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第13話 来たる日は来るべくして訪れる

ハジメはフランスの助言により更なる進化を遂げた。

そしてとうとう試験当日、彼の合否は一体どうなるのか?

時の流れは誰にも操れない。だからこそ価値があるのだろう。

見上げた空はいつもと同じ、ただ、今日の俺には少し違うふうにも見えた。

荷物をまとめたアリシアが、やってくるなり俺の背中をバンと叩いた。

「準備はいいわね?」

俺は頷く。意志を込めて。

ロミルダも俺達の出立を見送ってくれた。

「良い知らせを期待してるわ。まぁ、せいぜい頑張ることね」

「ありがと」

彼女に別れを告げて俺は、1週間過ごした思い入れのある家を後にする。


今日は何の日か、そう、俺の入会試験の日だ。

アリシアと2人で帝都へと向かう。

道中の森で小鬼(ゴブリン)の群れと遭遇したが、アリシアと協力して簡単に撃退することができた。

そこからは順調だった。目標の昼頃に城内に到着して、そこで昼食を取った。

目の前に座る彼女はパスタをぐるぐると巻いて口へと運ぶ。

「ん〜、美味しい〜!!」

幸せそうに食べる彼女は微笑ましい光景だけれども、今の俺には緊張が付き纏っている。食事を取る手すらどこかぎこちない。

そんな俺にアリシアは言う。

「大丈夫よ。あんたは頑張ったじゃない」

「うん……」

彼女の言うことも解るけど、事は上手く運ぶのだろう

か。

ふと、前世のことを思い返す。

自身の記憶の中で、何かに努力してそれが報われた経験があっただろうか。

中学受験は失敗した。高校受験も公立校に落ちて滑り止めの私立へと行った。

運動も恋愛も友達関係も全て駄目だった。

俺がどんな顔をしていたのか判らないが、彼女は少し気まずそうにしながら言った。

「ハジメ……一応言っておくけどね、私も最初の試験は落ちたんだから」

「え?」

俺は思いもしない一言に衝撃を受けた。

「アリシアが落ちた……?」

彼女はからっと笑う。

「そうよね。意外よね。今の私を見ていたらそう思うよね。」

「うん。それでどうしたの?」

彼女は懐かしげに微笑む。

「そうね……。3回、3回目で受かったの。落ちた時はそれはもう、絶望したわ」

「そっか、そうだよね……。俺も何度も挫折したこあるから気持ちは解るよ」

俺は取り繕うように笑う。

「確かに、あんた色々と苦労してそうだもんね」

「おっ、おい!」

彼女は『冗談よ』と言って笑っている。

「まったく失礼な奴だな」

彼女が真面目な顔つきになる。暖かい眼差しを俺に向ける。

「本当はそうなんでしょ? あんた……その、色々と苦労してきたんじゃないかなって」

そこまで言うと目を背けた。

「ちょっとだけ、な。でも、ぜんっぜん大丈夫!! 今はとにかく受かることだけ考えようぜ!」

俺はでき得る限りの明るい声と顔をする。彼女にはどう映ったのだろうか。

「そうね。大丈夫よ私が祈ってあげるから」

「おい、神頼みかよ」

彼女は白い歯を見せて笑う。

「あはは、最終的にはそうなるわよ。やれる事はやったんだし。それに奥の手があるから」

「奥の手?」

「それは秘密ね」

食事を終えた俺たちはギルドへと向かう。

とは言ったものの、俺は水とサンドイッチしか食べられなかった。初日のアリシアと同じだ。


ーーー意志の集(ヴィレゼーレ)ーーー

外の酒場では数人の男達が酒盛りしていた。

「あれって日常の光景なの?」

「はぁ、そうよ。あんたはああはならないでね」

彼女がギルドの扉を開けた。それに続いて俺も入る。

受付の所へ行くとメグがいた。

「こんにちわアリシアさん、ハジメさん」

名前を覚えててもらっただけでもう感激だ。

メグは俺達2人をそれぞれ見た後、何かに気づいたようで表情を変える。

「ああ!! 今日はとうとうあの日ですね」

すると彼女は受付カウンターから出てきて俺達を案内してくれた。

彼女が先頭を歩く形で俺とアリシアは続いた。

俺の横顔を見てアリシアが言う。

「緊張してるのね」

「うん……」

そう力なく言うとアリシアが手を握ってくれた。

「大丈夫よ」

目を細めて優しく微笑む。それに連られて俺も少し表情が綻んだ。

「ありがと」

メグが振り返らずに言った。

「アリシアさん随分と変わりましたよね」

「そうかしら?」

「はい。なんか柔らかくなりましたよ」

そう言われるとアリシアは少し照れ臭そうにした。

するとメグがくるっと回って振り返った。

「きっとハジメさんのお陰ですね」

そう言って微笑む。

その顔を見るとアリシアは俺の脇腹を小突く。

「何だよ」

「別に……なんとなくよ」

俺達のやりとりを見るとメグがクスッと笑った。

「はい、到着です。ハジメさんご健闘をお祈りしています」

「ありがとう」


メグが手を差した部屋に入ると芝生のある空間だった。

「ここは?」

俺が訊くとアリシアが答える。

「ここはギルドの訓練場よ。というか中庭ね」

そして前方から屈強な男が近づいてきた。

「おう、アリシア久しぶりだな」

「ブルーノさん。久しぶり」

彼の目線は俺へと移る。

「お前さんが入会希望者か、俺が試験官のブルーノ・シェルツだ。よろしく」

