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白い視界が晴れ、目を開くと文字通りの玉座だけがそこにあった。
何も無い空間に浮かぶ異様な光景、更には息をしていることさえ忘れてしまうほど美しい玉座に腰掛けているのは、この世のものとは思えない美貌と、吸い込まれてしまうほど綺麗な目をした少年がいた。
彼こそがこの国の王様、ジンジャー王。
外なる世界からやってきた転生者と呼ばれている存在の中で、唯一神に等しい力を手に入れた人物である。
「やっ、久しぶりだね元気にしてたかな」
「お陰様で」
何気ない挨拶ですら、重すぎる空気と威圧で吐き気がしそうだ。
遊んでいるのだろう、修行だとか適当なこと言って、わざと魔力を制限なく放出して俺が嫌がってるのを見ている。
いつもならその修行とやらに付き合って限界まで我慢するが今回はそうもいかない理由がある。
「師匠、そろそろやめてくれ、連れが持たない」
ここに飛んでから一言も話してなかったルルカだったが、よく見たら泡を拭いて気絶しかけてた。
まぁしょうがないことだ。
1人で世界の半分以上の魔力を賄える化け物の、遠慮のない魔力放出に当てられたら、ドラゴンですら正気を失い最悪自害に動くレベルだ。
持ちこたえてるだけよくやっているものだ。
「ああごめん、連れはあの仮面の子だと思ってたからついね」
「ついねじゃない、早くこの空間も元に戻せ、前より複雑な作りにしやがって」
「連れないね、一応君に魔法を教えた師匠なんだけどな」
ジンジャーは不満げにしながらも指を鳴らした。
空間に亀裂が入り、偽物だった白い空間が崩れ落ちて、本来あるべきだった景色が姿を現す。
国王が持つには小さすぎる客室、その部屋の窓からはこの国を象徴する大きな城が映り込んでいた。
「ここは、ギルドか」
「正解、それでそっちの女の子は?」
「依頼の護衛対象、仮面の勇者とかいうやつから聞いてないのか?」
俺の言葉にジンジャーは驚き、なにか考え込む仕草をした後ひとりでに納得したのか、ぽんと手を叩いた。
「なるほどね、何となく理解はした。けど驚いたよ、君が天空王の愛娘を護衛してるなんてね」
「は?!」
ただの天使だと思っていたルルカが天空王の愛娘だ?
天空王は天界を支配している神様的な存在だ、だからこその問題が今発生している。
「ルルカが天空王の愛娘って本当か」
「うんそうだね、だけどどうしたのそんな焦った顔をして」
本当に仮面の勇者から何も聞いてないらしい、ルルカの現状を考えると本当に不味い状況ではある。
「実はだな」
俺は仮面の勇者からの依頼の内容とルルカの呪いについて、呪いの予想と解呪した場合の最悪な事態についてと、今現在の最悪な状況を説明した。
「それは確かに不味いね、天使かつ天空王の愛娘であるルルカちゃんが呪われているのが一番の問題だ。さらに呪いが原因とは言え、他の天使が手を出したこと、抵抗して同族殺しをしてしまったこと、さらに悪魔のリルアと一緒にいるのはよろしくないね」
「悪魔と天使が敵対関係なのはそうなんだが、呪いが厄介すぎる」
「悪魔が天使を呪ったとなると全面戦争待ったなしだね、そうじゃなくても天界内部で争い事は避けられない」
「ううんー」
ようやく目を覚ましたのか、ルルカが瞼を擦って大きく欠伸をした。
「おはよう、はじめましてではないけど、私はこの国の王でもあるジンジャー、状況が理解できないだろうけど、ここは王国の冒険者ギルドで今はギルドマスターをこっそりやってるんだ。天空王は元気かな?」
「こ、こんにちは、ルルカです。お父様のことをご存知なんですか?」
「あぁ、あいつとは悪友でね、互いに幼い頃からの知り合いなんだ。昔はよく旅したり、悪さをしたりしたんだ」
「え?」
ルルカが困惑している理由は多分見た目と年齢が合ってないからだろう、さらには寿命だろうか。
「えっとジンジャー王」
「普通にジンジャーでいいよ、君はリルアの友達みたいだからね、それと君の疑問について答えておこう。私は普通の人間だよ、ちょっとばかし不老不死なだけで」
「不老不死?」
「そ、ゾンビともキメラとも違うけどね、命のストックもしくは魂の時間停止。まあどっちにしろ禁術と近いものだけど、違法なものじゃないから気にしないでね」
気になる単語の羅列に納得のいかない顔をするルルカだが、こいつの話をまともに聞いたところで頭が痛くなるだけなのをこっそりルルカに耳打ちした。
「話を変えるがスクロールを使ってまで、俺を呼んだのはなんでだ? 依頼ならうちのボスを通して欲しい、緊急な用事か?」
「あ、そうだ忘れてた。君の妹に脅さゲフンゲフン、お願いされてね、私にとっても命の危ゲフンゲフン、平和でいたいから慌てて呼んだんだよ。丁度よく君の居場所を知ってそうな仮面の女の子がいたからその子に頼んだんだよ」
あいつ何やってんだ? 一応一国の王様だぞ、誤魔化してたが脅して俺を呼び寄せるなんて、余裕が無いのか。
「はぁ、丁度俺も用があったしな、なら今すぐ向かうか、行くぞルルカ」
「そうして貰えると助かるよ、それよりもリルア」
ルルカと一緒にギルドの客室から出ようとする、何か言い残したジンジャーは俺のことを呼び止めた。
「ルルカちゃんは彼女に似てるね、だから守ってるのかな」
「おい」
ジンジャーから放たれた言葉に怒気を込めた引く声で反応する、癖で魔力を込めたのかルルカの肩が少し跳ねた。
「いくらあんたでもこれ以上の事を言うなら命がないと思えよ」
そういい部屋から出ると勢いよくドアを閉めた。