12話 初めてのクエスト
「まさか立ち上げてそんな経ってない時に依頼なんて、幸先良いねー」
リオンさんは鼻歌混じりで僕の右隣を歩いている。
僕達は甘利の友達、立樹ちゃんから話を聞こうとデパート内を移動してカフェに向かう最中だ。
クエストはチームを組んだ者達に依頼を発注出来て、それをクリアすればチームは依頼主から報酬を得たり、高評価に繋がって国から特別ボーナスが支給されるらしい。
チームと全く縁が無かったから、こうやってクエストを受けられて新鮮な楽しい気持ちになれる。
デパート内のカフェに到着して、奥の4人座れる席に案内されると甘利と立樹ちゃん。僕とリオンさんという並びで向かい合って座った。
「じゃあ立樹ちゃん、依頼内容について詳しく聞かせてもらえるかな?」
リオンさんは向かい合う立樹ちゃんに、優しくクエスト内容について聞く。これで高難度のダンジョンにいるモンスター倒してくれとか、そんな依頼内容だったらひっくり返るよ?
「あの……実は明日、うちの兄さんの誕生日なの」
「うん」
依頼内容はどうやら立樹ちゃんの兄が深く関係するらしい。僕は頷くと話の続きを聞く。
「お祝いしたいんだけど、あたし1人だからお家誰もいなくて飾り付けとか準備とか大変で……だからチームの人に手伝ってお祝いしてくれないかなって」
申し訳なさそうな顔で依頼内容について語る立樹ちゃんに、僕はその背に天使の羽が生えてるのかと思ってしまう。
何この可愛い依頼内容!?可愛過ぎるんだけど!?
「それはもう手伝ってあげる! ううん、手伝わせて! お姉ちゃんそういうの得意だから!」
リオンさんは多分僕より依頼内容の可愛さに、ノックアウト状態かもしれない。食い気味で手伝わせてほしいと、立樹ちゃんに伝えてるのが分かる。
「本当? ダンジョンとかそういうの全然関係なくて、ただのお手伝いみたいなクエストでも良いのかなって……クエストボード全然書き込めなかったから……」
非常に酷な話になっちゃうけど、おそらく大抵は引き受けないかもしれない。
可愛くても他人からすれば見知らぬ子供からの依頼で、子供の手伝いのクエストは報酬、チーム評価のアップも期待出来ないはず。高い報酬を子供には払えないだろうし、誰でも出来そうな内容をクリアして、凄いとは思われないだろうから。
でも僕は引き受ける。初めてのチームとしてのクエストだし、可愛い妹の友人からの依頼だ。出来たばかりの僕達で出来るなら引き受けよう。
「いいよ、こうして直接依頼を受ける事だって出来るし!」
「でも、あんまり高い報酬とか払えないから……」
「いらないいらない、無料で引き受けるから♪」
僕が言う前にリオンさんが全部言って、立樹ちゃんに伝えていた。勿論報酬については立樹ちゃんから取るつもりなんて全く無い。この天使からは取っちゃ駄目だよ!
