37話 再び訪れる夫婦の店
無事にスチールゴーレムを討伐した僕達は、ダンジョンの外に揃って出て来た。
勿論今回、最大の目当てと言えるスチールゴーレムの鉱石は残らず、盾山君が回収して厳重に管理する。
本人曰くこれを狙って他の冒険者が襲って来るかもしれない、との事らしい。まぁ彼にとっては念願のレアボス素材だからね。
此処まで苦労して取られたくない、と思うのは当たり前だろうし。
「よーし、これで後は高円寺のグレイドさんの所へ持って防具に加工してもらうだけ……」
ん?高円寺のグレイドさん……って僕の装備を新調する時、お世話になったパイナップル頭でお馴染みの斧山太郎さん?
「え、高円寺のグレイドさんってアルメカンピオーネの、あのグレイドさんの事言ってる?」
「おお、それそれ! 何だ姫島も知ってんのかよ?」
「知ってるっていうか、あたし世話になった事あるし神城君も今の装備に整える時に行ったからね」
リオンさんと盾山君が会話する中、僕の頭の中で思い出す2人の夫婦。
今思い出しても相当個性強かったからなぁ……。魔法使いの僕に重そうな斧を勧めたりとかもされたっけ。
「本当に良いのか? 俺らに付き添うって」
僕達は今電車の中に乗っていて、浅草から高円寺へ移動中。盾山君達アイアンシールドがあの2人に会うって言ってたから、僕達も今回それに同行する形になった。
「良いの、前にあたし達のランクアップに付き添ってもらったし!」
「新装備整えて調子が良いから、お礼伝えておこうと思って」
「行った事が無くてどういう所か興味がある」
それぞれ異なる理由で彼らと高円寺の店に皆で行く。この前よりも大人数で押しかける事になっちゃうね。
「でも鋼の鉱石を加工……盾山君が鎧の強化にリンちゃんもハンマーを強化出来そうだけど、倉田さんも装備強化するの? 杖かローブを鋼鉄にするとか?」
チームの中で鋼の装備があまり似合わなそうな暗夜さん。リオンさんは彼も何か強化するのかと、気になって聞いてみる。
「……僕自身に鋼の装備は合いません。僕はただ、重量感ある装備だったり物が好きなんです」
暗夜さん自身は装備を作ってもらうつもりはなく、盾山君とシュンちゃんの付き添いで行くだけ。その中で暗夜さんがそういう装備が好きなんだと打ち明けてきた。
「あー、そういやお前俺の鎧や盾を見て良いとか言って、パーティ入ってくれたよなぁ」
「私のハンマーも見て素晴らしいって褒めてくれてたニャー」
暗夜さんがアイアンシールドに入ったのは、盾山君とシュンちゃんの重量感ある装備に惹かれての事らしい。
「近年では何かと軽量化が目立ち、スピードが重視されてきている時代となっていますけど……僕はそれがあまり好きではありません。全てを粉砕する一撃必殺の破壊力にどんな攻撃も通さず受け止める鉄壁の守り、重量級の装備はそれを可能とする素晴らしい可能性を秘めている事に人々は何時の間にか忘れ……」
あれ、暗夜さんのトークが止まらなくなってきたかも。スイッチが入って話に入り込む隙間が……。
「……失礼、1人で色々ペラペラ喋って周囲を置き去りにするのはよくありませんね」
そこで暗夜さん自身が今の状況に気づいて、自ら話を中断する。
「えーっと、ひょっとしてゴーレムとかそういった重量級モンスターも好きだったりする?」
「無論です。なんだったら僕があれを操って戦いたい所ですが、残念ながらゴーレムマスターとしての能力は得られていやいないようで、どうやったら僧侶の身でそれを可能とするか日々考えさせられる物がありまして……」
あの浅草の洞窟で大きなゴーレムに、熱い眼差しを見せたのは気の所為じゃなかったみたい。
揺れる電車の中で僕は再び暗夜さんのマニア心に、火を点けてしまった事にちょっと後悔していた……。
僕の装備を整える時以来となる高円寺。まさか今度はリオンさんだけじゃなくて、此処まで多くの人達で来るなんて前は全然考えてなかったなぁ。
「盾山君は何時からグレイドさん、アルメカンピオーネに行くようになったの?」
「あー、1年ぐらい前になるか。ダンジョンで共闘してた奴から良い武具を扱う隠れ家があるって教えてもらってさ、当時とかあんま稼げなくて金無かったけど、そこで装備を安く整えてもらってさ」
