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読めない手紙


土方が交番を飛び出して、どのくらい経っただろう。

何もわからずがむしゃらにただ走っていたことに我に返って落ち着いて歩き出す。

(俺は誰を思い出したかったんだろう)はぁとため息をつくと、土方は「何やってんだ…」そう呟いた。

それにしても何も考えずに探してたとはいえ、最終的に前住んでいた古いアパートに戻ってくるなんて…まったくの無自覚だった。

今住んでいるところを契約するのと同時にこのアパートは引き払ったからもう自分のものではない。自分が住んでいた玄関あたりを見るとそこに誰かいる。相手はこちらに気づくと話しかけてきた。

「お前、土方だな?」

聞き覚えのない声だ。落ち着いた声の低い男性の声。

「失礼ですけど…あなたは?」

「俺は〝オルト〟」

オルトという男はふてぶてしく立っている。

「あんたの今の住所がわからないからここで待ってた。あんた宛の手紙を持ってる」

「俺宛の手紙…?」

土方はオルトから手紙を受け取った。少しボロボロな感じの手紙だった。送り主を見ようと手紙を確認するが文字が書かれていない。

「あの、これ何もかかれてませんけど…」

オルトは頭を掻きながらやぼったく言った。

「俺が交換したのは万年筆だけだからな」

「え?」

どう言う意味だろう…考えてるうちにオルトは「じゃあ”借り”は返したからな」

そう言って男はその場を去ってしまった。


土方は白い封筒を開ける。中に数枚紙が入っている。だが、どの紙も文字は書かれておらず白紙の紙があるだけで手紙とは呼べなかった。

「なんだこれ」

訳がわからない、この手紙を渡してきたあの男はなんのためにこんなものを渡してきたのだろうか。

土方は真っ白な手紙を懐にしまった。この手紙を送りたかった人は何故俺にこの手紙を渡してきたのだろう。白紙の手紙の事をしばらく考えていたが、眉間を指で押さえるのをやめると同時に土方は考える事もやめた。


*****


小麦畑が金色一面に輝いている。風が吹くとなびいて波をうっていた。サワサワと麦がそよぐ音とともに風車の羽が軋む音がしていた。

そこは廃れた廃村で人は誰もいない、地図にも載ってないような辺鄙へんぴな場所だった。本田がここに来たのは、何年前になるだろうか…。まだ安アパートに住み着く前の話だ。たった1人ふらりと現れて使われなくなっていた小麦畑の中にポツンとある古屋に住み着いた。

話かける相手も誰もいない、たった1人で電気も、水道も何もないこの場所に、本田は住む事を決めた。それが一番だと思ったから。本田の生活は小麦を収穫しパンを作り、1日分の水を川から汲み、日が登れば起きて日が沈めば1日を終える、そんな生活をしていた。そこに、ある男が訪れる。その男は”対価”と引き換えに、物や願いを叶えた。その対価は取引する相手の大切なものの価値で、願い事の重さと対等であるものを対価とした。


