冤罪で婚約破棄?どうぞどうぞ、わたしは聖女様とのあの日の誓いを果たすので。
アーモは婚約破棄された。理由は聖女をいじめたからだそうだ。アーモにはその記憶はないし、聖女をいじめるなんてもってのほかである。そんな中現れたのは聖女。アーモは聖女を認めると、その足元に跪いた。それは聖女のために命を懸ける、一人の騎士のようであった。
※細かいことは気にせず読んでください。
ユニークスキル、と言うものがある。特殊なジョブにつくための必須のスキルであり、一代に一人と定められたそのスキルは、望んで得られるものと望まずして得るものとある。
基本的には特殊なジョブに就くことを課せられた者たちが切磋琢磨をして勝ち取るものであり、生まれながらにして得るものはほんの一握りのものである。
さて、ここに生まれながらにして特殊なジョブに就くことを期待されて生まれてきた子供が二人。その二人が出会ったのは、たまたまでも偶然でもなく奇跡的でもなく、必然であった。
*****
「アーモ嬢、私は君と婚約を破棄を宣言する」
言われて、アーモは声の方を見た。その声の持ち主に聞き覚えがあった。彼女の婚約者であるところの第二王子だったからである。
「なぜでしょうか」
「なぜ、なぜ、か。君はもっと聡明だと思っていた。けれども違った。これ以上の理由があるか?」
激高して怒鳴り散らかすわけでもない子の婚約破棄宣言ではあったが、周りにいた人物たちには聞こえた。だからアーモと第二王子の間に人がいなかった。徐々に二人から距離を取り始め、ひそひそと何かを話し始めるのをアーモは感じた。
しかしわからない。わからないがわかる。これは誰かの捏造によるものだ。
「君は聖女に嫉妬して攻撃をした。この国の宝である聖女に、だ。こんなことが許されるわけがない」
「攻撃?はて、何のことでしょうか」
「……しらばっくれるつもりなのか」
だって、アーモは本当に覚えがない。なぜなら今代の聖女と会ったことがない。第二皇子と聖女が逢引を繰り返しているなんて噂も聞いたことがあるが、しかしアーモはその場にいた事もない。
第二王子と聖女が良い関係ならそれでいいと思っている。婚約破棄だって大歓迎。だって、アーモは何よりも自由でありたかったから。結婚などと言うものに束縛されてしまう人生を送るくらいなら、家出して旅にでも出たい。そのくらいには貴族という枷はアーモには不必要だったからだ。
はてさて自分が何かをしたらしい。自分の知らないところで。夢遊病かしら、なんて、くすっと笑ったのを第二王子が見た。
「何を笑っているのだ」
「聖女様はどちらに?」
「君に合わせるわけがないだろう」
「そもそも聖女様がおっしゃったのですか?」
「……いやちがう、彼女が言わないから、私たちが独自に知らべたのだ。その際に君の名が出るわ出るわ……」
「聖女様がおっしゃったのですか?」
「っ、聖女が言ったわけではないが」
「ふぅん」
そこでアーモは第二王子から視線をそらした。ちらりと見つめたその先に、アーモを見つめてくすくす笑っている女性の集団がいた。彼女たちはアーモと同世代の女性たちで、何かにつけて昔から、アーモに嫌がらせをしてきた。大方彼女たちが、今回もアーモを陥れるために仕組んだことだろう。
アーモと第二王子の婚約が決まったのは、アーモが洗礼を受けたときだ。この国では貴族は5歳、平民は10歳になると洗礼を受ける決まりになっている。なぜなら洗礼を受けることでユニークスキル持ちが判明し、国から出て行かないように管理することができるからだった。
聖女は平民の子供であった。ユニークスキル『女神の加護EX』と言うスキルを持っていた。ただのスキル『女神の加護』を持っている子供は国にはたくさんいるのではあるが、『女神の加護EX』は一代に一人しか存在しない、特別なスキルだった。だからこそユニークスキルと呼んで聖女と言うジョブを与えられ、教会から、そして国から保護される。それが決まりであった。
そしてアーモも、ユニークスキルを持つ子供の一人である。
「――これは何事でしょうか」
柔らかい、それでいて凛とした女性の声が聞こえた。アーモは振り返る。そしてそこに立つ女性に目を奪われた。
「セイン、こちらにおいで」
「行きません。もう一度聞きます、これは何事ですか」
「……セイン?」
聖女は美しい女性であった。光をたっぷり受けた、限りなく白に近い銀の髪を結うことなく垂らし、能力が高い人間のみに現れる紫の瞳をしていた。身長体格自体は普通の女性ではあるが、その神聖な雰囲気は、洗礼を受ける前からいかんなく発揮し、幼いころから聖女として過ごしていたとも言われている。
