか知りたいのかもしれないな。正直、僕も気になる。

 滋田先生は毒島を見て露骨に嫌そうな顔をした。

 ほんとにこの人はポーカーフェイスが苦手だ。

 まあ、毒島の親は親でモンスターペアレントだから扱いにくいからな。

「では、国枝君と毒島君は舞台の上に立って十秒ほど指揮をみんなに見せてください。その後投票に入ります」


 僕と毒島は舞台の上に立った。

「じゃあ、国枝君からやってください」

 僕は普段の練習のようにタイミングよく、きれいな腕の振り方をした。完璧だ。


「毒島君、どうぞ」

 毒島は指揮をした。

 ダメだ、これは。腕を振るタイミングが均一でない。丸っきり素人だ。練習なんて一回もせずに思いつきで立候補したな。それになぜかお尻をふっている。ギャグ狙いなのだろうか、そんなことをしたら反感を買うだけだ。


 生徒の顔を見ると、男子は眉をひそめ、女子は生理的に受け付けないものを見るような顔をしている。

 これでは毒島に一票も入らないのではないか、と僕は思った。

「これからみなさんに指揮者になってほしいほうに挙手をしてもらいます。国枝君と毒島君は後ろを向いてください」


 なんだ、投票の様子は見せてくれないのか。

 それもそうか、ショックを受けたりといろいろ問題がおきるからな。


 投票が終わった。

「国枝君、毒島君。前に向きなおしてください」

 僕と毒島は向きなおした。


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