宇宙の窮鼠
鼠のような僕らの生活は、灰色の世界が寄りかかってくるようで逃れられない、重苦しい空間に貼り付けになりながら起床までの無をしばし堪能する。
同室の誰よりも早くラッパの音色と共に体を起こし、一番乗りのシャワーと歯磨きで清潔さを保つ。優越感に浸ることで憧れの大浴場を疑似体験する。
ワンプッシュまでのオールインワンのマルチシャンプー。洗うコツは先に徹底的して湯だけで洗う。少量の歯磨き粉も事前の予洗いで泡立たせるのだ。
腕にアナログ時計を巻き付ける。衝撃に強いデジタルは何か仕込まれていそうで信用出来ない。タッチタイプは手が届かない。きっと監視されている。
班で廊下に整列し、背筋を伸ばし点呼を行う。同じ階の皆と共に私語を慎み食堂へ行進する。別の階との入れ替わりで与えられた時間は7分30秒だ。
脱脂粉乳に、ドライフルーツ入りのシリアルバー。紫のイモとかぼちゃのペースト。ハーブ混合物のサラダチキンバーにもち米入りの豚の血の腸詰か。
いつもと同じ錠剤とカプセルを喉に通す。疲労回復に特化した労働者向けの食事を皆でにこやかに食べる。血肉を噛み締め至福物質が脳から分泌する。
豆腐バーや培養肉に比べれば何倍も美味だ。咀嚼回数確保用のガムが二つ付いてくる。ランダムなフレーバーで運勢を占う。レートの高い味が欲しい。
労働時間は7時間、昼食と休憩の一時間を合わせて8時間で仕事が終わる。僕らのビルは7時から15時まで、日ごろの成績のおかげで良い時間帯だ。
外に出ると左右に湾曲した地形と、頭上に長く続いた大きな筒が視界に広がる。僕らの層とは回転速度が違うらしい。外側から二番目が僕らの世界だ。
このコロニーは、5層からなる設計だ。上層に行くほど豊かな暮らしが提供される。生まれてこの方上も下も知らないが、下の存在感に安心を覚える。
中央と呼ばれる壁の向こう側に、同じ階級の人たちが存在するという。こちら側とバランスを取るための二重反転構造だ。僕の階級章でも立ち入れる。
何やら盛り上がっている管理者たちの話に、聞き耳を立てる。どうやら別の単層のコロニーから来たらしい、鏡で太陽光を取り込み、季節もあるとか。
出世してドーナツ状のコロニーに移住したいと笑っているが、ドーナツって何なのだろうか。無関心な振りをして自分を騙し作業にひたすら没頭する。
しばしの休憩時間は、通路の下の地下街へと歩みを進める。作業不適格とされた病人や高齢者たちが、様々な店を営み残りの寿命まで食い繋いでいる。
なぜ僕らは働くのだろうか、何も意味は見出せない。人間らしさを保つため、ただ与えられた役目を果たす。地下で手に入れた本が、今の僕の希望だ。
いつか僕も逃げ出せるだろうか、ごみを漁る白く紅い目をしたあの自由な鼠たちのように。支配を受けない個として、この無機質で巨大な回し車から。




