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第15話 さあ友よ、我と語らおう

時には休息も大事! ハジメはアリシアとロミルダの3人でパーティーを催した。

しかし、当然平和に終わるはずはなく……。

俺とアリシアは一度ロミルダの家へ戻って、試験の結果を伝えた。

俺としては努力を認めてもらえたし、満足してはいけないのは解ってるつもりだが、それでも嬉しい結果だったと思っている。それはロミルダも同じだったようで、結果を伝えると作ってあったケーキを出してご馳走と共に俺を労ってくれると言う。


彼女は魔法で豪華な品々を浮かしてテーブルへと並べる。部屋の装飾も豪華絢爛なものへと変わっていった。

心踊る空間に俺とアリシアも自然と笑顔になる。

「魔法って凄いんだね」

「当たり前でしょ? 私はとっても凄い魔法使いなんだから」


最初に手に取った料理は、濃厚なタレのかかったチキンだ。一口齧ってみると、クリスマスに食べる七面鳥のような味だった。

「ロミルダこれめっちゃ美味いよ」

「良かったわ〜頑張って作った甲斐があるってもんよ」

アリシアが悔しそうに言う。

「確かに美味しいわ……。悔しいけど」

その様子を見るとロミルダはにんまりと笑う。

「そうでしょ〜。今度教えてあげてもいいのよ?」

「べ、別に自分で上手くなりますぅぅ!!」

そんな2人のやりとりも、俺の中で私が日常になっていた。前世では考えられなかった日常。しかし、確かなものだと改めて実感する。

それからも楽しい時間が続いた。


日も落ちて外も暗くなっていた。料理も殆ど食べ終わり、この楽しいひと時も俺にさよならを告げる。

ロミルダはワインを一本開けて1人で飲み干してしまった。そのせいか彼女はソファーで腕を垂らしながらぐったりと眠っている。

アリシアはそんな彼女を微笑ましそうに見つめていた。その光景だけを見ればアリシアの方がお姉さんにも思える。

起きているのは俺とアリシアの2人、この空間には温かくて素敵な時間が流れていた。

アリシアが俺に見られていることに気づくと、視線を移して目と目が合った。

「ねぇ、ハジメ、改めておめでと」

そう言って目を細めた。

「うん、ありがと。アリシアとロミルダのお陰だよ」

「謙遜しなくていいのよ。あんたが頑張ったから、ね」

俺は気恥ずかしくなって頭を掻いた。

「明日は物件探しね」

「物件探し?」

俺が訊き返すと彼女は当たり前と言わんばかりに言う。

「当たり前でしょ? あんたどこに住むつもりだったのよ」

「え……ああ、アリシアの家とか?」

俺の台詞に嫌悪感を覚えたような顔をする。

「あんたね……簡単に乙女の家の敷居を跨げると思ってるの?」

「はい……調子に乗りましたすみません」

「ふっ、冗談よ。それはそうと、1人暮らしの方が何かと気が楽でしょう?」

確かにそれはそうだ。しかし、俺は1人暮らしを経験したことがないので、色々な面で不安が募る。

「それぐらい大丈夫でしょ? 試験の方が何倍も大変よ」

「それはそうだけど……」

俺とアリシアの間には沈黙があった。互いに言葉は発しなかったが、自然と彼女と繋がっている気さえした。

「ちょっと夜風を浴びてくるよ」

「ええ、行ってらっしゃい」


外に出てまず気づいたのは、空を彩る満天の星々だった。

「わぁ、綺麗だな」

俺は生まれてこの方、都内暮らしだったので綺麗な星空を見る機会なんて殆どなかった。

暫くの間1人で眺めていたが、心なしか寂しさを感じてきた。

物音ひとつしない無限に広がる宵闇の中で独りぼっち。

「そうだ。アリシアも誘おう」

彼女の元へ行くと自身の鉄剣の掃除をしていた。

「随分と早いお帰りね」

「うん……ねぇ、アリシア……?」

彼女は行っていた掃除を一旦やめて俺の方を見た。

「外さ、星が綺麗だから一緒に見に行こうよ」

「え……?」

彼女は目を見開いて口をぽかんと開けた。

「あんた本気で言ってるの!?」

「え? うん……」

俺が頷くと、彼女は俺の元まで走ってくる。

「あんた……意外と大胆なのね」

心なしが頬を赤らめて俺のことを上目遣いで見つめてくる。

「へ? 大胆……? どういうこと??」

その台詞で彼女は何かに気がついたようだった。そしてため息をついた。

「そっか、あんた転生者だったわね……私としたことが忘れてたわ」

「俺なんかした……?」

「した」

「何したの?」

彼女はぷいっと顔を背けて吐き捨てるように言う。

「ふんっ、知らない!!」

それだけ言うとすぐに2階へと駆け上がった。

1人取り残されたハジメはぽかんと呆けるばかりだった。


アリシアの階段を上がる音で起きたロミルダが、眠気まなこで何があったのかと訊く。

俺が起きた出来事を話すと彼女はにやにやと笑い出した。

ついでに俺が転生者だということは、もう彼女に伝えている。

ロミルダはすっかり目が覚めたようで、また一本ワインボトルを開けた。

「ちょっと飲み過ぎじゃない? 大丈夫?」

俺の心配をよそに彼女はまた宴を始める。

