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第12話 押してダメなら引いてみろ。それでもダメならぶち壊せ

フランツと立ち合いをすることになってしまったハジメだったが、そこで思わぬ収穫を得ることになる!

いきなりかかってこいと言われても困る、と弱気だった俺だが、己を鼓舞する。

「とりゃぁぁ!!!」

剣を縦に振る。

その一撃を彼は避けることをしなかった。

キンッという剣が当たる音はしたが、彼は表情ひとつ変えていなかった。

「え……?」

「ん? 何かしたのか?」

彼はただニヤニヤと笑っているだけだ。

「おっうぉぉぉ!!」

これの脇腹、首、脚に腕と至るところ全てを攻撃してみるが彼は微動だにしない。

そして一撃。

彼に蹴り飛ばされた。

「ぐはっ……」

彼は顎の無精髭を摩りながら言う。

「本当にダメだな。不合格確定だ」

見下ろす彼を俺は睨む。

フランツさんが瞼を閉じた。

(こいつの眼は悪くない。意志は宿っている。でも、足りないな……)

そして再度俺を見て言う。

「まず、お前は才能がない。そして経験もない。つまりゴミカスだ」

いきなり酷過ぎることを言われた。事実であるものの、面と向かってそんなことを言うなんて……。

「まぁ、でも攻略法がないわけでもない」

「ほっ本当ですか!?」

俺が喰いついたのを知ると彼は笑って話す。

「リヒトブルク帝国より遠く東に位置する国、東陽大皇国という国がある。その国の兵士は自壊をも厭わないらしい」

トウヨウ……日本みたいな国だろうか。

「東洋に位置する島国なんだが、まぁ、存外イカれてやがるよな」

彼はそこまで言うと胸ポケットから煙草を出して火をつける。

「そっそれで、その攻略法というのは?」

「ああ、その国剣術で、天心明水流という流派があるらしいんだが、それは所謂『勝つ為の剣技』だ。ギリギリ、ミスれば相打ちの技は数知れずというものだ」

「それを教えてくれるんですか?」

「馬鹿言え、俺は銃使いだ。剣術ならアリシアに教えてもらえ」

彼は攻略法がとか、得意げに言っていたが、全然そんなことなかった。

明らかに落ち込んだ俺の心情を察してか彼は言う。

「俺は剣術を教えることもしないし、魔法を教えない。けど、心意気なら別だ」

彼はニヤリと笑う。

「さっきの話しは続きがある。俺自身も東洋の地でその心意気を学んだんだ。だから、剣術としてではなく、それをお前に教えてやる」

「おっお願いしますっ!!」


これに連れられてきたのは、轟音を鳴らしている荒滝だった。

「よし、服を脱げ」

「へ? まさか」

俺は手で身体を隠すようにする。

「なわけねーだろ。殺すぞ」

「すいません……」

そして俺は全裸になって水の中に入るように言われた。

足を浸けるととても冷たかった。

「ひっっ!」

情けない声を上げる俺を彼は笑っている。

そして中央あたりまで来ると、深さは俺の肩ほどまでになった。

「フランツさん、寒すぎます!!」

「おう、知ってる」

彼は大きめの石に腰を下ろして脚を組んだ。

「よし、俺がいいって言うまでその滝に打たれたら」

知ってはいたが滝行だった。

俺は言われるがままに勢い強い滝に打たれ続ける。


ーーーーーー

「よぉーしもういいぞ」

「よっしゃぁぁ!!」

俺は全速力で水を走った。

全裸でずぶ濡れになって……俺は何をしているんだろう。そんな虚無感に苛まれる。

彼が俺に手を向ける。

「ベントゥス」

その呪文を唱えた途端凄まじい強風が吹いて、俺の水気を飛ばした。

「フランツさん……寒過ぎるんですけど……」

彼は『仕方ねーな』と言って薪を焚べて暖をとってくれた。

「ありがとうございます……」

ぶるぶると震えながら炎を手を(かざ)した。

「あの……この滝行の意図は?」

「ん? 特に意味はないが」

「は? 嘘ですよね」

「ああ、嘘だ」

俺はため息を吐いた。

彼は何かとやりずらい。煙草臭いし。

「あの、その意味を教えてもらっても?」

「水はどうだった?」

「どうだったと言われても……、冷たかったです」

彼の意図と違うのか、呆れたような顔をして言う。

「痛みは?」

「そりゃ、ありますよ。あの高さから落下してくる水は痛いですから」

「そうだな」

俺は痺れを切らして少し声を大きくしてしまう。

「あの! 教えてください。どう言う意図があるんですか!?」

彼は『まぁ、落ち着け』と言う。俺が落ち着けてないのは誰のせいか考えてもらいたい。

「曰く、『水が全てを司る』。その東洋の師匠が言っていた言葉だ。硬くも柔らかく、劇しくも穏やかに。どんな形にもなれる。それが水だと」

俺の表情を確認すると彼は続ける。

「お前は水になれ」

「水ですか……」

「さっきのお前の剣を見て思ったことがある。それは攻撃の強さが一定だということだ。強弱とリズムがないんだ」

言われてみればその通りかもしれない。俺はただがむしゃらに剣を振っているだけだった。

「そしてもうひとつ、お前の剣は一度の攻撃で途切れてしまっている。攻撃を終わらせてはダメだ。流れる流水が如く、剣の流れを断たせるな」

「なるほど……」

最初は意味が解らなかったが、だんだんと意味が解ってきた。

これ重要な助言になるはずだ。

「まぁ、せいぜい頑張れよ。お前じゃ無理だと思うけどな」

最後はいつもの通りに毒を吐いて彼は去って行った。

「あの、アドバイスありがとうございました」

それだけ聞くと止めた歩みをまた始めた。

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