初めて本田が、オルトにあった時願ったことは年に一度土方が幸せに暮らしているか教えて欲しいという願いだった。対価は本田が持ってきていた生活必需品全てだった。

何もない村でそれは厳しいものだったけれど、本田はすぐに了承した。そして一年に一度本田はオルトから土方の様子を聞けることになった。


「オルトくん、待ってたよ」

ニコニコといつも笑顔でオルトを出迎えると本田は質素なパンを出す。

「お茶があればいいんだけど…」

本田が困った顔で笑うとオルトはパンを口に運んだ。

「しゅんたは本当に変わってるよな、俺に食糧渡して。対価でもないのに」

「気持ちだから。今日もよく来て下さいました」

ふふッと笑って本田は会釈をした。

「それで、土方くん…元気だったかな?」

「元気といえば元気だな。ユリって女と暮らしてるのに変わりはない。この一年の出来事といえば喧嘩してしばらくユリが家を出たとかそんな事」

「え?!喧嘩?!だ、大丈夫だったの?」

「2、3日したら女の方が頭冷やしたみたいで戻ってった」

「そっか…よかった」

オルトは本田をじっとみる。微笑んでいる本田を見て毎回思う

「お前は変なやつだよ」

「ふふ、また言ってる」

小麦畑がサワサワと音を立てるのをしばらく聞いた後本田は言った。


「オルト君、お願い聞いてくれる?」

「対価もらえれば、なんでも。」

「手紙を書きたいの」

「手紙?アイツにか?」

「うん、届ける訳じゃないんだけど…」

本田は手に力を込めた。

「土方君への気持ちがね、会えてるわけでもないのに膨らんでいくの。どうしようもなくて…手紙に書いたら、落ち着くかなって思って。だからペンが欲しい」

「…へぇ…じゃあ対価は…なんでアンタが男なのにそんなに長い髪をしているか、にしとくかな。理由あるんだろ?」

「え…そんな事でいいの…?えーと」

本田は腰より長い髪を邪魔にならないように三つ編みにしている。本田はその髪を優しく撫でた。

「まだ髪が短い頃、土方くんに褒めてもらったの…しゅんたの髪は柔らかくていいな…って」

「それだけ?」

「う、うん」

「お前本当に変だな。そんなに好きなら…いや、なんでもない」

オルトは言いかけて、やめる。そして続けた。

「対価にしては…ちょい足りない…けどその対価ならこれをやる」

オルトは万年筆を一本渡す

「あ、ありがとう」

「礼はいらねぇわ、それインク入ってないから。インク欲しけりゃ…届けてやるから他の対価を用意しろよ」

ニヤニヤと意地悪そうにオルトは笑う

「もう、オルト君は意地悪なんだから!」

むっとして言った後、本田はいつもの穏やかな表情に戻る。

「でも、ありがとう…手紙届けるためにそんな事言ってくれるんだよね。ありがとう」

優しく笑って本田は言った。

「でも、届けなくていいんだ。だからインクは大丈夫」


その日オルトは、何度も届けるよう促したが本田は頷かなかった。本田はオルトが帰るともらった紙へ万年筆の先をつけた。指先が細やかな動きが出来ないためガタガタとした文字だ。インクもなく綴っていった。



*****


「土方さん、なにぼーっと真っ白な紙見てるんですか…?それ、あきらかに仕事じゃないですよね?」

生蔵が、目を細めながら言った。

「お前さ…これ、なんか書いてあるように見えるか?」

「いや、ただのヨレた紙ですね」

「だよなぁ…」

何事にも無関心な土方が、ヨレた紙を気にしていることで、生蔵はなんとなくサボるなと言えなくなった。

「なんなんですか?それ」

「俺宛の手紙だとかで、もらった」

「手紙?!何も書いてないじゃないですか…!」

「だよなぁ」

ため息をつきつつ、いつもなら貰ったラブレターもそこそこにその辺に置く土方を知っている生蔵は気になった。

「先輩が、そんなに気にするの珍しいっすね」

その間も、土方は左手に手紙を持って眺めている。

「あ!何か暗号なんじゃないっすか?何かの条件で読めるとか!」

「あー…ライト当ててみるとかか」

土方は試しに仕事用の携帯しているライトを紙に当ててみる。

「何もないっすね…」

沈黙が流れて、生蔵は隣の席に戻る。

「土方ぁ!!」

突然先輩から声をかけられた。

「お前、書類仕事サボってんじゃねぇよ!!キッチリ書いて提出しろ!!」

「あ、やべ」

頭をペシっとされて怒られる。土方はたまってた仕事をこなすべく、手紙は一度机の上に置いた。



「腹減った…」

ようやく、仕事が終わり伸びをする。外を見ると空は明るくなっていた。雨も降っているがそこまで分厚い雲ではないようだ。

土方は机を整理する。色々な書類に紛れて例の手紙が下敷きになっていたらしい、土方はそれを封筒にしまおうと手にした、するとそこに一文字読める字があった。

「あれ?」

それは、ペン先で書かれた凹みが残り、周りが塗りつぶされて読めるようになっていた。

「これって」

土方は、机の引き出しから鉛筆を取り出して手紙にあてて鉛筆の鉛を擦り始めた。どんどん、浮かび上がってくる字。そして、その文字には見覚えがある。あの傘についていたメッセージの字と同じだった。全部擦り終える、土方は何故が脈が早くなっていた。何故だろう、手紙を早く読みたい!


