10話 トラブルと謎のクールな戦士
「どうしよう〜? こんな大きいの収納出来るかなぁ?」
倒した親玉ボアーに近づくと、リオンさんはまじまじと巨体を見上げている。突然起き上がって襲いかかったらどうしようと、こっちはハラハラするけど本当に力尽きたみたいで起きて来ない。
「ま、とりあえずやってみなきゃね!収納ー!」
リオンさんの収納魔法が発動すると、食べられる物も判定したのか親玉ボアーの下に黒い空間が出現。その巨体が沈んで飲み込んでいくと、場には跡形も残ってなくて綺麗に収納されていったみたいだ。
「よっし! 一体どれくらいの量の肉になるかな? 神城君なら食い切っちゃいそうだけどね」
「流石にあんな大きいのは無理だよ」
仮に僕が結構お腹を空かせたとしても、あんな巨大イノシシを丸々1頭食べるのは僕の胃のキャパじゃ不可能。
確かにステーキとか美味しかったけど、全部の猪肉を使うとなると一体何人前なんだろ?
「そもそも保存とか大丈夫? これで食料腐って使い物にならないなんて事……」
「そこは不思議と大丈夫みたいなんだよねぇ。何ヶ月前に仕入れた魚とか久々に出せばその時のまま新鮮だったり、吸い込まれた先が冷凍保存とかなのか、それとも時を止めて鮮度を保たせてるのか、よく分かんないけど!」
とりあえず安全面は大丈夫そうで、僕の胃やお腹の平和は守られそうだ。食料保存のチート万歳。多分ゲームのアイテム欄とかにある、食料とか料理持っててずっと腐らないのは似たような理由やカラクリがあるかもしれない。
分かんないけど!
ダンジョンの最下層まで進んで、ボスモンスターを倒したりと1人の時じゃやり遂げられなかった事を、仲間が出来てやっとそこまで辿り着く事が出来た。
Gランクと最低ランクで周りからはたいした事ないだろうけど、それでも僕の中では大きな達成感がある。大分時間が経って出来たから、かなり遅いスタートになっちゃったけどね。
このまま出口まで戻り、これからどうしようか。次は何処のダンジョンに行こうか、リオンさんと話していた時だった。
「リオンさん、止まって」
「え?」
僕の言葉にリオンさんが足を止めると、どうしたの?と言いたげに僕の顔を見てくる。自分の顔は見れないけど、多分この時は真剣な顔をしていたと思う。
ダンジョンの出入り口付近、そこで殺気のような物が感じられたからだ。一気に緊張が走ると、此処から慎重に動く。
「何かいるの?」
「しっ」
リオンさんがあまり何か言わないように、僕は右人差し指を自分の口に縦で当てる。それを見てリオンさんの方も意味が伝わり、声を潜めるようになった。
「あの付近……多分誰かいる」
モンスターが潜んでるのか分からないが、入り口付近に誰か隠れてそうに思える。こういう時こそ石橋を叩いて渡るべきだ。
僕らが警戒していると、業を煮やしたのか向こうから勝手に出て来てくれた。
「チッ、不意討ちでやっちまおうかと思ったのによぉ……」
「思ったより勘の良いチビガキだな」
「あっ!? あんた達……!」
現れたのは剣を構え、鎧を纏う体格の良い男2人。その姿を見た時、思い出したように声を上げたリオンさんと同じように、僕も彼らを見て記憶が蘇る。
昨日、曙橋のダンジョンでリオンさんを襲おうとしたチンピラ二人組だ。
「あの時の女がガキと一緒にいてよ、このダンジョンに入ってくのを見かけて出て来るのをずっと張ってたんだよ」
「もしかしたら、あの時俺らを不意討ちで燃やしやがった犯人はてめえじゃねぇかと思ったんだよ。だったら……大人の邪魔をした悪戯小僧にはお仕置きをしてやらねぇとなぁ?」
チンピラ達は嫌らしい笑みを浮かべると、剣をそれぞれ抜き取った。とりあえず彼らの言うように燃やしたのは僕で、間違ってはいなかった。