その聖女――セインは、怒っていた。
「自身の婚約者の女性になんてことを。やはりあなたに王の資格はないのですね」
ふう、と息をつきながら目を伏せさせたかと思うと、すぐにぱっと前を向く。その瞳の向かう先はアーモであった。アーモもセインを見つめ、そうして思った。なるほど噂に聞く以上に美しい女性だ。なるほど噂に聞く以上に魅力的な女性だ。――などではなくて、ただ、ただ、感動した。頭が真っ白になって何も考えずに歓喜した。聖女に会えたことに。自分の価値を知るために。
「あなた様は……」
セインが口に手を当てながらアーモの近くまで歩を進めた。
本来であるならば、高位貴族らしい立ち振る舞いでセインを出迎えるのが正しい行いだったはずだ。ただ、アーモはそんなものかなぐり捨てた。ドレスであることも忘れ、女性であることも忘れ、頭を下げ、胸に手を置き、そうして膝を折って地面につけた。
周りの観客たちはざわざわとした。アーモは公爵家の令嬢である。第二皇子の婚約者として、他の令嬢たちのお手本的な役割も担っていた。だからこそ彼女のカーテシーは美しいものであるし、さりげなく、それでいて核心的な言葉遣いには大人たちも舌を打ったほどである。
けれども今のアーモはまるで、騎士のようであった。
「お初にお目にかかります、アーモでございます」
「そうでした、ええ、お初にお目にかかります。セインでございます」
セインは平民ではあるが貴族的素養は叩きこまれていた。だから周りが見ほれるほど美しく挨拶をして見せた。ただ、相手が異様な行いをしているから、どうにも落ち着かない。
「そして?」
「そして?」
アーモが顔を上げて、にやりと笑った。それを受けてセインもにんまりと、口角をこれでもかと上げて見せた。言葉少なに笑いあう二人に、第二王子は口をはさめなかった。まるで二人だけの空間を作り出すその場に、自分がいないものであるかのように感じたからだ。口をはさんだところで声が届かない。それくらいには遠かった。目の前の出来事なのに。
「ああ!嬉しい!あなたにお会いできるだなんて!」
「わたくしも!これでようやくあのときの誓いを果たせます!」
それから立ち上がったアーモがセインに手を伸ばし、何をする気だと剣に手を当てた第二王子や聖女の護衛達など目にもくれず、二人は手をつなぎ、そうして踊るようくるくると回り始めた。
「ユニークスキルの記憶なんて面倒くさいものをと思っていたけれど、こんな奇跡があるならいくらでもあっていいわ!」
「ねぇセイン様、それとも聖女様?今度こそはわたくしに騎士の誓いを立てさせてくださいまし!」
「ええ!ええ!もちろんよ!」
くるくる、たまにステップを踏んで、二人は観客が見守る中で踊り続けている。それがあまりにも完成されていて、誰も止めようと思わなかった。
ただ、第二王子だけがやっと動けるようになった。自分の声が届かないならと強硬的な手段をとることにした。あんな噂の多い悪女を聖女の近くにおいてはならない。そう思って、自分の剣をとうとう抜いてしまったのだ。
アーモが完全に第二王子に背を向けて、アーモの体でセインから第二王子が見えなくなった時、第二王子は走り出した。
第二王子はなんでこんなことをしたのか。使命感にかられたものだった。第二王子はアーモのことを悪女だと思い込んでいたし、先ほどの問答は無駄なものだった。だから、アーモが居なければすべて解決するのだと、そんなことを思ったのだ。
どうせ、無駄なのだけど。
「――え?」
アーモが止まり、セインも止まり、そうして第二王子も止まった。周りの観客たちは悲鳴を上げたが、しかしすぐに静寂に包まれた。
確かに第二王子の剣はアーモに届いた。のだけれども、いくら押しても、皮膚どころか服さえ切れないのである。
「あら、その剣は」
アーモはセインから手を離し、ドレスを翻しながら第二王子のほうを向いた。その反動で剣はアーモの体から離れたが、しかし第二王子は混乱していた。
斬りつけたはずだった。第二王子は日ごろから剣の授業を積極的に受けている武人であることは国内でも有名なことであったし、王子でなければ今頃騎士団に所属して戦争に駆り出されていたとも言われるほどの腕前だった。だからこそみんなアーモが殺されたと思ったのだ。でも、死んでいない。
「やっぱり、選別の剣ですわね。しかしそれは本来王太子が持つべきもの。なぜ第二王子が?」
