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 話すことがなくなり二人の足取りは、次第に加速していった目的地は、古びた塔。

 彼女曰く何も無いように見えるただの塔だというが、たどり着いたその塔には異様な雰囲気を放っていた。


「魔術塔か?」


「はい、ただもう魔力が感じないのでかなり古い物かと」


「だから何も無いように見えるってわけか、だが魔力が感じとはいえ、生きる大型魔導具と言われてるものだからな」


 神代に作られた塔の形をした大型魔導具、土地から魔力を吸い出し塊として打ち出すと言われている。

 吸われた土地も荒れ果て、高威力な為打たれたら都市ですら消し炭になるほど。

 そんな明らかに悪用されそうな危険魔導具を解体しようと試みた小国が、この塔に備え付けられていた防衛システムとやらにやられて滅びたという。


「動いてないならいいが、入口はここか?」


「はい、中には何とか暮らせそうな部屋が……」


 天使が案内しようと中に入り、それに続いて俺が中に入った瞬間。


 『ビービービー』


 けたたましい音が鳴り響いた。

 それと同時に地面が激しく揺れ、まるで生きているかのようにどくんどくんと鼓動が鳴り響く。

 中の構造がみるみる変わっていき、小さな家具が集まっていく。


「おいおいなんだよこれ」


「これが生きる魔導具」


 揺れが収まり、集まった小さな家具が作っていたのは、何らかの魔法陣。

 どこからか注がれた魔力が魔法陣を起動させ、小さな家具達を笑うようなケタケタと音を鳴らさせる。


「なにか来るぞ」


「っ、はい」


 響きあう音がなりやむと同時におぞましい気配を放つ。

 眩い光が辺りを包み、呼び出された怪物が姿を現す。

 【召喚魔術】どこからが道具や生物を呼び寄せる高等魔術で、扱える者は少ないうえに条件に対して自動で発動するタイプは聞いた事がない。

 ドラゴンの頭に馬のような胴体は鋭いトゲが生え、しっぽは雷を纏い、炎の怪鳥が持つ大きな持つ二足歩行の生物がいた。


「キメラか、厄介な」


 生きてる生物に寄生して、繋ぎ合わせる非人道的的人工生命体。

 なるほど防衛システムというのはこれの事か、組み合わせ次第じゃ国が滅ぶのも納得する。


「戦えるか」


「はい、やれます」


 天使は足に着けた入れ物からナイフを取り出すと、怪物に向かって走り出した。


「聖なる水よ我が剣に宿りたまえ」


 水属性のエンチャント、怪物の炎の翼に対しての特攻があり、少しでも傷つければ天使の呪いが発動し倒すことができるが、怪物は避けようともしない。

 怪物が呪いのことを知らないのは前提としても、翼を切られれば致命傷なはずなのに、なぜ動かない?