「ハジメです……よろしくお願いします」

ブルーノというこの男は、大柄なスキンヘッドの屈強な男だった。着ている黒いタンクトップが似合う人で頰には大きな傷があった。

「よぉーし。じゃあ早速試験を始めようか」

「よっよろしくお願いします」

彼は俺に鉄剣を渡すと数メートル距離を取った。

彼はニヤッと笑う。

「さぁ、かかってこい」

どうやらこの決闘が試験のようだ。だからアリシアは俺にたくさん決闘をさせたのだろう。


試験は始まった。

「はぁぁぁ!!!」

俺は思いっきり斬りかかる。

彼はその攻撃を大剣で受け止める。

「どうした? こんなものか?」

俺は幾度も攻撃をするが、彼は全てを防いだ。

その大剣は俺の持つ剣の2倍以上の太さと大きさがある。それなのに軽々と操る。

彼も緩めに反撃をした。

俺はその攻撃を交わしながら懐に入る。リーチ差がある相手には、懐に入ってリーチのアドバンテージを消すことが大切だとアリシアが言っていたからだ。

しかし彼もそう簡単に攻撃を喰らってくれるわけもなく、バックステップで距離を取りつつ剣を振る。

そして俺は彼を壁際まで追い詰めた。

ここで畳みかけると言わんばかりに前に踏み込んだ俺に彼がカウンターをした。

彼が一撃、俺の腹に拳を入れる。

「がはっっ」

その衝撃で1メートルぐらい後方に飛んだ。

アリシアが心配そうな顔でハジメを見つめている。

彼女は息をすることすら忘れて、祈るように手を合わせていた。

この時、ブルーノの脳内はいくつかの疑問でいっぱいだった。

(何でアリシアはこいつを気に入ってるんだ? それにこいつはすげー弱いぞ……?)

ハジメはまったく強くない。むしろ弱い。それなのに名門ギルドの意志の集(ヴィレゼーレ)の門を叩いた。そして必死な顔をして剣を振っている。彼には理解ができなかった。


そして俺の必死の攻撃もとうとう彼に届く事はなかった。

「もう終わりなのか?」

彼は心なしが残念そうな顔で言う。

「まっまだまだ!!」

俺は剣を彼の喉元向けて刺そうとするが、ひょいっと避ける。

そして剣の側面で俺の体を振り払った。

その攻撃で俺は空中で回転して吹っ飛んだ。

「ぐっ……あぁ……」

跪く俺をブルーノさんが見下ろす。その顔は悲痛とも思える表情だった。

「お前は……よく頑張ったぜ」

しかし、俺は諦めない。

「うぉぉぉ!!!」

先ほどと同じ攻撃を繰り返す。彼の喉元を狙って剣を突き刺す。

(まったく同じ攻撃……もう、ダメだな)

剣は彼の首横を通り過ぎた。

俺は手首を返して剣を縦向きにして振り下ろす。彼の肩に当たった感触が確かにした。

彼は驚いたように声を上げる。

「うぉっ!!」

確かに彼の肩に剣が当たったが、血飛沫が飛ぶのはおろか、服すら破けてなかった。

俺はそこから身体を動かせなかった。

「なるほどな。頑張ったんだな」

彼は優しい笑みを見せる。

「でも、ダメだ」

その瞬間、彼は俺のことを蹴り飛ばした。

そしてアリシアの叫ぶ声が聞こえる。

「ハジメ!! 大丈夫!?」

彼女が俺に駆け寄る。

俺と言うとその場で蹲っていた。

彼が椅子に深く座って言った。

「攻撃にも工夫が見られた。努力も感じられた。でも、ダメだ」

彼は続けて言う。

「剣を握ってどれぐらいなんだっけ?」

息もままならない俺の代わりにアリシアが答える。

「1週間よ。上出来でしょ?」

「そう、かもな。悪くはない……がダメだ」

「何でよ!? 」

アリシアが激昂して叫ぶ。

「ハッキリ言う意志の集(ヴィレゼーレ)には相応しくない。諦めろ」

俺はハッキリと言ってくれるのは彼の優しさだと思っている。でも、このまま終わりなんて……。

気まずさからか立ち去ろうとしている彼をアリシアが引き留めた。

「なら、こう言うのはどう? こいつは私の荷物持ち」

その台詞に俺も彼も『はぁ?』と言った感じった。

「そりゃどう言う意味だよ?」

「言葉の通りの意味よ。ギルドの正式なメンバーじゃなくていいから、私の荷物持ちってことで登録してよ」

まさか、彼女の言っていた奥の手というのはこれのことなのか?

彼は参ったなと言わんばかりに手で顔を覆う。

「サブメンバーみたいな感じか……なんだそれ、前例はないが、まぁ、それはマスターに聞いてくれ」

それだけ言うと彼は奥の方へと歩みを進めた。

そして俺は何とか立ち上がって彼にお礼を言う。

「ありがとうございました!!」

さっきボコボコにしたばかりの奴が元気よく言うので、彼は少し驚いているようだった。

「なぁ、アリシアこれって成功か?」

「微妙なところね。でも、ブルーノさんも言ってたでしょ、悪くないって。胸張っていいわよ」

彼女はウインクをする。

「アリシア……」

「だから、いちいち泣くな!」

そして俺は彼女の肩を借りながらギルドのロビーへと戻った。


綺麗に合格!とはいかなかった。勿論、悔しさもある。でも、自分の努力を他人に認めてもらえた。それは俺にとって初めての経験だった。

『信じるものは救われて努力するものは報われる』その言葉を信じて俺はまた一歩歩き出す。

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