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第11話 運命の転轍点

過ぎて行く時間に焦りを覚えるハジメに転機が訪れる!彼の運命の行末はまだ誰も知らない……。

意識が飛んだ。頭の中が真白に染まる。決して不快な感覚ではなく、むしろある種の心地よささえ覚える。


ーーーロミルダ宅ーーー

「ねぇ、あいつ遅くない?」

ロミルダが爪をいじりながらアリシアに訊く。

その問いに対して彼女もまた同意する。

「まぁ、ゆっくりと浸かってるのよ」

「それもそうね」

そこから特に2人は話さなかった。彼女達は特段仲が良いわけではない。勿論悪いわけでもない。気が合うかと言えば違うし、友情があるかと言われればそれも違う。しかし互いにある程度の信頼と共通点がある。

その共通点とは、2人とも大切な人を亡くしたということ。そして同じ光に照らされて、その絶望の深淵(ふち)から這い上がり今を生きているというところだ。


カチカチと音を立てて秒針が時を刻む。ハジメが湯に行ってからもう1時間が経っていた。

爪をエメラルドグリーンにネイルしているロミルダが時計に目をやった。

「ねぇ、もう1時間ぐらい経つわよね?」

斜め前の椅子に座って同じ卓上を囲むアリシアに同意を求める。

「うん、そうね。見に行く?」

ロミルダが心配をしている割には面倒臭そうな顔をする。

「え〜、それは面倒」

「あんたね……。心配なんじゃないの?」

「はぁ? 私が? 心配? なわけないでしょ」

そんなわけないと笑って言う。

素直じゃない彼女にアリシアがため息をする。

そしてじゃんけんで負けた方が見に行くことになった。提案者はロミルダだ。

音頭を取ったのもロミルダだ。

「行くわよ! じゃんけんぽん!」

アリシアがチョキ、ロミルダがパーを出す。

「くぅぅ……。アリシアのくせに生意気ね」

「じゃあ、行ってらっしゃい」

アリシアが煽るように冷笑する。


負けたロミルダが素直に癒しの湯へと向かった。

家か温泉までの距離は3分程度だ。その道のりも街灯が灯いているので、ビビリなハジメでも安心して行ける。

一応彼女はランタンを持って行く。

小鬼(ゴブリン)に遭うとも思えないし、大丈夫かしら……?)

