11話 縁の下の力持ちに振り回される
「朝の人も昼の人も夜の人もお疲れ様です。本日もグルーチャンネルの時間がやってきました」
動画の中の僕が視聴者の人達に向けて、お決まりの挨拶をする。
僕は高大叔父さんの喫茶店にある2階で動画の編集をしている。いや、正確に言うならしてもらってる……だけどね。
「此処お兄ちゃん若干噛んでるから、このテロップ入れとくね」
黒髪のツインテールにピンクの可愛らしいワンピースの格好で、彼女は慣れた手つきで動画編集をパソコンでしている。
この少女こそが僕の持つグルーチャンネルの動画編集を担当する、高大叔父さんの娘である神城甘利。僕より9個下で僕にとっては妹のような存在だ。
小学生にして既に動画編集を覚えたり、作業スピードもあったりと天才少女かもしれない。少なくとも機械音痴である僕には真似できない事で、編集は彼女に頼りきり。とりあえず後でお菓子でも買ってあげよう。
ちなみにこの時、言葉を僕が噛んでしまったのでテロップにはトークのレベルアップ無しと、結構容赦なかった。
いや僕も結構喋ってるし、トーク力とか上がってるつもりなんだけどね!?そっちまで大食いスキルのデメリットでレベル鈍足上がりとか無い……はず。
「カレー熱そうに食べてるね? 此処のテロップはこうかな。実際このチャレンジは確かギリギリでクリアだったよね?」
「ああ、うん。30分以内のルールで28分の完食だったから」
動画内の僕が熱そうにカレーを食べてて、甘利は結構熱くて猫舌には大変とテロップを加えていく。
確かこの時チャレンジしたのは30分以内で、総重量4キロのカレーを食べる内容だった。幸い甘口で食べやすかったから、これが辛口なら本当ヤバかったかもね。同じ4キロでも食材とかによって、難易度がドカン!と跳ね上がったりするから。
4キロ食べられるからと言って何でも行ける訳じゃない。そこはもう声を大にして言いたい。
「よし、これでオッケ! あ〜疲れたぁ」
「お疲れ様。お礼に好きなご飯奢るよ」
動画編集が終わると、甘利はうーんと腕を伸ばしていた。僕はそこに今日の昼食を奢る事を約束。彼女がいなければグルーチャンネルは成り立たないので、これぐらいは当然だ。
「お兄ちゃん!あたしも一人前のレディだからね?そんなご飯やお菓子で何時までも喜ばないから!」
甘利は怒ったみたいで、可愛らしく両頬をぷくーっと膨らませていた。
言われてみればそうだ。彼女もお洒落とかメイクとか、そういった女の子の趣味だったり、自分を綺麗に可愛く見せたいというのに目覚めてもおかしくない年頃。
何時までもお菓子やご飯で喜ぶと思って、子供扱いしてた僕は大いに反省しなければならない。
「お礼なら買い物付き合って、それで奢ってよー?」
「ごめんごめん、じゃあ行こっか」
僕はこの小さなお姫様をデパートへとエスコートする。お洒落にメイクか……食べ物関連より高そうなイメージかも?
というか小さいと言ったけど甘利、一緒に並んで歩く僕といつの間にか高さ全然変わらなくなってきた!?確かもうすぐ140cmって嬉しそうに言ってたような?そのうち見下ろされる……?ヤバ、子供の急成長が怖い!
甘利を連れて僕は喫茶店を出て、駅前にある大型デパートにやってきた。僕ら2人だけで甘利のご褒美を買ってあげようと思ったんだけど、此処には3人で来ていた。
何故かと言うと……。
「甘利ちゃん凄いんだねー! グルーチャンネルを支える縁の下の力持ちって感じ!」
「そうなの! あたしがお兄ちゃんを養ってあげてるようなものだから!」
途中でばったりリオンさんと合って、デパートに行く事を話したら彼女も一緒に行くという流れで今に至る。
リオンさんには僕がグルーチャンネルのグルーという事は伝え、向こうも知っている。別に隠すことじゃないし。動画でどのくらい稼いでるのか、そういうのはめっちゃ聞かれたけど。
言う程稼いでないからね?5年ぐらいやって登録人数は7万人ぐらい行って、これから10万人って所で近年はちょっと足踏み状態続いてるし。まぁ無収入じゃないだけありがたいと思ってる。
「甘利ちゃん、化粧品ならこれとか良いよ? あたしよく使ってるし♪」
「あ、可愛くて良いなぁ〜」
ガールズトークに男の僕が入れるはずもなく、僕は化粧品売り場で盛り上がる2人を見守るのみだ。側にいる中年のおじさんが両手に買い物袋を持って、多分同じように待っているであろう姿に他人事とは思えなかった。
先輩、僕達強く生きましょう……!
