表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

ヒーローインタビューのような口調で行われる婚約破棄

「そうですね! えー、ヴィクトリア・ジーク、君との婚約を破棄したいですね!」


 金髪の侯爵令息ロベルト・ウィールは、伯爵令嬢ヴィクトリアに、夜会にてこう言い放った。

 長い栗色の髪の令嬢ヴィクトリアは、顔を悲しみに歪めて問う。


「ロベルト様……なぜです? 私のどこがいけなかったというのです?」


 ロベルトは爽やかな笑顔で答える。


「そうですね! えー、君が子爵家の令嬢である、えー、リズ・オーションをいじめていることが分かったからですね!」


 リズが波打つ桃色の髪をなびかせ、ロベルトの横に立つ。


「私、この女にたくさんいじめられて……本当に辛くて……」


「そうですね! えー、ヴィクトリア、君は……えー、リズのペンダントを奪ったり、わざと紅茶をかけたり、スカートの裾を踏んだり……このままではいけないと、婚約破棄するしかないと、決断にいたりました!」


 ヴィクトリアは首を横に振る。


「そんな! そんなことしていません!」


「そうですね! えー、君ならそう言うと思ってました! しかし、えー、この通り被害者からのですね、まぁ、証言もありますので、潔く受け入れてもらいたいと思います!」


 ヴィクトリアはうなだれる。

 そんな彼女を見て、リズは唇を斜めに歪める。いかにも愉悦に満ちた笑顔だ。


「もちろん、この婚約破棄はあなたの有責よ、ヴィクトリア様」


 ロベルトはうなずく。


「そうですね! まぁ、全面的に君が悪いので、えー、ジーク家には多額の慰謝料を請求したいと思います! 貴族とは公明正大であるべき存在でありますから、しっかりと! 今後の慰謝料請求もやっていきたいと思います!」


 ヴィクトリアは顔を下げたままだ。

 夜会にいた人間は、誰もがすすり泣く彼女を想像しただろう。

 しかし――


「うふ……うふふ……ふふっ……」


 ヴィクトリアは不気味に笑い始めた。


「な、なんなの?」とリズ。


「そ、そうですね」ロベルトも眉をひそめる。


 ヴィクトリアは唇に手を当てて笑う。


「こうまでシナリオ通りにいくと気持ちいいわね」


「どういうことよ!?」


 リズがヒステリックに声を荒げる。


「口で言うより、実際に見せた方が早いでしょ。トムス、来なさい!」


 ヴィクトリアが指を鳴らすと、ジーク家の家令である壮年の紳士トムスが会場に入ってきた。

 トムスは上品な所作で、掌ほどの大きさの紙を来客たちに配り始める。

 すると、会場がどよめきに包まれる。


「これは……!?」

「えええっ!」

「なんということだ……!」


 ロベルトも焦る。


「そうですね! 何が起こってるのか、えー、きちんと知りたいですね!」


 一人の客が渡された紙を見せる。


「これは……あなたがリズ嬢と逢引している様子を写した写真だよ!」


 ロベルトは目を丸くする。


「そうですね! えー、自分でも非常に驚いてます!」


 王国には“写真”の技術がすでに存在する。

 眼に写ったものを撮る魔道具『写眼機(しゃがんき)』の名で流通しており、庶民に手を出せる金額ではないが、貴族の中にはこれで記念撮影をする家庭も多い。

 とはいえ、なんらかの証拠のために撮影するという事例は非常に珍しかった。


 写真にはロベルトとリズがお茶をする、抱き合う、キスをする、等の行為がバッチリ写っている。


「なによこれ! なによこれぇ!」


 悲鳴を上げるリズに、ヴィクトリアが説明する。


「トムスは家令だけど、写真家の一面もあってね。どうせあの二人はデキてるからって、こっそり写真を撮りまくってもらったのよ」


「いやはや、私の趣味がお嬢様のお役に立てるとは光栄ですな」


 ヴィクトリアがリズをいじめていたことを示す証拠は、あくまで“証言”しかない。本格的に争えば、ヴィクトリアにも勝ち目は十分にある。

 しかし、ロベルトがリズと浮気をしていた件については、“写真”という明確な証拠を突きつけられてしまった。しかも、夜会という場で大勢にばら撒かれた。

 強烈なカウンターを喰らい、もはやこの場にロベルトとリズが清廉潔白だと思う者は一人もいないだろう。


「こ、こんなの……こんなのデタラメよぉ!」


 リズは写真のうち一枚を拾って破り捨てるが、ヴィクトリアは首を横に振る。


「無駄よ。今日皆さんにお配りした写真なんて、ごく一部に過ぎないんだから」


「あ、ああ……」


「先ほどのあなたの言葉を返そうかしら。此度の婚約破棄騒動、有責なのは間違いなくあなた方よ。婚約しているのに浮気をしたロベルト様と、婚約者を誘惑したあなた……今後どんな人生を歩むのか、とても楽しみだわ」


「うぐ、ぐぐ……」


 リズは震えながら、ロベルトに向き直る。


「どっ、どうするのよ! このままじゃ私たちオシマイよ! 自分に任せてればヴィクトリアを嵌めて、莫大な慰謝料をゲットしつつ、私たち結婚できるって言ったのはあんたじゃない!」


「そうですね! えー、計算違いなことがですね、まぁ、起こってしまったということですね!」


「なんでこんなことになったのよ! 私たち、これからどうするのよぉ!」


「そうですね! えー、敗因としては、えー、自分の婚約破棄ができなかったことかな、と思っています! えー、今日の婚約破棄で浮き彫りになった課題をしっかり改善して、次に繋げていきたいと思います!」


「私たちに“次”なんてあるわけないでしょぉぉぉぉぉ!!!」


 夜会の場で恥と不貞を晒したロベルトとリズ。

 リズの言う通り、今後社交界に彼らの居場所など存在しないだろう。一生を日陰者として生きることが決定した。


 一方、見事勝利したヴィクトリアは会場で拍手喝采を浴びる。

 彼女はこの件で自分の手腕を大いに示し、今後ますます貴族社会で名を上げていくことだろう。

 そんな彼女にある貴族の若者が質問をする。


「ヴィクトリア嬢、おめでとうございます。この度の勝因はなんだったでしょうか?」


 ヴィクトリアは答える。


「そうですね! えー、ロベルトの作戦は早い段階で読めていたので、それにいち早く手を打てたのが勝因ではないかな、と……」






お読み下さいましてありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
 面白かったです。  またとんでもない組み合わせを思いつきましたねえ。思いついても、それを作品にするのがまたすごく大変だったんだろうな、と想像してしまいました。  ありがとうございました。
こいつら、元々は似た者カップルだったんじゃ…………? それとも口癖がうつった?
次「えー」って言ったらぶん殴る。 おも…いや、いらっとしました(笑 ありがとうございました!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