第6話 入会試験が必要です
『氷の姫君』と呼ばれたアリシアには一体どんな過去があったのか!?
そして事態は急展開!ハジメはギルドに入ることができない……!?
アリシアは何を話すか色々と考えているようだった。
そして口を開く。
「私もね、昔はパーティーを組んでたんだ。でも、色々あって……解散することになったんだけど」
そこまで言うと喉を潤すために紅茶を飲んだ。
「その後は、パーティーを組むことが怖くなっちゃって……」
「じゃあ、何で俺のことをパーティーメンバーなんて紹介したんだ?」
彼女は俯いていた。
「それは……つい言っちゃったの。多分、そうしたかったんだと思う」
自分でもよく判らないのか困ったように言った。
「その……異名って言うのは?」
一応彼女自身にも聞いてみた。
「……自分で言うのもちょっと恥ずかしいけど、『氷の姫君』って言われてたの」
俺は特に何も考えずに言ってしまった。
「なんかカッコいいね」
すると彼女が嫌そうな顔をする。
「何でこんな風に言われたか知らないからそう言えるのよ。これは敬意を持って言われてるわけではなく、侮蔑の称号なのよ」
彼女は『はぁ』とため息を吐いた。
「私が、無愛想で、誰とも連まないからそんな風に言われてるの。本当は炎魔法が好きなのに」
「え? 気にしてるのそこ?」
驚いたように訊くと彼女は笑う。
「冗談。まぁ、炎魔法が好きって言うのはホントだけどね」
彼女は暗い顔をして言う。それは急な告白だった。
「私のせいで、昔私のパーティーメンバーが死んだ。だから、あんたも嫌だったら組まなくていいから」
その発言に俺は衝撃を受けた。すぐに言葉を返そうとするが、詰まってしまう。
彼女の顔を見ると酷く暗かった。
そしてその顔を見ると自然と言葉が出てきた。
「そのことに関しては俺はよく知らないけど、アリシアがわざとそうしたとは思えないよ。だから、嫌だなんて思わないよ」
彼女が目をぱちくりとさせて驚く。
「本当に言ってるの?」
「それに俺はアリシアと旅がしたいんだ」
そう言うとまた彼女は俯いた。
「ごっごめん。何かまずいことあった?」
「あんた狙って言ってるの?」
「え? 何のこと……?」
「いや、何でもないわ」
彼女の顔は心なしか赤かった。多分、俺も同じように火照っていたと思う。
俺達2人は、照れ臭さから少しの間沈黙していた。
例えるなら、付き合った男女が、初めてのデート中にどう会話して良いか判らずにモジモジとしているあんな感じだ。勿論、俺はそれを知らない。
すると俺の幸せな空間に、隣の知らないおじさんが入ってきた。
「そんなら、まずは入会試験に受かんないとな」
俺とアリシアは驚き振り返る。
そこには煙草を吹かしているおっさんがいた。
アリシアが上擦った声で言う。
「フランツさん! 聞いてたんですか!?」
黒髪のおっさんは親指を立てる。
「勿論だ。若いっていいねぇ」
「もぉぉぉ!!」
アリシアは顔を赤くして恥ずかしがっているが、俺はそれどころではなかった。
俺は様子を窺うように恐る恐る訊く。
「あの〜、入会試験って何ですか……?」
俺の質問に対しておっさんは声を大きくして言う。
「その前に君は誰だね!? 名前を名乗り給え」
アリシアは呆れたような顔をしていた。
「ダル絡みしないでよ……」
そんな彼に対して俺はできるだけ真摯に向き合う。
「ハジメと申します」
「うん。そうか。俺はフランツ・ヴォルフだ。よろしくね」
差し出されたゴツゴツとした手を握る。
「よろしくお願いします」
「あの〜、それで入会試験というのは?」
おっさんは自分で答えるのが面倒だったのか、アリシアの方を一瞥した。