「知ってるぜガキ。スマホでレベルを見たら、たったの5だってな? 不意討ちとはいえ雑魚レベルの野郎に倒されるなんて恥を晒させやがって……!」
「けっ! そこの女より弱いじゃねぇか。だったら痛めつけて楽しんだ後に、女を今度こそ持ち帰ってお楽しみといこうじゃねぇか」
リオンさんはサッと僕の後ろに隠れる。僕がレベル5っていうのがバレてて、今度は不意討ちも出来ない状況。町中だったら目立つからって、ダンジョンで待ち伏せしてたんだろう。
というか本当しつこいな、此処まで追って来るなんて。まさかボスモンスター倒した後に絡まれるとは思ってなかったから、ヤバいかも。
ボス戦の後にレベル18の男2人と正面からやり合える余力があるのか、そんな事を考えてた時。
「どけ」
「あ?」
チンピラ達の背後から男の声がした。一人が振り返った瞬間、チンピラの体が吹っ飛んでいく姿が見える。
「ぐはぁっ!」
チンピラの1人は壁に激しく叩きつけられ、ぐったりとして動かなくなった。
「な、なんだぁ!?」
仲間がやられて戸惑い、僕やリオンさんも突然の乱入者に戸惑う。少なくとも僕達の敵とかじゃなさそうだけど、誰だ?
そこに立っていたのは男達より少し背の高い男。黒髪で左目を前髪で隠して、黒いシャツに胸当てを身に着け、ジーンズの膝辺りにプロテクターを着ける軽装のスタイルで、左腰に剣を納めた鞘を下げる。
「通行の邪魔だ、どけ」
「いきなり出て来てなんなんだてめぇ! 気取りやがって優男がぁ!!」
鋭い目つきで男は言い放つと、チンピラは頭に血が上ったみたいで剣を男に向かって振りかざす。
でも彼の方が剣を素早く抜き取ったかと思ったら、チンピラの剣を叩き折ってしまう。折られた刃はヒュンヒュンと回転して地面に突き刺さっていた。
「な……!?」
「……」
「ひっ!? す、すみませんでしたぁぁーー!!」
男の威圧に恐怖して、チンピラは仲間を担いでさっさと逃げていった。うーん、逃げ足は天下一品でランク上位っぽいかも。
「あの、助けてくれてありがとう……!」
「ありがとうございます……!」
僕とリオンさんは助けてくれた背の高い彼に、揃って礼を言う。誰かは知らないけど彼のおかげで助かったし、ちゃんと礼は言わないとね。
「何の話だ? お前らを助けた覚えは無い」
彼はそう言うと、そのままさっさと僕達が潜っていたダンジョンの奥へ消えて行く。
素っ気なくてイケメンで長身の上に強いって女性にモテる条件結構揃えてるよね?
「助けてもらったけど、何か感じ悪いなぁ〜」
「まぁ助かったから良いじゃん。それより引き上げよう」
彼の去っていった方を見て、リオンさんはムッとした顔を浮かべていた。とりあえず此処にいたらまた余計なトラブルに巻き込まれそうで怖いので、僕は彼女と一緒にダンジョンの外へ出て行く。
あの彼は何者なのかな?
レベル18の男達をあっさり倒した辺り、相当レベルが高くてランクの高い強者に見えたけど、そんな人が何でこんなGランクのダンジョンに来たんだろう?
まあいい、ダンジョンに潜る理由は人それぞれだ。とりあえずお腹も空いてきたし、早く引き上げよっと。
「あれ、神城君。ひょっとしてもうお腹空いたの!?」
「何か安心したら……あはは、鳴っちゃったみたい」
僕のお腹の鳴る音はリオンさんに聞かれてしまい、恥ずかしくなってきた僕。場所とか都合とか関係なく、ご飯が欲しい時に隠さず正直に告げる。
とりあえず今日は叔父さんの店に戻って何か食べよう。久々にレベルアップした。お祝いも兼ねてね。
リオンさんの2レベル上がった祝いもあるし。
この後、僕がリオンさん関連で叔父さんにからかわれたのは語りたくない……。




