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朧げな君


数日前、梅雨入りだとスマホの記事に載っていた。その予想は当たっていて本日もしとしとと雨が降っている。土方は雨に無関心だ。どう無関心かというと、雨が降っているのにも関わらず傘を持たずに出勤するほど無関心である。


今日は、出勤の日ではないがちょっとした買い物をしに玄関に向かう。靴を履き、玄関から出ようとすると後ろから呼ばれた。

冬司とうじくん」

振り向くといそいそと赤い傘を持ったユリが話しかけてきた。

「傘、今日も持たないのぉ?」

「傘?」

「雨降ってるのよ?」

「へぇ」

「へぇ、じゃないよ!濡れちゃうって」

そこでようやく、傘を持った。

「傘っていつの間にかにどっかに置いてきてんだよな。コンビニとか。」

「忘れて濡れて帰る方が変だと思う」

だがユリは土方に抱きつく、顔は嬉しそうである。

「傘、やっぱり持たなくていいや!いつもみたいに相合い傘しよ!」

そう言われたが、土方はそうまでして相合い傘する気はなく、傘を持って出かけた。

「もう、冬司くんのいじわるぅ」

「いや、濡れるの嫌なんじゃねぇの」

「相合い傘できるから、ユリは嬉しいよ?」

コンビニに途中寄った。欲しかった商品を適当にカゴに入れていく。

「あ!これ新しいやつだー!」

ユリは土方の持ってるカゴに化粧品をいくつか入れた。なにかこの前も買っていた気がするが覚えていない。会計を済ませコンビニの自動ドアをくぐると、雨足が強くなっていた。

「うわ、雨強くなってるー、服が濡れちゃう…」

ユリは持ってきた傘を開こうとするが土方は

家に向かって歩き出そうとしていた。そこでユリに引き止められた。

「ちょっとちょっと、いくらなんでも忘れすぎ!傘さしていこうよー」

「あー」

「土方くんて、ぼーっとしてるよね!」

ユリがさした傘を土方はもって二人で入った。

「あれ、傘お前持ってきてなかったっけ?」

「あ、バレた?実は持ってる!でも相合い傘したくて!このまま帰ろうよぉ」

少し考えたが、考えるのが面倒になってそれでいいかと思う。

「私、雨嫌いだけどこういう時はラッキーって思う!」

……?

「雨、好きって言ってなかったっけ?」

「え?」

そこで車が二人の側を通った。速度があり、タイヤが路面の水を弾く。ユリは思いっきり路面の水をかぶってしまった。

「やー!もう最悪!雨嫌い!」


ユリはもう濡れたくなくて、やはり傘を一本ずつ持ちその日は帰った。


***


「雨…綺麗だね。」

「え?」

「空から宝石が降ってくるみたい」


そう言って傘を持ってるのに、傘をささず雨が降ってる雨空を見上げて満足そうに微笑んでたのは…誰だっけ。



「土方さん」

ビクリと体が動いて起きた。

「また、勤務中に居眠りですか?」

「いや、瞑想してた」

「いつもの、居眠りじゃないですか」

後輩の生蔵を軽く蹴る。

それが終わると交番勤務の二人はぼーっとし始めた。

「暇っすねー」

生蔵が言う

「暇だな」

小学生帰宅時の、道路交通安全取り組みの時間にはまだあるし土方は伸びをして、最近の出来事でコンビニでいつも買ってるゼリー飲料が無くて仕方なく弁当を買ったなどと、どうでもいい話を暇つぶしにする。

