第10話 王命
騎士団での居場所に揺れるビオラ。
しかし、王命が下され、
彼女の運命は大きく動き出す。
第10話は、
“新たな騎士団長誕生”の回。
・⋯━☞ラスト騎士団更衣室☜━⋯・
先日、大魔女ラカの家で一悶着あったグラムレス……もとい、今のグラムレスの名前は、「ビオラ」であるが、現騎士団での居心地が「お客様気分」がいよいよ強く感じていた。
それも、騎士団長の座を、ラストに譲ったのも大きいだろう。
従って、現騎士団の名も、「マイーヤ王宮ラスト騎士団」となっていた。
「どうした? ビオラ」
「ああん? ああ、いや……まあ……」
「……」
ビオラは、上着を脱いだ手を止め、なにやら考え込む仕草をしていた。
「俺、ここに居ていいのかな?」
「はあ? 何を言ってんだ?
他にどこへ行くってんだ?
”女騎士団”でもありゃあ、移動になるだろうけどな?」
「え? 女騎士団?
そうか……俺、女だしな。
ここにはもう、俺の居場所なんて……」
「はあ? いやいや待て待てぇ!
今はもう、女騎士団はとっくの昔に廃止されて無いんだからな?」
「俺が女騎士……そうか……そうだよな」
「お、おい……(汗) 」
ラストは、ビオラの肩に手を乗せかけたが、
その手を止めてしまう。
そして2人は、言葉を交わすことなく、
訓練場へと向かうのだった。
だが、このラストの何気ない一言が
「盛大なフラグ」になるとは、
この時は、誰も思わなかった。
・⋯━☞騎士団訓練場☜━⋯・
ガキィーーン!
シャイィイィーン…
「うんぐゔ……」
「おらおら、どうしたぁ?!」
ビオラとラストは、剣と剣を重ね合う。
だが、今は以前とは違う。
ビオラは、女になってからは瞬発力は若干伸びたようだったが、身長差は以前よりも大きく、力の差も以前よりも遥かに大きく、まるで親子で練習しているかのように、実力の差は決定的なほど大きいものとなっていた。
だが……。
「ぬっ?」
「へっへぇ~~~ん!」
ギリギリギリ……キィイィン!
(ラストの剣を弾き返すビオラ)
「おぅわ!?」
「はあっはあーっ!! どうだ!!」
「ズルいぞ! ビオラ!
身体強化なんて使っちゃあ訓練にならねえだろが!」
「へん! 負け惜しみか?」
「ちげぇーよ!」
ビオラは女になってから、ノーマル状態ではラストに勝てなかったが、軽装アーマーの身体強化の効果を発動させると、ラストの力を上回るほどの実力を発揮できたのだ。
悔しがるラストであったが、どこか嬉しそうでもあった。
と、その時だった。
「ん? 誰だあれ?」
「はっ! あの方は! おいおいマジかよ!」
「うぇえ?! おい、どうした!
あれ、誰だよおい!」
誰かが訓練場へ入って来たのだ。
まったく気配が感じられなかった。
それだけでも、「ヤバいやつ」だと分かる。
ビジュアルも、お偉いさんに就く者だと分かる。
ビシッ!とガッチガチのオールバックに、
やたら大きな襟、尖がったジャケットの裾、
鷹を模した木彫りの頭のついた杖に、そして片眼鏡。
ロマンスグレー? うぅん! 生ぬるい!
まるで”ドラキュラ”を思わせる容姿だ。
本当に、魔物じゃないよな……
めちゃくちゃ怪しい雰囲気ばっきばきだ。
むかし、騎士団団長に任命されたときに謁見したが、
王様の方が普通に思えるくらいだ。
ビオラは、焦った!
こんなに慌てるラストを見たのは初めてだったので、
ど偉い人が来たということだけは理解した。
「侍従長様だよ!」
「侍従長って……王宮の?!」
「全員、訓練やめ! 控え!」
「「「「!!……」」」」
バタバタバタバタバタッ!
埃の舞う訓練場。
全員、まるで何度も練習をしてきたかのように統制が取れ跪く。
そこに、杖の音が静かに響く。
そして侍従長が歩き始める。
コン!……コン!……コン!……
「「「「…………(汗)」」」」
「……女騎士ビオラ殿」
(静かな一礼)
『え? 俺?! ってか、俺しかいねーな』
「「「「…………」」」」
(全員が跪きながら頭を更に下げる……)
「王命をお伝えに参りました」
「!……」
ビオラは表情を崩さない。
だが跪きながら、拳はわずかに握られている。
たとえ女になったとしても、騎士たる威厳だけは保たれてることに我ながら感心した。
でも、心の中では……
『やっぱり、俺……?』
「王命を下す……
女騎士ビオラよ……
汝に命ずる……
廃止された王宮女騎士団の旧施設を復旧せよ…」
「っ?!……」
思わず超えが出そうになった。
『王宮女騎士団の……復旧だと?』
「志ある乙女たちを募り、再び旗を掲げよ
そして――」
『志ある乙女……』
(わずかに間)
「汝をもって、王宮女騎士団団長とする」
『?! ええええ~~~嘘ぉ~~~ん(焦)』
「「「「!…………」」」」
しばしの静寂がこの場を支配し、
侍従長と団員たちの間に風が抜き抜ける。
そして少し表情を緩めて、侍従長はまた話し始める。
「陛下は仰せでした。
剣とは、持ち主の性を選ばぬ。
強さとは、姿に宿るものではない。
彼……いや、彼女は、誰より騎士である
…………と。」
『待て待て待てぁ~~~てぇ~~~いっ!
俺に女騎士団団長をやれってかあ?!