アーモは剣を掴んだ。刃の部分を、がしりと掴んでくるもので、第二王子は思わず手を離してしまった。しかしアーモの手から血が滴ることはなかった。それどころか剣の柄に持ち替えて、しげしげと舐め回すように見つめているではないか。しかも一目見ただけでその剣の名前を特定した。
「ああ、確かに選別の剣ですね。記憶にあります」
「知らない間に意味が変えられてしまったのかしら」
「可能性はありますね。まったく、あなたの剣を正しい持ち主が使わないとは何事ですか!」
「セイン様、別にいいんですよ?やはり武具は使われてこそ。王太子は剣が苦手でありますし、第二王子が譲り受けてても仕方ありません」
「けれどもこれは形式的な問題です。私だってこんな聖女であるための格好に重たい杖まで持たされているのですよ。腰に差すだけで意味のある剣なのです。使う使わないではなく」
「……重くして、申し訳ありません……」
「あ、アーモ様は悪くありません!私の……聖女のことを思っての事でしょうし……」
アーモとセインが剣を見ながら出てくる言葉に第二王子は反論しなかった。なぜならその通りだったからだ。第二皇子の兄である王太子はあまり武芸は得意ではなく、重たい剣を腰に差すだけでも疲れてしまう。だからお前が使うと良い。国王の許可も得て第二王子は名称:選別の剣を腰に差している。使う場面は本来無い。なぜならそれは、王家である証だから。使うことを想定されていない剣でもあった。
でもいざと言う時のためにメンテナンスは欠かせなかった。藁人形だってさっくりと切り落とすことができる。人間ならば袈裟切りだってできる。切れ味は、確かな剣なのに。
なぜアーモのことは切れなかったのだろうか。
「さてアーモ様」
「なんでしょうか聖女様」
「セインと呼んでくださいな」
「なんでしょうかセイン様」
「国王陛下はご存じなのですね?」
「だからこそわたくしは第二王子の婚約者でしたから」
謎に次ぐ謎によって、第二王子は混乱していたが、アーモの言葉に引っかかった。『だからこそわたくしは第二王子の婚約者でしたから』、つまり、はて、どういう意味か?
「ユニークスキル持ちは国によって管理される、ってことですね」
しかしセインの言葉にはっとなった。第二王子がアーモを見つめた。彼女はにこりと笑って、そして笑っていなかった。貼り付けた仮面のようなそれに気が付いて、第二王子は今まで見てきたアーモの笑顔を思い返していた。今までずっと、同じ笑顔だった。いいや笑顔なんてものではなく、ただ、ただ、自分の相手が面倒だと思っているような、そんな表情だったのだ。
「わたくしは第二王子と婚約してよかったと思う点はありますよ?彼を訪ねて騎士の訓練場に行けましたし保管している武具も見させていただきました。ちゃんと手入れされている武具に安心できましたし、今の王権は信用できる、だから任せようと思ったんですけれども」
「私は信用できません。冤罪で婚約破棄までしようとして。あのね、私ちゃんと聞いていたんですよ。私がアーモ様にいじめられていたとか?私が何も言っていないのに言いたくても言えないのだとか勝手に捏造されたりとか?迷惑過ぎて神に愚痴を飛ばしました」
「ちょちょちょ」
とんでもなく神に失礼なことをしていたらしいセインの言葉はさておいて、アーモがセインに何かしたという事は完全に否定されたことになる。アーモを見て笑っていた女性たちはすでに会場を後にしていた。聖女が登場した時点で逃げたのであるが、アーモはその全員の顔と名前を一致させていたので、後々いかようにもしようと思った。
「静粛に」
そんな時、誰かがその場の全員に声をかけた。その人物を見た瞬間、アーモは自分のドレスをつまんで頭を下げた。それは令嬢としての挨拶であった。セインにしたものとは違うもの。
「国王陛下にご挨拶申し上げます」
城の奥から出てきたその人は、この国を統べる王である。もちろんだが第二王子の父であり、隣に立つ王妃殿下の夫でもある人物だ。彼は咳ばらいを一つして、そうして自分の息子を無視した。
「アーモ嬢、縛りがとれたようだな」
「はい、これからはいかんなく発揮させていただいても?」
「もちろん、君はどのようなジョブを望む?」
「聖騎士を」
次の瞬間には、アーモは自分の胸に手を当て、背筋をびしりと伸ばして見せた。その素晴らしき美しい姿勢に、ドレスは不釣り合いでありながら、それでいて似合っていた。彼女だからこそ、許される行いであることは、流石に誰しもがわかることだろう。
「聖騎士、君が?」
「今度こそは聖女の隣に立ちたいのです」
「……なるほど」
その顔に憂いがあり、その瞳に絶望があり、その手には剣がある。だからこそ、彼女は誓いを立てるのである。