「はっ!」


 天使が振るったナイフは炎の翼へ届く前に、弾かれてしまった。

 俺達何が起こったか分からなかったが、すぐに切り替え、今度は俺が大鎌で攻撃する。

 しかし、先程の天使のように鎌の刃が届く前に弾かれてしまう、完璧なタイミングの攻撃だったのに、何かに阻まれたようだった。


「魔術壁でしょうか」


「それなら俺の鎌が届いているはずだ」


 魔力を練って作った壁はあらゆる物を弾く万能防御壁だ、俺の鎌は魔術殺しの力が宿っていて、魔力を使っているものならなんでも切り裂けるはずだが、それが弾かれた。

 その時点で魔力由来な物じゃ無くなる。

 なら他に何かがあるはずだ、時間が無いわけじゃない、ならじっくりと観察しながら戦えばいい。


「天使! しばらく引き付けてくれ!」


「わかりました!が1つだけいいですか!?」


「なんだ!」


 怪物の攻撃が始まり、炎や雷といった魔術が降り注ぐ。

 攻撃を避け、天使に指示を出したら今度は天使が声を上げた。


「ごめんなさい! 私の名前はルルカです! こんなタイミングで自己紹介というのもあれですが、天使やお前って言われるのがどうしても気になってしまって」


 そういえば教えて貰ってなかったから、名前を知らなかったな。

 ルルカか、いい名前だな。


「わかった、ならこっちもするか」


 怪物から振り下ろされたしっぽを弾き、後ろに下がってきたルルカに()()をかける。

 魔法は魔術の先に行く奇跡、ルルカには身体能力の覚醒と自動回復を与えた。


「俺はリルア、魔法使いだ」



 俺の視線は、目の前に立つキメラの巨大な影に釘付けだ。

 目の前で暴れるその化け物は、まるで生き物そのものが誇示するかのように、空間を震わせるような圧力をかけてきている。

 足元に散らばる焼け焦げた地面の上で、すでに破壊の跡が見て取れる。

 こいつはただの魔物じゃない、人工生命体あり魔導具だ。

 そして、それを倒すためには、少しばかり頭を使わなければならない。


「ルルカ!」


 声が響く。

 必死に攻撃をかわしながら、ルルカは少し顔を引きつらせて振り返る。

 彼女の小さな剣が炎と雷の魔術に晒され、必死に防御している様子は、心配を引き起こすには十分だが、今はそんな感情に浸っている暇はない。

 俺はすぐに自分の大鎌を握り直し、キメラの動きに合わせて周囲を見回す。

 攻撃を振り下ろし、前に出ようとしたその瞬間、怪物の尻尾が俺に向かって来る。

 だが、目の前のキメラの防御が甘くなってきているのを感じる。

 こいつには何か見えない壁が立ちはだかっている、魔力によって構築されたそれが、どうしても俺達の攻撃を弾いてしまう。

 だが、こいつは単なる魔導具じゃない。

 何かしらの方法でその力を“活性化”させているはずだ。その活性化を妨げれば、このキメラはもう十分に倒せる。


「ルルカ、もう少し引きつけてくれ!」


 そう言ってルルカに指示を出す。

 彼女は一瞬迷ったような顔をしたが、すぐに頷き、目の前のキメラに向かって突っ込んで行く。

 そしてキメラが防御壁を貼る瞬間、目の色が変わった。


「そういう事か!」


 俺はすぐに動き出し、魔力を込めて鎌を握り直す。

 あれは見えない壁と魔力の壁を混ぜたもの、防御が得意な亀の魔物が使うものだ。

 特徴は目の色が金色に光り輝くこと、キメラはその魔物の目だけを取り込んでいたのだ。

 ならば今度は、ただ攻撃するのではなく、防御壁を無理矢理にでも崩す、そのためには相応の強さとタイミングが必要だ。


「来い!」


 キメラの攻撃をかわしながら、一気にその障壁に切り込んだ。

 だが、それはあっさりと弾かれる。

 やはり、壁のようなものは硬く、俺の鎌を拒絶している。


 だが、俺にはもう一手がある。


「死者の魔力……」

 俺の声に合わせて、黒い力が俺の体を包み込む。

 その力が鎌に注がれ、闇の魔力が瞬く間に増大していく。

 今度こそ、魔術の壁を貫くために。


「ルルカ!」


 大声で叫ぶ。

 ルルカがちらりと俺を見た瞬間、もう一度、足を踏み出した。

 その視線が俺のものに合わさると、すぐに彼女はすべてを理解したのだろう。


 彼女はキメラに向かって必死に走り出した。


「氷よ、我が剣に宿りたまえ!」


 ルルカが叫びながら、その小さな剣を高く掲げる。

 氷属性のエンチャントが剣に宿り、氷の刃がその小さな剣から放たれる。

 それがキメラの炎の翼に迫る瞬間、まるで時間が止まったかのように感じた。


「よし!」


 俺はそのタイミングを見逃さず、魔力を込めて大鎌を一閃。

 今まで届かなかった障壁を貫通させるように、その壁を、キメラに宿る力を切り裂いた。


 そして、ルルカの剣が、ついにキメラの翼に届いた。


「ぐああああ!」


 キメラが叫び声を上げ、その巨大な体が一瞬にして揺れる。

 そのまま、炎の翼が消え、キメラは一度動きを止めた。

 するとキメラの体が膨れ上がり、次の瞬間その体が崩れ落ち、静寂が訪た。

 その場に残ったのは、破壊された塔と、その中に残った冷たい空気だけだった。

 ルルカがふらふらとその場に膝をつく。

 倒れそうになる彼女を、俺はすぐに支えた。


「大丈夫か?」


 俺が声をかけると、ルルカは小さく微笑んだ。


「大丈夫です、リルアさん……ありがとうございます」


 彼女の目は少し涙を浮かべていたが、その瞳の奥にある強さを感じ取ることができた。

 彼女の呪い、目の前で見たからこそ実感できた。

 どんな生物も殺し、人工生命体も例外はなく、形すら残さない強力な呪いだな。


「よく頑張ったな」


 ルルカの頭を優しく撫でると、嬉しそうに頷いたのだった。

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