「あ、俺その時ちょうど遠目で見てたかもしれないです、ユリさんと相合い傘してましたよね?」

「え?ユリ?あの時居たっけ…?」

「一昨日の話なら、居ましたよ」

「ゼリー無かったのは一昨日だけど…あぁ、車に水ひっかけられたやつか」

そこで思いだす

「あぁ、居た、ユリ」

「普通忘れますか…」

「俺ってぼーっとしてるらしい」

「いや、ぼーっとしてるじゃなくて土方さんは何に対しても”無関心”なんっすよ」

確かに。そう思った。子供の頃それでかなり親は苦労したらしいし。何かに興味を持つのはあまり無かった。

そういえば、恋人のユリの事は「好き」という意識ははっきりあるから、無関心ではないと思うんだが…何か違和感はある。


コトン…


なにか交番の玄関扉の方から何か聞こえた気がした。だがとりとめて気にする必要もないかと思う。


「土方さん、巡回行ってきます」

「おぅ」

土方はまた居眠りの続きをしようとしたら出てった生蔵が戻ってきた。

「土方さん、なんか傘届いてますよ。土方さん宛に」

「は?」

生蔵から傘を受け取ると、持ち手の方に糸で付けられたメモがあった。字がヨレヨレで読みにくい

「土方さんへ…この前はありがとうございました。今日は傘が必要になるので使ってください。小さなお礼ですがどうぞ」

字の感じからして、小学生…だろうか?

身に覚えが、土方には無かった。

一緒に読んでいた生蔵が何かに気付いたように言った。

「あぁ!この前電車の踏切の所でこけちゃった子を連れて帰ってきて、ここで手当てしてあげたあの子じゃないですか?」

「そんなことあったっけ?」

「……ありましたよ」

生蔵は呆れて、ため息をつきながら交番を出てていき、見回りを再開するようだ。

土方は、傘についてるメッセージを見る。

なんとなく、懐かしい気分になるのはなんでだろうか。

「あれ…今日天気予報晴れじゃなかったっけ」

土方はスマホで天気予報を確認する。やはり今日一日は晴れマークが付いている。

使わない傘を持って帰ると、またどこかに忘れそうだ。土方は交番内の傘立てに傘を立てた。今日は使わないだろうけど、まぁいつか誰かが使うだろう、呑気にそう思っていたのに宵の口になると雨が降ってきた。

「結構降ってますね、雨」

「めんどくせぇ…傘持ってきてねぇ…」

流石にこの雨足では家に着く頃にはずぶ濡れだ、「ちゃんと仕事しろよ、天気予報」と言ったら生蔵に「先輩がいいます?」と言われたので丸めた紙で頭をはたく。

「傘持ってきてない」

「あー、でも届けられたお礼の傘があるじゃないっすか!」

生蔵の発言でそういえばと思い出す。

「じゃあその傘使うか」

土方は退勤時間になり制服から私服に着替えてからその傘を手に取った。「じゃあお疲れ」

同僚の挨拶を背中に土方は雨を前にして傘を開いた。確かにこの雨の中傘無しで帰るのは大変だったろうなと思う。タイミングのいい子供に感謝しながら土方は帰宅した。


「先輩!また届いてますよ!傘!」

例のお礼の傘が届いてから5日経った日の事だった。生蔵がまた傘を手に持ってきた

「いやいや、ただの忘れもんだろ」

土方は手を左右に降って〝ないない〟をした。

「先輩宛にメッセージまたついてますけど…」

「は?」

メッセージには、「お天気雨降ります。もし傘をもってなかったら使ってください」とあった。

「またあの子供ですかね…?」

メッセージの字はひどくよれていて、以前のメッセージの字と同じだった。

「流石になんかへんですね… 念の為に何かついてないか検査します?」

「…んー ちょっと預かる…なんか気になるから俺が調べてみるわ」

土方は手袋をし傘を受け取った。なんだろうこの胸のあたりが疼くような感覚。わからない…いくら考えても感情に疎い土方にはそれがどんな感情なのか、結局わからなかった。傘の持ち主は怪我をした小学生の子供なのだろうか。モヤモヤとする中、土方は残りの業務をこなした。