「君のユニークスキルは聖女一人にはもったいないが……しかし盟約を裏切ることはできない。教会にかけあおう。君ならきっと問題ないだろう」
「ありがとうございます」
「やった!アーモ様!これで今回はご一緒できますね!」
彼女のユニークスキルはいったい何なのだろうか。第二王子はずっと困惑していた。
だって第二王子は知らないのだ。ただアーモが公爵家の令嬢だから自分の婚約者に選ばれたと思ったのだ。婚約者選定のお茶会において、何も問題が起きなかった、だからそのまま決まってしまったのだと思ったのだ。昔は第二王子もアーモに悪感情は持っていなかった。周りに騙されて彼女を責めて、周りにそそのかされて婚約破棄を宣言して、周りに言われていないのに剣を抜いた。
「王子よ」
国王陛下が第二王子に声をかける。国王陛下は第二王子に仕方のない子だ、と言いたげにして頭を掻き、そうしてアーモを紹介した。
「彼女はユニークスキル『武具王』を所持する公爵家の令嬢である」
ユニークスキル『武具王』、それを聞いて第二王子が、周りの――特に剣を触ったことのある者たちが目を丸くしてアーモを見つめた。彼女はにこりと笑って、そうしてやっぱり笑わなかった。
「ユニークスキル『武具王』とは、この国の建国者である始祖王が所持していたスキル『武具師』が変化したスキルであり、彼が王になった時ユニークスキル『武具王』に変化したと言われている」
王の名の付くユニークスキルのほとんどが、この国の王が所持していたスキルが王になったとたんに変化して生まれたものになる。しかし一度生まれればその血筋に残り、聖女の『女神の加護EX』よりも格段に低い確率で存在するものとなる。
特に『武具王』は始祖王以来の誕生であることは国王陛下は知っていた。だからこそ、彼女のスキルは秘匿されてきたのである。
『武具王』は『武具師』だった。武具を作るのに長けており、また武具に愛されてきた。そのため武具は彼女を傷つけないし、彼女は武具を愛している。彼女の手にかかればすべての武具を120%の力で発揮させ、また本来武具ではない用途のものでも彼女が武具だと認識した瞬間それは武具になる。例を挙げるなら……武具化したスプーンは一振りで大木を切り倒すことができる。強力で、それでいて危険なスキルだった。
「お前の婚約者として、その血を確実に途絶えさせないための婚約であり、ユニークスキル持ちとしてこの国にと留まり続けてもらうための措置だった。しかし聞いた話によるとお前は彼女に婚約破棄を宣言した、と」
「……そ、それは」
「しかも冤罪で、聖女まで巻き込んで。ふーむ、ちょっと頭を冷やしたほうがいいな」
「ち、父上」
「と言いたいところだが、アーモ嬢、君は気にしていない、だろう?」
「はい。特段、別に」
その言葉は、残酷に第二王子を切り捨てた。彼女が持つ剣は振るわれていないのに、すっぱりと切り捨てられてしまった。自分から捨てようとした縁のはずなのに、まるで自分が捨てられたような心地になった。でも、第二王子には何も言えなかった。だって第二王子は武芸のセンスはあるものの、ユニークスキルを持ち合わせていなかったのだから。
王の名が付くユニークスキルも持つ者の数は、百年に両手で数えられる程度であった。聖女は一代に一人と決められているため別に換算されるが、たった、それだけなのである。
だからこそ、アーモは大切にされた。だからこそ、アーモは束縛された。けれどもアーモはどうでもよかった。だってアーモには武具と聖女が居ればいいのだから。
必ず迎えに行くと、約束したのだ。誰がって?そりゃもちろん、『武具王』が、である。
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それから、アーモは聖騎士の称号を受け、聖女の側付きになった。今まで着てきたドレスは全部売って、そのお金は全部教会に寄付をした。突然の行動にアーモの実家は騒然となったが、母だけが仕方のない子ねぇと言って手伝ってくれた。公爵家から籍を抜こうとしたがそれはだめだと怒られもした。
「『武具王』の記憶は、貴女を苦しめていませんか?」
聖騎士らしく、純白の制服に動きやすいパンツスタイルで帯剣までしているアーモに、セインは声をかけた。アーモはお茶をすすりながら、まったりとソファに座っていた。
「時折夢には見るよ。でも、今この瞬間のための通過儀礼だったと思うことにしたのさ」
アーモは、腰まであった髪をバッサリと切り、他の騎士よりも騎士らしく壮観な顔つきをするようになった。しぐさも令嬢としてもてはやされたころとは全く違う、まるで男として生きてきたかのような雑さがあった。