「お兄ちゃんー、こっちこっち!」
おっと、プリンセスがお呼びだ。呼ばれたという事は買う物が決まって、お会計の為に僕を召喚してきたんだろう。
……結構高くない?化粧品ってこんな高いの!?ハイブランドなの選んでないよね!?僕が甘利の買う化粧品やメイク道具に驚いていると。
「ねぇ、神城君これも良いかなぁ〜?」
リオンさんは自分で払ってよ!おねだりしても駄目!
ちょっと負けそうだけど!
「これであたしも一人前のレディに一歩前進〜♪」
甘利は目当ての物を買えてご機嫌だった。
まぁチャンネルを支えてくれてる頼もしい存在だし、労うべきだろうとは思っている。ただ結構大盤振る舞いし過ぎたかなぁ……?
「ね、お兄ちゃん」
「うん?」
すると甘利は僕の側へ小走りでやって来る。そして彼女は僕の耳元で囁くように言う。
「リオンさんとはどんな感じ? キスとかした?」
「は……!?」
何を言い出すのこの子!?そんな年でキスとか早いでしょう!何処で覚えたの!?もしくは高大叔父さん、どんな教育してんの!?
僕が突然の事に驚く中、リオンさんの方は他の売り場が気になってるのか、幸い話は聞こえていなかった。
「だって一緒に冒険した男と女は愛が深まっていくんでしょ? パパとかあの2人は良い感じって言ってたし」
叔父さん!甘利に何教えてんだぁぁ!?甘利も叔父さんの悪い面をしっかり受け継ぐんじゃないの!
「いや、出会ってまだ全然数日とかだから……そういう関係にはなってないよ全く」
「そっかー、じゃあこれからだね?」
僕がそんな関係じゃないと言っても、発展途上だと納得してしまう。なんか先が思いやられる……。
「あれ? 甘利ちゃんー!」
そこに甘利へ声を掛ける少女の声が僕の耳に入る。
僕達の方へ小走りで駆け寄って来るのは、白いワンピースを着た長い黒髪の女の子で甘利と同じ背格好だ。
「立樹ちゃん!」
甘利は嬉しそうに女の子の方へ向かう。見た感じ甘利の友達のようで、かなり仲が良さそうに思える。
「こんな所で会えるなんて偶然だね!? お買い物に来てたの?」
「うん! 可愛い化粧品とかメイク道具買ってもらったの♪」
「甘利ちゃんのお友達?」
2人の会話を聞いてると、リオンさんがタイミングを見て甘利に女の子が誰なのか聞く。
「あ、紹介するね? あたしの学校のお友達で同じクラスの立樹ちゃん!」
「岸川立樹です。初めまして」
「初めまして、神城明弥です」
「姫島リオンです、立樹ちゃんよろしく♪」
甘利の紹介を受けて、立樹ちゃんは礼儀正しく挨拶。甘利と同い年で結構しっかりした感じの子なので、こっちもきっちりと挨拶を返す。同じ女性だからリオンさんは仲良くなるの早そうだな。
「あたしの従兄のお兄ちゃんでね、JTuberでダンジョンに挑む冒険者でもあるの! 最低ランクでレベル低くて頼りないけど!」
僕の事を立樹ちゃんに紹介する中で、僕のハートにグサグサと突き刺さりまくる言葉の刃。その通りだから反論出来ないけど、レベルはこの前久々に一つ上げたからね!?
「最近はこっちの頼れるダンジョン料理人リオンさんと、アンフィニアーミーってチームを結成したばかりなんだよ!」
あれ、僕とリオンさんで扱いが結構違くない?
「チーム……」
どうしたのか立樹ちゃんはチームと聞いて、何か考え込むような仕草をしていた。すると少し考えてから、彼女は僕とリオンさんの方を見る。
「あの、いきなりでごめんなさい」
立樹ちゃんは僕達に頭を下げてきた。一体どうしたんだと思う間もなく、彼女の口から次の言葉が出てくる。
「アンフィニアーミーにクエストの依頼……しても良いですか?」




