悪役令嬢に転生しました。秘宝によって心が漏れました。
異世界に転生した私。よりによって小説で知っている「悪役令嬢」。
未来は知っている。――婚約破棄、断罪、ざまぁ。
そんな未来を避けるため、王子妃教育、王子の執務補佐、王妃の執務手伝いまで全部背負って、徹夜続きで頑張ってきたのだ。
……なのに。
「君のような悪女は、婚約者にふさわしくない!」
卒業パーティー。
ふわふわピンク頭(通称フワフワ)を隣に立たせ、王子が私を指差した。
そして得意げに掲げるのは、光を帯びた宝珠。
「これは〈心映の宝珠〉! 人の心を映し出す王家の秘宝だ! 悪女なら心の中も酷いに違いない!」
――あ。
……やばい、それ出したら絶対まずい。
次の瞬間、空中に光のスクリーンが現れた。
そこに映し出されたのは――
私が王子に向かって、つかつかと歩み寄り、
ハイヒールで足をグリッ。
鉄扇でバシバシと頬をしばき、
メリケンを手に右フック!
最後には胸を踏みつけて叫ぶ私。
「ふざけんのもいい加減にしろ! こっちは王子妃教育、王子の執務、王妃の執務、激務だったんだ! フワフワを苛める暇があるなら寝てるわ! しかもそのフワフワ! あっちでは騎士団長の息子、こっちでは宰相の息子、さらには王子と義弟とも――!」
会場「…………」
私「…………」
護衛騎士が耳元でぼそりと囁いた。
「……お嬢様。見事に心の中で暴れてますな」
「暴れてるどころじゃないでしょ!? これ完全に傷害沙汰!!」
「おや、実際にやっていないだけ殊勝では? 控えめに感心しました」
「皮肉言ってる場合じゃ――!!」
映像はさらに続いた。
フワフワが裏で複数の男性と仲睦まじくしている様子が、私の記憶から次々に投影される。
必死で顔を覆うフワフワ。
真っ青になる王子。
そして――
「……お騒がせしました」
私はそっとドレスの裾を持ち上げ、無表情で退席した。
帰りの馬車にて
「もう外歩けない~~~~っ!!!」
私は座席で頭を抱えて絶叫した。
「まあ、心の中を垂れ流したお嬢様ですからな。外出すればまた伝説が増えるでしょう」
隣の護衛騎士は淡々と皮肉を飛ばす。
「やめてよ!? それ洒落にならないんだから!」
「心配するな。嫁の貰い手がなくなったら、俺が嫁にしてやりますから」
「……今さらっと言った!?」
「俺ならお嬢様の心が多少暴力的でも、むしろ可愛いと思えますし」
「暴力的って言うなーーーっ!!!」
数日後
「王子。王家の秘宝を私情に使い、無実の婚約者を辱めた。その罪は重い」
「……!」
「フワフワ嬢もまた、数多の男と関係を持ち、王家を愚弄した。国外追放だ」
国王の冷たい声に、王子とフワフワは崩れ落ちた。
エピローグ
事件の数日後。
私は屋敷にこもり、枕に顔を埋めて転げ回っていた。
「外に出たら『鉄扇の幻影姫』とか呼ばれるに決まってる~~っ!」
護衛騎士は肩を揺らして笑った。
「すでに市場では“王家を支え続けた健気なお嬢様”と評判ですよ。民衆は意外と正直者が好きなようで」
「な……っ!? そんな恥ずかしいあだ名で呼ばれるくらいなら国外追放のほうがマシ!」
「国外追放はもうフワフワ嬢で枠が埋まってますので、ご安心を」
「安心できるかぁーーーっ!」
――こうして、悪役令嬢の断罪シーンは国中の笑いと喝采を呼び、
私の「心の中」まで伝説になってしまったのだった。
修正しました