コップを一杯出したかと思うと、それに並々とワインを注いだ。それを俺の前のテーブルの上にドンと置く。

「あんたも付き合いなさい」

「いや、俺は未成年だし……」

「はぁ? あんた何歳よ」

「17です」

「はぁ? 成人は16からよ。あんたはもう、酒も飲めるし煙草も吸えるわよ。さぁ、早く飲みなさい」

この世界の成人年齢を知らなかったがために、墓穴を掘ることになった。

並々と注がれた赤い液体に目をやる。

俺は彼女の推しに抗えず、渋々口に入れる。

独特な香りは、不快だった。甘さはなく、ただただ苦かった。

「うぇ〜、不味い……」

「何言ってるのよ! これはかなり高いワインなのよ!! これだからガキはダメなのよ」

飲ませておいてその台詞はないだろう……。

彼女は直接ワインボトルに口を付けてぐびぐびと勢いよく飲んでいる。

意志の集(ヴィレゼーレ)の男達顔負けの飲みっぷりに感心しつつも、俺には訊きたいことがあった。

「アリシアも下戸だし、あんたもダメだし、まったく……最近の若いもんは、ヒック」

吃逆(しゃくり)をしながら愚痴を言う彼女に俺は訊く。

「それで俺の言動の何が問題だったの?」

彼女が片肘ついて答える。ニヤニヤと少し笑っているようだった。

「ああ、あんたは知らなかったみたいだけどね。ふふ、ふははは」

彼女はいきなり腹を抱えて高笑いした。

「何笑ってるんだよ!」

「あはは、ごめんなさい……ふふっ……」

涙目になって笑っている彼女に腹が立ってきた。

「あのね、この世界で『星を一緒に見よう』っていうのはね、夜を一緒に過ごす、つまりえっちをしようっていう誘い文句なのよ」

「はっ、はぁぁ!?」

俺の反応を見ると彼女がまた笑い出した。

「初夜に男が使う誘い文句をあんたが言うなんて、くっく……あははは、面白すぎるわね。傑作よ傑作」

俺はごつんっと頭をテーブルに打ちつけて項垂れた。

ロミルダが俺の背後にやってきて耳元で囁く。

「意外と大胆なのね」

更に俺のことを煽ってくる。

「くっ恥ずかし過ぎる!!」

俺も先ほどのアリシアと同じように、階段を駆け上がった。

そして自分の部屋に行って枕に顔を埋めた。


ーーーアリシアの部屋ーーー

アリシアもちょうどハジメと同じように、枕に顔を埋めていた。

忘れて眠ろうと努めていたが、それは叶わなかった。

ふと、先ほどのことを思い出して気恥ずかしくなる。勘違いしていた自分もそうだが、彼からそんな台詞を聞くことになるとは思ってもみなかったからだ。

「うぅぅぅ……」

低く呻くように声を出すと足をバタバタとさせた。

もし、自分が好意を一切感じていない相手からの誘いだったのなら、強い不快感と嫌悪感だけを感じているはずだろう。しかし、アリシアの抱いていた感情はそうではなかった。

彼女は思い返してみた。

(最初はびっくりして、頭が真っ白になって、それで……)

そして思い出しては駄目だということに気がついたようだった。

寝ることもできず、起きていると考えてしまう、悩んだ彼女は酒を飲んで忘れることにした。

下へ降りるとロミルダが1人で飲んでいた。

空いてるコップを持って彼女の手にしているワインボトルを取り上げた。

「ちょっと〜何よ〜?」

「付き合ってあげようと思ってね」

ロミルダがニヤッと笑う。

「ハジメの相手してあげればいいのに〜」

「ローミールーダー!!」

「ふふ、冗談よ。そんな怒らないでって」

ふんっとアリシアは不機嫌そうな顔をして、静かに椅子に座った。

そして一気にぐっとワインを飲む。

ロミルダもアリシアも忘れていたが、彼女は下戸だ。

一杯飲んだだけだが、彼女の顔は、みるみるうちに赤く染まっていく。

先に気づいたのはロミルダだ。

「ちょっと! あんた飲めないでしょ!?」

「いーのよ! 飲めるもん!」

アリシアから普段の面影はもうなくなっていた。

そして、酒は時に人を変える。それは良い意味でも悪い意味でも、だ。

アリシアが徐に立ち上がった。

「私、ハジメの所に行ってくる!」

ふらふらと千鳥足で歩く彼女をロミルダが制する。

「ちょっと、危ないわよ。もう寝なさいって」

「いや! 行くの!」

彼女の姿を見てロミルダも『まぁ、良いっか』と思うことにした。精神的に幼児退行しているアリシアを面白いとすら思っていた。

アリシアがゆっくりと階段を上がるのを後ろからついて行った。

ロミルダが悪い顔をしてニヤニヤとする。

(もしかしたら、こいつらおっぱじめるかもしれないわね)

しかし、そんなことを考えている彼女とは裏腹に、アリシアは自身の部屋に戻って行った。

「ちょっと、何してるのよ」

慌てて彼女の後に続いて部屋に入ると、ベッドにうつ伏せになって眠っていた。

「もしかして……部屋間違えたの……?」

面白いものげ見られると期待した彼女は、がっかりとした。

そうして、彼女はまた、1人で煌めく星を肴に酒盛りを再開した。

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