「はいはい。私たちのギルドはね誰でも入れるわけじゃないの。入会試験をして合格したら入れる。なんとなく判った?」
「はい……」
筆記試験……ではないだろうな。きっと戦わされるんだろうな。相手は小鬼だろうか。何であれ嫌だ。それに俺が受かるわけがない。
おっさんが懐からウォッカ瓶を出し、直接呑み出した。そして大きめのゲップをした後言う。
「残念だが、お前じゃ無理だろうな。見て判る。才能のかけらもない。お前じゃ冒険者は務まらない」
判ってはいたが、辛すぎる現実。
その台詞にアリシアが猛反発する。
「ちょっと! 何よその言い方! 確かに今は弱いかもしれない。けど、これから強くなる可能性だって……」
皆まで聞かず彼女の台詞を遮って彼が否定する。
「無理だな。お前はこいつに死んで欲しいのか? 諦めろ」
「嫌よ! あんたは私達の会話聞いてたんでしょ!? なら尚更簡単に諦めるわけないって判ってるわよね?」
おっさんは下を向き黙って話を聞いていた。そして最後まで聞くと、俺の方を向く。
「冒険者に明日の保証はない。判っているのか?」
「はい!」
「いいや、お前は判っちゃいない。良いかよく聞け、お前が死んだらアリシアは悲しむぞ?」
その台詞に俺はハッとした。前世では俺が死んで悲しむような人間はいなかった。でも、今は違う。
横に座るアリシアを見る。彼女は心配そうな顔をしている。
彼女の涙をまた見るのなんて嫌だ。でも、俺はこの世界で彼女と生きたい。
俺は拳を握りしめる。決意は固まった。
「フランツさん。俺は彼女を悲しませたくありません。でも、俺はこの世界で彼女と旅をしたい。俺のエゴです。でも、俺は諦めたくないんです!」
俺はきっと必死そうな顔をしていたのだろう。考えずとも言葉が出てきた。
フランツさんが目を閉じた。そして深く考えているようだ。
「アリシア、こいつはこう言ってるが、お前はどう思う?」
「私は、ハジメならきっと大丈夫だと思う」
彼女もまた決意を固めたようだった。
「また、同じ辛い思いをするかもしれないんだぞ? それでも……」
間髪入れずにアリシアが言う。
「そんな結末にはさせない」
彼女の力強い言葉と眼光炯々とした目を見て彼も観念したようだ。
「好きにしろ。試験は1週間後だ。それまでにせいぜい悪あがきでもしてろ」
言葉こそ嫌味っぽく、キツめだが、それは彼なりの優しさなのだろう。
立ち去ろうとする彼に俺は思わず頭を下げた。
「ありがとうございます!」
すると彼はふっと笑う。
「礼は受かってから言えよバカ野郎」
この時俺はウキウキとした気分だったが、彼女は違った。
「はぁ……どうしよっか」
深刻そうな顔をする。
「どうしたんだ?」
「はぁ!? どうしたんだじゃないでしょ! あんたが受かる確率なんてほぼ0なのよ?」
「えぇぇ!?」
「えぇじゃないわよ。誰があんたの入会を許可するって言ったのよ?」
確かにそうだった。俺は挑戦権を得ただけで、別に受かったわけではなかった。
さっきまでの楽観的な自分をぶん殴りたくなった。
「あんたって人はね……」
彼女は随分と呆れているみたいだ。
「まぁ、でも……」
彼女は優しく微笑む。
「大丈夫よ。私達なら何とかなるわよ」
その言葉を聞いて胸が熱くなる。
「アリシア……」
「いちいち泣くな!」
「これから1週間忙しくなるわよ。良い? 私が直々に鍛えてあげるから」
「ほんと!? ありがと!」
喜ぶ俺だったが、すぐにそんなことないと気づく。
彼女はにやりと企みを浮かべるような笑みをする。
「覚悟しときなさいよ? 私は厳しいからね」
「はっはは……お手柔らかにお願いします……」
そして俺にとって地獄のような1週間が幕を開ける。