『土方くんへ』


その書き出しを見た時、涙がこぼれて落ちた。


どうして、忘れていた?!

どうして、あいつを独りにさせた?!

思い出した。全て。俺と本田しゅんたは恋人だった。あいつは今どこに居る?!

探さなくては、謝らなくては!土方は手紙を読み終えると、着替えることも忘れて交番から駆け出し飛び出していった。



土方くんへ


お元気ですか?ちゃんと毎日ごはんは食べていますか?風邪はひいていませんか?

この度、筆を取ったのはあなたを想うと溢れて、出てきてしまうこの気持ちをどこかにぶつけたかったから。土方くんのことを考えない日はありません。

考えれば考えるほど貴方の仕草、声、匂い、笑った顔が愛しくなります。

以前、貴方が笑うと花が咲くみたいと言ったら、”お前、俺の事すげー好きだな”ってまた笑ってくれた事、何度も思い出します。思い出す度に涙が溢れ出ます。愛しくて胸が苦しいです。貴方と一緒に居た日々が、俺に取って宝物で、幸せでした。俺と同じ時間を過ごしてくれた事本当にありがとう。


一つ、ちゃんと言えてないことを書いておきます。俺は小さい頃、名家の家に生まれたけれど才が無くて世間の目から俺を遠ざけたかった家の人が、俺を部屋から出してくれなくなりました。幽閉です。外に出たら恥ずかしいと言われていました。小さい頃から真っ暗な部屋で動かず過ごしていたら筋肉が弱ってしまって手先足先から動かしにくくなりました。のちに、俺を外の世界で暮らして行けるようはからってくれた人達がいて、外に出ました。元の家の苗字は名乗れなくなったので本田になりました。

これが、土方くんと出会う前の俺です。

家を出た後、土方くんに出会ったあの日、重たい荷物を持ってくれたお巡りさんの土方くん、その後に、そそっかしい俺を心配して顔をなん度も出してくれた事、今となっては奇跡みたいな出来事だったなって思います。だからね、土方くん、出会ってくれてありがとう。


”呪い”の事は心配しないでください。必ず解いて、ユリさんを護ります。だからどうか、どうか、幸せであってください。

貴方が幸せである事が俺の何よりの幸せです。





*****


荒い息を整えて、土方は前の住所のアパート前に来ていた。その男がいるか居ないか、わからなかったけれど土方にはその男しか糸口はないと思った。そして、その男はアパートの前にいた。

両手をポケットに入れてこちらを見ていた。

オルトは口を開く。

「手紙…読んだかよ」

「読んだ…!しゅんた…どこにいるか知ってるか?!」

「知ってる」

「どこだ!!しゅんたどこにいる!?」

「落ち着けよ、お前だって記憶がない部分あるだろ?」

「お前、何か知ってるのか?!手紙に書いてあった”呪い”ってなんだ!」

オルトはしばらく考えた後頭を掻いた。

「本当は対価がいるんだけど、しかたねぇなぁ」

オルトは続けて言う。

「順を追って説明してやるよ。お前と本田が今どうしてこうなったか」



ーーー


「土方くん、出張頑張ってね?」

本田は、あれこれ忘れ物が無いかチェックする

「えーと、お財布持ったでしょ!スマートフォン持ったでしょ!あとあと歯ブラシは?!」

「ん、持った」

土方は本田の腰をぐいっと引き寄せてキスをした。

「んっ」

軽々抱き寄せられた本田は真っ赤に頬も耳も染めて恥ずかしがる。

「ひ、土方くん…ははは、恥ずかしい」

「嫌?」

「嫌…じゃない」

本田はもうゆでダコである。土方はひとしきり本田をいじめると、優しく頭をポンポンした。

「行きたくねぇけど…行ってくるか…」

「うん…!気をつけてね!」

連絡する。と土方は言うと玄関を出た。


それが、本田が幸せだった時間の終わりだった。しばらくすると、パタリと土方と連絡が取れなくなった。どうしたのだろうと心配するが、本田はしばらく待った。きっと忙しいのだ。だが、待てども土方から連絡はなくこちらからの連絡も既読がつかない。電話も繋がらなかった。本田は土方に何かあったのかと思い2人で住んでいたアパートをしばらく留守にして、土方の出張先に行くことにした。