なぜなら、彼女は『武具王』なので。
「貴女を守れなかったことは、今でも悔やみ続けたが……」
ユニークスキル持ちの、ほとんどが前世の記憶を持っている。聖女であるセインは今までの聖女たちの記憶を全部持っているし、そしてアーモもそれに外れない。彼女もまた、『武具王』だったころの記憶があるのだ。
『武具王』こと始祖王は、初めはただの武具師だった。武具をこしらえて周りとの戦いに備えるのが仕事だった。ある日彼はいつものように武具をこしらえていたところ、一人の女性に出会う。聖女だ。
聖女のための特別な杖をこしらえた彼は、自分が打った剣を持って彼女に同行することになった。そして離れ離れだった小国同士をくっつけて、大きな国を建国した。それがこの国であり、彼のスキルが『武具王』に変化した瞬間であった。
しかし力を使い果たし、隣国からの襲撃で聖女が斃れてしまった。『武具王』は彼女を守れなかったことを悔やみ、以降もたくさんの武具を作り続けた。正しい統治者のために選別の剣をさらに強化し、確勝の剣を拵えた。聖女のための杖――指導者の杖に至っては、生涯に渡って改善し続けた。そのせいで重たくなってしまった。
『武具王』が生み出した武具のほとんどが国宝として王城に保管されており、有事には付けるようにとメンテナンスが今に至っても続けられている。そうするようにと遺言に残して正解だったと『武具王』は思った。
「結婚はできないけれど、生涯貴女を独り占めってのも悪くないわね」
「おや良いのか?女神の加護を受けている聖女がよそ見なんかしても」
「よそ見しないと、あなたと私は出会えなかったわ」
「それもそうだな」
『武具王』は生まれ変わってすぐ聖女に会いに行けなかった。自分が未熟で彼女を死なせてしまった建国時の年齢より前に会えなくなる呪いを自分にかけてしまった。でも大丈夫、アーモもセインもその時の年齢を超えた。あのパーティの前の日が、セインの誕生日だった。だから、『武具王』は聖女と会うことができた。セインが死ななかったその日に祝福した。
まぁ、あんなところで会うなんて思ってもみなかったが。あとあとちゃんとした場で会おうと思っていたのに、とアーモは愚痴をこぼした。
「もうわたしは王ではない、ただのひとりの人間だ」
王ではない、聖女と出会ったあの頃の、普通の人間だったころに戻ったように自由になった。聖女の守護にすべてを注ぎ、あの日の憂いをぬぐうため武具を拵え続ける。何と有意義な人生なのだろうか。
「実は女神からの神託が今朝ありまして」
「おや、女神は何と?」
「『ここに教会立てておくわね』、だそうです」
「そもそもここが教会のはずですが」
しかしその意味は分からないので二人は首を傾げたが、それはそうと、とセインが話を変えたことでころりと忘れてしまった。
アーモの婚約者だった第二王子はあの一件にを反省し、一人の人間から再スタートを切るために騎士団に入団した。王位継承権自体はまだ持っているが、本人はその気が昔から無かったので実質破棄したも同然であった。自分の弱さに嫌気がさし、アーモに剣術指導を申し出たこともあった。それ以降第二王子とアーモの仲は悪くはない。むしろ肩を並べる相手として尊敬までするようになった。
アーモの悪評を流した令嬢たちは王家と公爵家に特定され、全員の実家が降格する運びとなり、人によっては平民と変わりない生活を送ることになった。アーモや公爵家へ恨みを吐く者もいたが、それは今度は教会相手にもつながることでさすがに黙るようになった。それに彼女はこの国で保護されるユニークスキル持ちなので、次はないと釘も刺されているようだ。
聖騎士になったアーモは、日々聖女と共に過ごしている。時に護衛として、時に友達として。穏やかに平和な日々を迎えながら、あの日の後悔は忘れない。
「もしも襲撃があったらわたしが盾になりますからね」
「……武具で傷つかないとはわかっていても、それは見たくないからちゃんと避けてくださいね?」
「盾になりますからね」
「意志が固い」
「もちろん固いですよ、なんたって物理に強いので」
「そういう意味ではなく」
「え?」
今日も二人の笑い声が教会の一角で響いていた。アーモの本当の笑顔を笑い声を聞けるのは今のところセインだけであるが、セインはアーモの特別なので当然なのである。
最後までご覧いただきありがとうございます。
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