第14話 その瞳は何を見据える?
マスターの元へと向かうハジメとアリシアだったが、無事入会の許可を得られるのだろうか!?
アリシアに肩を借りながら、俺達2人はロビーまで戻ってきた。
帰還に気がついたメグが、不安げな顔して駆け寄る。
「あの……その……」
俺とアリシアをそれぞれ見ると、何かを察しようで気まずそうにした。
「メグ……俺不合格だった」
その言葉を聞くと彼女は目を見開いた。それも一瞬、すぐに目を逸らす。
しかし気まずい空気にはならなかった。
アリシアが言う。
「メグそんな顔しないで。こいつは私の荷物持ちになるから」
「へぇ?」
疑問符を顔に浮かべる彼女にアリシアが説明をした。
全てを聞き終えると、メグは顎に指を当てて思案するような顔をする。
「なるほど……。あとはマスター次第ですね」
そして多少の雑談をした後、メグは他のギルドメンバーに呼ばれて受付に戻って行った。
「なぁ、アリシア、マスターってどういう人なんだ?」
彼女が少し考えた後に言った。
「皆んなのお父さん……? みたいな感じかしら」
「お父さんか……」
「まぁ、行けば判るわ」
そして彼女に連れられて2階の1番奥の部屋の前まで来た。
「いい? 入るわよ」
「うん」
彼女がドアをノックした。
部屋からは嗄れた男性の声が聞こえる。
部屋の中は、背丈をゆうに超える本棚が幾つもあった。置かれている本も分厚くて小難しそうなものばかりだった。
俺が部屋をキョロキョロと見渡していると、前から先ほどと同じ声が聞こえてきた。
「よく来たのう」
木製の大きい机に肘をついて俺達を見つめる老人いた。
「ほう、アリシアが誰かを連れてくるなんてなあ」
老人は優しい眼差しと口調で、俺も自然と緊張が解れていた。
アリシアが小声で言う。
「挨拶して」
「はっはい」
「ハジメです。よろしくお願いします」
「儂はヴィルフリート・クルト・ボーデンシャッツじゃ。よろしく」
何も言わずに老人は俺の瞳をずっと見つめている。
アリシアが口を開いた。
「あの、マスター今日は、その……」
「ほっほっほ。皆まだ言わなくても良い。彼の入会を許可して欲しいんじゃな?」
「はっはい、そうです……」
アリシアも緊張しているようで声が上擦っていた。
彼女の様子を見て彼は笑った。
「ほっほっほ。そう緊張するでないぞ」
ヴィルフリートは彼女に言った。
「アリシアすまないが、この少年と少し2人きりで話をさせておくれ」
「はい、判りました」
彼女が部屋から出て彼と2人きりになった。
「ほれ、座っておくれ」
「え? 椅子なんて……」
背後を見ると木製の椅子があった。
俺の驚いた様子を見るとヴィルフリートさんはまた笑った。
俺が腰掛けると彼は質問を投げかける。
「のう、ハジメよ。アリシアのことが好きか?」
「え? あ、それはその……」
俺は声を小さくして言う。
「アリシアには内緒ですよ?」
「勿論、約束しよう」
「っっ……好きです」
顔が熱い。絶対赤面している。
「そうか。それは良かった。いきなりで悪いんじゃが、儂が今から言うことを約束してくれるか?」
俺は強く頷く。
「努力を怠らない」
「はい」
「彼女を守る」
「はい」
俺は言われたことに対して真摯に返事をしていく。
「そして絶対に彼女を悲しませない」
「……できません」
「ほう、それは何故じゃ?」
彼の問いに対して俺は俯いた。拳に力を入れて俺は答える。
「この先冒険者として過ごしていけば、困難にぶつかることもあると思います。その時、絶対に死なないなんて断言はできません」
このハジメの言葉に、ヴィルフリートは感銘を受けていた。
理由は至極単純、彼の真摯で誠実な態度だ。自分次第のことに対しては素直に頷き、断言できないことについては簡単に肯定しない。
てきとうな言葉で誤魔化そうともしないで、想いを真っ直ぐに伝える、そして真剣で凛と輝いている瞳を見て彼は確信した。この男なら大丈夫ということを。
老人は青年の未来を見据えた。それはとても素晴らしいものだった。青年にとっても、彼女にとっても、老人自身にとってもだ。
ヴィルフリートさんが再び質問をする。
「なら、こう訊こう。彼女を悲しませないように全身全霊を尽くせるか?」
俺はその問いに対して勢いよく答える。
「はい! 勿論です!!」
俺の返事を聞くと彼は目を閉じた。そしてそのままゆっくりと喋る。
「君をギルドの正式なメンバー、そしてアリシアの正式なパーティーメンバーと認めたいところだが、そうもいけない。その理由は説明するまでもないね? まずは、アリシアの提案通り君を彼女の荷物持ちということで登録しておく。この先の君の活躍によっては正式なメンバーへの昇格もあるだろう。だから、めげずに精進してくれ給え」
「はい、ありがとうございます」
ヴィルフリートさん、いやマスターはまた静かに笑う。
「ほっほっほ。礼なんていらないさ。君の想いが運命を定めたんだ。ここは、ヴィレゼーレ、『意志の集』、君が素晴らしい運命を歩むことを心から祈っておるよ」
「はい、ありがとうございます!」
この時の俺の気持ちは、まるで暖かな日和の下でお日様の光を浴びているようだった。
部屋から出るとすぐ近くでアリシアが待っていた。
俺に気づくとすぐに駆け寄る。
「どうだった……?」
「うん、アリシアの荷物持ちとして認めてもらえたよ」
その台詞を聞いた瞬間彼女の顔が綻んだ。
「良かったわ……本当に良かった」
「あれ? アリシア泣いてる?」
「泣いてないわよ! あんたでしょ? 泣いてるのわ」
彼女に言われて自分の頬を触ると涙が伝っていた。
「ああ、本当だ……」
涙を流す俺に対して彼女が熱い抱擁をしてくれた。
「頑張ったわね……おめでとう」
「うん、ありがとう……」
彼女の温もりを感じながら、泡沫の感傷に浸ることにしよう。