出張先に到着し、土方の勤め先の警察署に向かった。すると土方は数ヶ月前に大きな事故に遭ったらしい。やはり、連絡が取れなかったのはそのせいだったのだ。しかも土方は記憶喪失になったと聞いた。土方が心配でしょうがない。すぐに会いたかったがその日は土方は非番で、いないと言う。警察署の人に土方の場所を聞いてみたが教えられないと言われてしまった。本田は警察署を出て地図を見て警察署の寮を探した。探し歩いているととある女性の声が聞こえた。


「ねぉねぇ、次のおやすみ遊園地行こうよぉ」

次の返答した男性の声は土方だった。

「あー…いいんじゃね?」


あ…土方君…と声をかけようとした時だった。

女性が土方に抱きつきキスをした。


「へへー、隙あり♪」

ユリは煽るように変な顔をした。

「お前…ははっブタみてぇ!ははっ」


土方が笑っていた。自分に向ける笑顔とは少し違う、無邪気な笑顔…


本田は声をかけようと、必死に声を出そうとする。

その人は誰?

どうして、そんな笑顔で笑うの?

俺のことは忘れてしまったの?


「ひじ…か…たくん」


やっとの思いで声を絞り出した時、本田の背後に老婆が立っていた。

「アンタ、あの女の知り合いかい?」

驚いた本田は、その老婆を見る。あの女とはユリの事のようだ。老婆が指を指している。

「アンタ、あの男の知り合いかい?」

老婆が本田を見る

「え…と、はい、それがなにか…?」

「私はね、見えるんだよ、人にかかってる呪いなんかがね。あの女、呪われてるよ」

「の、呪い?」

「そうさ、あの女はこれから不幸になる。あんた、近づこうとしていたみたいだけど、やめておきな」

本田は混乱した。あの女性に呪いが?!どんな呪い?土方くんへの影響は…?!

ぐるぐると思考を巡らせて、老婆に本田は質問した。

「あの女性がかかってる呪いというのは…なんですか…?」

「不幸が、降りかかる呪いだね。下手したら怪我をするかもしれないし、死ぬ可能性だってある」

「え?!」

本田はしばらく沈黙したあとその老婆に聞いた。


「おばあさん、その呪いはー…」



*****


「それで?」

土方は拳を握りながら聞いた。

オルトは言葉を続ける。

「本田は言った。その呪いをどうにかできないか」ってな。

そしたら老婆は、こう言ったんだ

「呪いを解くことは出来ないが、誰かに移すことは出来る」…と。

その言葉を聞いて、土方の表情は強張る

「まさか」

「そう、本田は理解したんだよ。記憶喪失になったお前が新しく好きになった女を、不幸にしたくない、だからしゅんたは自分に呪いを移してくれってな。」

「あの、バカ…!!」

土方は頭を掻いた。

昔からのお人好しで、自分のことより他人のことを優先する奴だった。

「俺は別に、ユリを好きなわけじゃない、なぜかそう思おうとしてた俺がいたんだよ」

「その辺、きな臭いぜ。ユリが呪われたのは

お前を自分のものにしようと無理に媚薬か何かで好きにさせたんさじゃねぇかと俺は思う。本人が知ってか知らないか、自分が呪われる事になる結果だとしてもな」

少しずつ、土方の中で欠けていたピースが埋まっていく。自分の中にある、ユリへの好きという気持ちの違和感。目が離せないけど興味はなくてずっと違和感を感じてた。その違和感の正体が少しずつ溶けていく。

「それで、呪いを自分に移したしゅんたはどうなった?!」

無事なのだろうか、心配になって焦りが出る。

「しゅんたに移った呪いは、お前ら2人の近くに居ると悪影響が出るもので、遠い廃村でしばらく暮らしてた。俺としゅんたはそこで出会ったんだ。質素な暮らしをしてたぜ。お前たちの住む場所からなるべく遠くを選んだんだ、そこが廃村だった。」