いやあぁあぁあぁ~~~ん! 勘弁して!』
「陛下は、あなたを手放したくなかったのです。
団長の座を失ったのではありません。
新たな形で、再び預けられたのです」
「「「「…………」」」」
そう言い終えると、侍従長は静かに背を向ける。
『ちょぉ~~~っと、
お待ちになってぇ! お待ちになってぇ!
お待ちくださいませませぇ~~~!!』
(ガクガクブルブル……(震))
「も、もういいか。 皆、もういいぞ!
大丈夫か? ビオラ……」
「えええ……ぇぇええええ……(震)」
「「「「ザワザワザワザワ……」」」」
ビオラの心の叫びは、虚しくも誰にも届くことはなく……。
そして、侍従長が訓練場を後にし、静寂の糸がプツリと切れたかのように、また訓練場に活気が戻る。
一人を覗いては……
「「「「ワイワイガヤガヤ……」」」」
「おいおい! マジかよ!」
「グラムさんが、女騎士団団長?」
「今は、ビオラさんだろ?」
「あ、そうでした……(汗)」
「おい、ビオラ?」
「………………」
(ムンクの叫びビオラ)
「おーい! ビオラっ!」
「ビオラの肩を揺さぶるラスト」
「はっ!!……俺が……オレが……」
「……ビオラ」
「おんなきしだんだんちょおおおだとおおおーーーー?!」
「「「「?!……」」」」
ビオラは、頭を抱え跪き天を仰いだ。
この男臭い騎士団訓練場に、少女の絶叫が響いた。
・⋯━メイド長室☜━⋯・
「あらまあ! 王様もイキな計らいをするもんだねえ!」
「イキなって……はぁ~~~」
「あら、嫌なの? また、騎士団を続けられるんでしょ?」
「男もしてじゃなく、お・ん・な・と・し・て・な!」
「それは仕方ないんじゃない?
だって今の貴女、女の子なんだし!」
「みょん!!……」
あーもー!
当たってるだけに腹が立つ!
腹が立つけど、言い返せない!
だって、その通りだからあー!
「あ、そうそう!
旧女騎士団跡って、酷く荒れてるんだってね!
だったら、調理場用の掃除用具には予備があるから、持ってっていいからね!」
「掃除用具?」
「そ! デッキブラシに、雑巾に、バケツ~~~あと」
「……あと?」
「洗濯場の用具から、゛ジョウゴ゛を借りていきなさい!」
「じょおごぉ? 何で洗濯場にジョウゴがあるの?
普通に考えると、庭園の……」
「あ"・る"・の"・よ"!!」
「はいぃーーーーっ!!」
ビシッ!(敬礼!)
「お掃除には、水が沢山必要だし、
一々汲みに行くのは大変でしょ?
洗濯場のジョウゴは、水が無限にでるから!
それとも、井戸からわざわざバケツに汲んで行く気?」
「お借りしますですぅ!」
「うむ、よろしい!」
……ってなわけで、ビオラは洗濯場へ向かった。
・⋯━☞因縁の洗濯場☜━⋯・
※第5話参照
「あのぉ~先輩?」
「あら? ビオラちゃんじゃなぁい!
どうしたの? またオシッコちびっちゃって
内緒でシーツを洗いに来たのかしら?」
「ちげぇーよ! ちびってねぇーし!!」
「うふふふふ うっそよん♪」
「うぬぬぬぬ……(震)」
この先輩メイドは、
ビオラが「浄化の杖」でやらかしてからというもの、
なにかと弄ってくるのがたまに傷だ。
でもまあ、可愛がってくれているのだとは思う。
「えっとですねぇ、メイド長のヴィーロさんから、
洗濯場のジョウゴを借りなさいって言われてぇ~」
「あ、はいはいはい! あのジョウゴね!
あ!…………」
「……なに?」
「今度はジョウゴでやらかしちゃダメよ?」
「やらかさないし!!」
「はいはい♪ じゃぁ、待っててね?」
「はい……」
しばらく待ってジョウゴを受け取ると、
ようやく「旧女騎士団施設跡」にやって来た。
・⋯━☞旧女騎士団施設跡☜━⋯・
「っほぉ~~~~すんげぇーな?」
まさに、お化け屋敷!!
壁のレンガには歯抜けがあるし、窓ガラスは割れているし、
ツタは張りめぐらされているしで、気味が悪さこの上ない!
「や、やるしかねぇよな……」
ビオラは、荷物を持って歩き出す。
そして、施設のドアを開けた。
・⋯━☞旧女騎士団施設跡前☜━⋯・
カチャカチャ……カチン!
カキッ!……キィイィイィ~~~……
「うっひょぉ~~~(汗) 」
施設跡の中は、埃で息苦しくなるほどだ。
埃と腐った水の臭いに、湿気が酷い!
雨漏りもあるせいか、所々に水たまりがあった。
「うっへぇ~マジっすか? 本気と書いてマジっすか?
ここ、俺一人で掃除っすか? ええ~そうっすか?」
なんて、力いっぱいの文句を言う。
と、そこへ突然少女の声がした!!
「何者だ!!」
「!?」
「ってやぁーーー!!」
(背後から剣を振りかぶる!)
「ふん!」
(デッキブラシで叩き落とす!)
バキッ!!
(脳天にクリーンヒット!)
「きゃん!」
ぼてっ……
「いだぁ~~~いん…すんすん……(泣)」
(頭を押さえてひっくり返ったG)
「……なにこの娘?」
ビオラに襲いかかってきたのは、
騎士団?風の装備をした十代半ばの女の子だった。
彼女こそ、いったい何者なのだろうか?
読んでくださり、ありがとうございます。
王命によって、
ビオラは新たな役目を与えられました。
旧女騎士団の復旧、
そして団長としての再出発。
しかし、その先には
思わぬ出会いが待っているようです。
次回もぜひお楽しみに。