そろそろ日が落ちてくる頃、道路交通安全取り組みに行かなければならないと気づく。外に出ようとすると日は出ているのに雨がぱらぱら降っていた。

「お天気雨…」あの傘のメッセージを思い出した。土方はかっぱを着ると外に出て線路の踏切まで向かった。

「お気をつけて歩いてくださいね」

笑顔で土方は誘導灯で子供達が安全に渡れるように誘導する

「あ!かっこいいお兄ちゃんだー!」

「いいなぁ!僕もその赤いの持ちたーい」

子供達に声をかけてもらって土方は笑顔で返事する。

「ありがとう、でもこの棒を君たちに渡しちゃったらお巡りさん怒られちゃうから勘弁して欲しいかな」

爽やかに切り返す姿は交番での土方とは全くの別人で向かいに立って誘導している生蔵が「猫被ってる」とボソリと言った。子供達は小さなかっぱを着てる子や傘をさしている子など様々で柄も子供が好むような色鮮やかな配色のものばかりだ。そこで土方は思う。

(子供が二度も誰かに傘を渡す時、ビニール傘なんて選ぶだろうか…?)

そう思った時だった。

「あ、この前のお巡りさん!」

声の方を見ると男の子が土方を見ていた。黄色いかっぱを着ていた。

「土方さん!その子ですよ!前に怪我した…!」生蔵が言う。

パッと土方はその子供の顔を見た。何故かその子供は土方をまじまじと見ている。

「お、お巡りさんの顔に何かついてるかな?」

土方は落ち着いて笑顔で話す。

ハッとしたようにその子供は言った

「綺麗なお兄さんが…」

「綺麗なお兄さん?」

「うん…綺麗なお兄さんが、お兄ちゃんのことを凄く綺麗なお巡りさんだって…いつもいうから」

「え…?」

「きらきらしてて、夕日がもっと眩しくなるって言ってた!それが凄く綺麗だって…!」

(誰だ?!俺を知ってるみたいだけど…そんな事言われた事がない)

ズクンと胸が捻れるような痛みが走る。なんだ…?!俺の記憶なのか…?何か思い出しそうだ…!

土方は心臓のあたりの服を強く握りしめる。

黄色いカッパの子供はさらに言葉を続けた。それが重なって誰かの声が重なる。

「〝あなたが笑うと、花が咲くみたい〝」

心臓が大きく脈を打つ。(俺はこの言葉を知っている!)柔らかく微笑んでおっとり喋る人だった。

土方は漠然と思う。俺の好きな人だった…そうだ、俺はユリを好きなんじゃない、何故だかはわからないけど好きだと思わないといけないと頭がそう思っていた。

土方の様子がおかしいと気付いた生蔵が近寄ってきた。

「先輩…大丈夫ですか?」

「あ…いけない!綺麗なお兄さんの話は秘密だった」

黄色いカッパの男の子が言う。

「ちょっと!待って!待ってくれるかな」

土方は走り出しそうにした男の子を呼び止めた。

「秘密って何かな?綺麗なお兄さんって誰…?」

男の子は悩んだ末にポツリと言った。

「交番に傘を置いて来てほしいって…その人が僕に頼んできたの…自分は近づいちゃいけないんだって、でも傘をすぐに無くしちゃう人がいるからって、その人のために傘を置いて来てほしいいんだって言ってた。」

男の子は話終わると踏切を走って渡ってしまった。その後ろ姿に咄嗟に土方は声を出した。

「ありがとう!君のおかげで俺は…大事なことに気づけた!」

振り向いて安心した男の子はやっとほっとした顔でバイバイと手を振った。


その日の夕日はいつもより日が落ちるのが早く、暫くしたら辺りは暗くなっていた。

交番に戻ると土方は急いで制服から私服に着替えた。

「おい、土方お前まだ退勤時間じゃねぇだろ?」

同期の同僚が声をかけるが土方には聞こえていなかった。代わりに生蔵が答えた。

「行かせてあげて下さい。先輩の後の仕事は俺がやっとくんで…」

探しに行かなければ…!あいつを見つけて、〝ただいま〟って言ってやらなきゃ…


顔も名前も思い出せない。唯一わかるのは、多分あいつはずっと…ずっと俺を待ってたはずなんだ。


なんの根拠もない思考に確信めいたものがある、それが土方を突き動かす。



迎えに行かないと…遅くなってごめん…ごめん!


土方は薄く涙を浮かべながら、名前も顔もわからないその人を探しに夜道をかけて行った。



                                    







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