土方は胸が痛んだ。廃村?たった1人で俺の為にそんなところで…

拳に力が入り、震える。どうして俺は忘れていたんだ。事故のせいだとしても、もっと早く思い出してやるべきだった。

「今は?アイツは今はどうしてるんだ?」

「しばらく経ったのち、呪いが解けてな、それでこの町の外れに住んでる」

「じゅ、住所教えてくれ!」

オルトはメモを渡した。「恩にきる!」土方はメモを見て住所がわかると踵を返して走り出す。

「今度は手放すんじゃねーぞ!!」

オルトが叫んだ。

土方は背を向けたまま拳を握って合図をする。


土方はただ走った。

そのうちに電車の踏切が見えてくる。

間の悪い事に、土方が近づくのと同時に遮断機が降りた。荒くなった息を整えながらイライラが募る。


辺りを見渡してみる。落ち着け。小学生の下校時刻で、顔見知りの小学生が、いつものお巡りさんだと笑っていた。

警官の服装のままな事に今気付く。

ふっと目線を遠くに向けた。


目があった。


いた、しゅんただ。


踏切の向こうにある小さなアパートの窓からこちらを見ていた。


胸が熱くなった。鳥肌が立つように感情が湧き立つ。


「しゅんた!!」


しゅんたが驚いたように動いた。


「ごめん!!」


大声で叫んで、心の底から謝罪する。

1人にしてごめん。忘れてごめん。

ずっと孤独にさせてごめん。


涙が溢れてポタポタとアスファルトに落ちる。


「土方くん!!!」


しゅんたの声が耳に届く。下げてた頭を上げると窓からめいいっぱい体を出してこちらを見ていた。


「しゅんた、好きだ!!!」


しゅんたは、驚いた表情で顔に手をやる。


ガーッと電車が通る。一瞬でしゅんたは見えなくなった。通り過ぎる電車が鬱陶しく感じる。パッと視界が開けると、遮断機の向こうに走ってくれたのだろう、しゅんたが立っていた。


「俺も、大好き」


遮断機があがると2人は強く抱きしめあった。しゅんたは鼻を赤くしながらポロポロと泣いていた。ずっとあった喪失感が消える。

「しゅんた、好きだ」何度言ってもいい足りない

「うん、うん、俺も」

しばらくは、同じやり取りをする。今まで言えなかった分たくさん。

そして、しゅんたは、土方の顔を見た。

「わぁ、やっぱり土方くんは泣いててもキラキラしてる…きれい」


それを聞いて土方は緊張の糸が途切れる。

笑いが込み上げてきて、ついつい声を出して笑ってしまった。

「綺麗なのはお前な」

しゅんたは、顔を真っ赤にして目を大きく見開いた。そして、うっとりするように目を細めて言った。

「やっぱり」

「ん?」

「土方くんが笑うと、花が咲くみたいだね」


相変わらずのやり取りを数年ぶりにして、2人は笑いあった。


後日、ユリに尋問したら予想通り、土方に自分を好きになる薬を使ったのだと言う。

それで、自分が呪われるなんて思っても見なかったらしいが、そのまま呪われてしまえと土方は内心思ったがしゅんたが怒るので口に出すのはやめた。


ユリには強制的に別れを告げた。ユリは最後まで粘ったが土方への媚薬の効果はもうなかった。


「しゅんた、俺とまた一緒に暮らさねぇ?」

しゅんたの家に訪問した土方がそう言った。

また前みたいに2人で暮らしたい。

しゅんたは、どうだろうかと見つめると、

編み物をしていた手が止まり、毛糸を床に落としていた。


時が止まったみたいに動かなくなったしゅんたの表情がみるみるほころんでいく。


「はい、喜んで!!」


今度は絶対離さない。ずっと離れていても自分を愛し続けてくれた、読めない手紙はもう書かせない。今度はしゅんたの口と声で聞きたいから。





終わり

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