「それは駄目だと思う! だってクエストだから、ちゃんと報酬無いとおかしいから……」
しかし立樹ちゃんは僕達が思ってる以上にちゃんとしてて、報酬をちゃんと払いたいと言い出した。かと言ってこの子から何か取るというのは正直かなり気が引ける。
どうしようと僕やリオンさんが頭を悩ませていると。
「立樹ちゃん、JTubeのアカウントは作ってる?」
「え? うん、あるけど……?」
立樹ちゃんの隣で話を聞いていた甘利が、突然アカウントはあるかと確認してきた。
「そこでさ、グルーチャンネルって登録はしてる?」
「ううん、してない」
そこまで聞くと僕は甘利が何を言おうとしているのか、完全に理解する。
「じゃあ成功報酬はグルーチャンネルの登録! これで報酬ありになったでしょ?」
「え? それで報酬になるの……?」
「ちゃんとなるよ。登録者が多くなってコンテンツが盛り上がったら、あたし達にはすっごくお得なの!」
チャンネル登録するだけなら無料で、立樹ちゃんの負担にはならない。更に登録者が増えれば、グルーチャンネルの利益に繋がる。これは我がチャンネルが誇る、動画編集者のファインプレーだ。
「じゃあ、えっと。よろしくお願いします」
報酬の内容も無事に決まり、僕達アンフィニアーミーは正式に立樹ちゃんの依頼を引き受ける事となった。
立樹ちゃんのお兄さんの誕生日の日を迎え、僕はリオンさん、甘利と共に彼が家を出たタイミングで連絡を受けて、岸川家に来ていた。リオンさんに続いてまたしてもご近所だったので、移動にそこまで時間はかからずだ。
9階建てのマンションにある8階。そこの801号室に岸川という表札があって、立樹ちゃんとお兄さんの住む家は此処で間違いない。
「皆さんいらっしゃい!」
待ちかねたという感じで立樹ちゃんがドアを開けて、僕達を家へ招き入れる。
岸川家はあまり物が置かれてなくて、広々とした空間に思えた。
「綺麗な部屋だね」
「兄さんが余計な物を置くのを好まないから、物が少ないだけ」
必要最低限な物だけで生活するミニマリストってやつかな?そう言えばお兄さんってどういう人物なんだろ?
「ね、神城君……」
その時リオンさんが僕に軽く肘を当てて、内緒話をしようとしているのを察する。
「分かってると思うけど、あの子が何で家で1人きりなのか聞いたら駄目だよ?」
「言わないよ、絶対に」
家に1人だけで手伝う者が誰もいなくて、兄と2人暮らし。普通ならこれぐらいの年は両親と一緒に暮らしているけど、そうじゃないという事は何かあるんだと僕も分かっていた。
僕も両親がある日突然帰って来なくて、家でずっと孤独状態になった身だ。立樹ちゃんにはお兄さんがいるけど、彼は今不在で彼女は今1人であの頃の僕と同じ。
他人事とは思えない彼女のクエストを絶対成功させようと、心に決めた僕は彼の誕生日を祝う準備を手伝う。
「ねえ立樹ちゃん、お兄さんってどういう料理が好きなのかな?」
料理人なので当然料理担当となったリオンさん。何が好きなのか、リサーチが必要なので立樹ちゃんに兄の好みを聞く。
「冷奴とか豚の角煮とか……兄さん和食を好んで食べるの」
「なるほど、和食ね。了解ー」
妹から兄の好みを聞くと、リオンさんはキッチンで調理を開始する。此処は邪魔をせずプロに任せた方がいいから、僕の方は飾り付けをやろっと。
「ね、お兄さんって年いくつ?」
「今日の誕生日で19歳になるの。あ、名前は護だよ」
僕は甘利、立樹ちゃんと共に誕生日の飾り付けをして、さり気なくお兄さんについて聞く。名前は護か。
19というと僕の一個下か。ちなみに僕の年齢が20だって言えば立樹ちゃんから「ええー?」と、大きなリアクションを既にもらっている。まあ予想通りだ。
「あたしも会った事無いなぁー、どんなお兄さんなの?」
そこに甘利も手を動かしながら、会話に加わってきた。どういう兄なのか確かに僕も気になる。
「うーん、説明難しいけど厳しくて優しい……かな?あまり笑ったりとかしなくて誤解されそうだけどね」
何か気難しい感じの19歳男子みたいだなぁ。どんな人なんだろ?
その時、ドアの方からガチャっと音が聞こえて来た。
「あ!兄さん帰って来ちゃった……!?」
事前に帰るという連絡無しで、まさかのお兄さん帰宅。いや待った待った、飾り付けも料理も途中なんですけど!?
動画にある誕生日サプライズドッキリみたいに、全ての準備が整うまで待ってくれず、お兄さんこと護が入ってきてしまう。
「悪い、スマホの電源が切れ……」
左目が黒い前髪で隠れた長身の男。黒いシャツに胸当て、ジーンズにプロテクターという装備に僕は見覚えがあった。
今僕の目の前にいるのは、ダンジョンで僕らを助けたクールな凄腕戦士。彼とまさかの再会を果たす事となる。