装備品が何かと高いから、装備を整えるには高額の金が必要になるけどアルメカンピオーネは安く済ませてくれる。それに盾山君も世話になってたみたいだ。
「私も今のハンマーをグレイドさんに作ってもらったおかげで、良い感じに戦えるニャ〜」
盾山君だけじゃなく、シュンちゃんもハンマーを作ってもらっていた。まぁグレイドさん重そうな斧を扱ってたし、あの人なら鼻歌でも歌って作ってそうかも。
という僕の中でのグレイドさんの仕事イメージを浮かべてる間、アルメカンピオーネの店前まで来る。
「おじさん〜、マリアンさん〜」
先に店の中へ入ったリオンさんが夫婦2人の名を呼ぶ。
「あらリオンちゃんいらっしゃーい♪」
「よく来たねー、って僕にもグレイドってちゃんと言ってほしかったなぁ」
以前訪れた時と変わらず夫婦2人は明るく、僕達を出迎えてくれた。
「ご無沙汰してます、グレイドさんにマリアンさん」
「お久しぶりニャ〜♪」
「あら、盾山君とネコちゃんもいらっしゃい♪ 今日はまた大人数ね?」
「神城君も居て、後は……クールそうな新顔の2人もいるね?」
「岸川護です」
「倉田暗夜です、はじめまして」
僕が2人に挨拶する横で、護君と暗夜さんがそれぞれ頭を下げる。
しかしシュンちゃん色んな呼ばれ方するなぁ。リンちゃんに続いてネコちゃんって。
「あの、今日は防具の加工をお願いしたいんです。この素材で」
盾山君は挨拶もそこそこにして、本題に入ると手に入れたスチールゴーレムの鉱石を取り出す。
その時、陽気なグレイドさんとマリアンさんの目が真剣な物へと変わったように見えた。
「こいつは……随分珍しい物を持って来たね」
「ええ、スチールゴーレムの鉱石とか久々に見るし、状態も良い」
武器と防具を扱うプロフェッショナル、その鉱石がどういう物なのかを一目で見抜くのは、プロにとって当たり前かもしれないけど凄いと言うしかない。
「これで俺の鎧と春林のハンマー、作れませんか?」
「ふむぅ〜……」
盾山君が真剣な眼差しで頼むと、グレイドさんも腕を組んで考える仕草をしていた。
「春林ちゃんのは今のハンマーをメイン素材として、今から作れば明日には仕上げられると思う。ただ鎧は簡単じゃない、だろうハニー?」
グレイドさんの言葉を受けてマリアンさんは頷く。
「鋼の防具は技術的に難しいからね。多分知り合いの子を呼んで手伝ってもらわないと、完成は厳しいと思うの。やるからには最高の防具を作らなきゃいけない」
思ったよりも鎧の完成は難しいみたいで、ハンマーが明日なのに比べて鎧は長くなりそうだなぁ……。
「分かりました、じゃあその鎧に恥じないように己のレベルアップに励んどきます!」
すぐには出来ないと分かって落胆するかと思えば、盾山君は前向きに捉えて自らの力を高める事を宣言した。
「おお、熱いなぁ盾山君! 何か刺激される事でもあったね?」
「ええ。さっき浅草のダンジョンに潜ってそのスチールゴーレムと戦ったんですけど、神城や春林達に助けられて危なかったんですよ。だからもっと強くなろうって」
そんな事思ってたんだ盾山君。むしろ僕の方がキミに助けられてるんだけどなぁ……。
「ハッハッハ素晴らしい! 若者達の成長は実によろこばしいねぇ、こっちも若返るようだよ!」
グレイドさんは明るく笑えば右手親指を立てて、歯を煌めかせる。
「ようし、春林ちゃん。このグレイドさんがグレイトな素晴らしいハンマーを作ってやろう!」
「わー、楽しみニャー♪」
テンションの上がったグレイドさんへ、シュンちゃんは自らの巨大ハンマーを手渡す。それを片手で扱うグレイドさんも結構な怪力っぷりだなぁ……。
「……む? おい、あれ……」
壁に飾っている武器を眺める護君が僕達を呼ぶ。店内に設置されたテレビから、何か興味惹かれるような物が流れたらしい。
『という訳でラビリントカンパニーが主催するダンジョンイベントがもうすぐ行われるぜぇ!』
そこには派手なスーツに身を包むサングラスをかけた、MCっぽい男の人がイベントの説明を行っていた。
『聞き逃しちまったボーイ、ガールの為にもう一度言うぜ! ダンジョンにいるレアモンスター、レアボスモンスターを期間内に最も多く倒したチーム、またはソロが1位で優勝だ!』
ラビリントカンパニー主催のダンジョンイベント、その内容がレアモンスター討伐の大会。
僕を含めた場の人々がそのイベントについて注目する。