そして彼女は何だかんだで心配しているようだった。その顔は少し不安げだ。

彼女が歩みを進めていくと、とうとう湯へと辿り着いた。

「ハジメ? ハジメ?」

返事は返ってこない。

「入るわよ?」

音ひとつない空間に若干萎縮しながらも暖簾(のれん)を手でどかして中へと入った。

そこで彼女は叫び声を上げる。

「きゃぁぁぁぁ!!」

甲高い悲鳴が雲ひとつない夜空に響き渡る。

その事件性のある悲鳴は家で待っているアリシアには届かなかった。

そして彼女が何を見たのかというと、ハジメが顔を上にして白目を剥いて気絶している光景だった。

彼女はすぐさま駆け寄る。

状態の確認をすると、息はしているし脈もある。

どうやら気を失っているようだ。

「はぁ、何してんのよ……」

彼女はハジメを湯船から出して魔法をかける。

冷風を当ててやり回復を待つ。ついでに服も着せてやった。

「スペテーナ」

彼女が唱えたのは浮遊魔法だ。担いで行くのは大変なので浮かせて家まで行くことにした。


俺は寝てたのか……。また、ベッドの上にいた。

起き上がると頭が少しぼうっとする。

ちょうど良い時宜でアリシアとロミルダが部屋に入ってきた。

「ああ、起きたのね」

ロミルダが笑って言う。

そしてアリシアからの説教が始まる。

「あんたね……、自分の体調管理ぐらいしたらどうなの? 大体ね……」

「まぁ、それぐらいにしてあげなさいよ。ハジメ、アリシアはねめっちゃ心配してたのよ」

「ロミルダぁぁ!! 言わなくていいでしょ!? ハジメもこっち見るな! 別に心配してないから!!」

俺のために心配してくれるなんて……。

『いちいち泣くな』と2人がツッコむ。

それはそうととロミルダがニヤニヤしだした。

「ねぇ、ハジメ。あんた意外と大きいのね」

俺はキョトンとした。最初は何のことか判らなかった。

ピンときてない俺の様子を察すると耳元で囁く。

「だぁ〜か〜ら、あんたのアソコが大きいって言ってんの」

そう言って俺のエクスカリバーを撫でた。

「へっ、はっ、ロッ、ロミルダさん?」

「あれ? ウブな反応ね。そっちの経験はないんだぁ〜」

舌をぺろりとして妖艶な表情をする彼女に、俺は完全に動揺していた。

するとアリシアなロミルダの背中を前蹴りして飛ばした。蹴られた彼女は地面に手をついて土下座のような体勢になった。

「ちょっと! いきなり何するのよ!?」

「それはこっちの台詞よ。何ハジメのこと誘惑してんのよ」

2人がバチバチと火花を散らして睨み合う。

「まあまあ2人とも落ち着いてくださいよ」

2人が声を揃えて言う。

「あんたは黙ってなさい!」

「はい……」

そして俺は1時間弱の間2人の言い合いを聞くハメになった。その(かん)正座で石のように動かずにいた。これは一体何の苦行なんだ?

時は刻一刻と過ぎていった。彼女達の言い合いをよそにして俺は居間のソファーで寝ることにした。


翌日の朝俺は物音で目が覚めた。

「ああ、もう、何してんのよ!」

ロミルダの怒る声が聞こえる。

「ごめん! 手が滑ったの」

アリシアが謝っている。

何があったのかと声のする方(台所)へ行ってみると2人が何かを作っていた。

「何してるの?」

俺は眠気まなこで訊く。

ロミルダが得意げに言う。

「ケーキよ。美味しそうでしょ?」

台上には白い塊があった。

「これがか」

「そうよ。まだ未完成だけどね」

「ふーん。朝から大変だね」

俺が欠伸をしながら言うと2人は不思議そうな顔をする。

「ん? どうした?」

アリシアがさも当然かのように言う。

「もう昼時よ?」

「は?」

俺はすぐさま時計の前まで駆ける。

時刻は午前11時30分だった。

「何で起こしてくれなかったんだよ!?」

そんな怒る俺とは反して彼女は至って冷静だ。

「何でって……気持ち良さそうにに寝てたじゃない」

「初日は起こしてくれただろ?」

そこまで言うと彼女がキレる。

「だいたいね。あんたが自分で起きればいいでしょ? 何で他力本願なのよ」

「……すみませんでした」

正論を前にして俺は静かに項垂れた。

失意の中で俺は外に出る。剣を振るためだ。


そして何十回か素振りをしたところで、とある男に話しかけられた。

「おう、しっかりと訓練してるのか」

長めでボサボサの黒髪に無精髭を生やしたおっさんだった。瞳の色は漆黒で宵闇のようだった。

「フランツさん……」

この男の正体はフランツ・ヴォルフ。俺に決意を固めさせた人だ。

「どうしてここに来たんですか?」

「嫌がらせだよ」

煙草を蒸して意地悪そうに笑う。

「お前の実力程を見ておいてやろうと思ってな」

「俺の実力……?」

「そうだ。その持っている剣で斬りかかってこいよ」

彼は手招きをして挑発する。

「良いんですね……?」

「ああ、速くしろ」

良いんですね……?なんて言ったものの、俺は内心ビビっている。できれば戦いたくなんてない。俺には判る。こういう昼行灯(ひるあんど)なおっさんに限って強い。ゲームや漫画ではお決まりの流れだ。

でも、そうも言ってられない。

(一矢報いてやる)

俺は剣を強く握りしめる。

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