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第1話 冴えない男の終わりと始まり

異世界転生って良いですよね。自分もしてみたいです笑

人は何故生きるのか?自分は何の為に生まれたのか?

とある男が、こんな疑問を抱きながら生きていた。

しかし、その男は不幸な事故に見舞われて、答えを出せぬまま、その短い生涯を終えることとなった。


2025年12月23日、クリスマスを目前に控えた寒い冬の日に、東京某所で交通事故が起こった。

被害者は1人の男子高校生。

その男の瞳が、最期に映したものは一台のトラックだった。

今際の際、彼の脳内に走馬灯が駆け巡る。

彼の17年とちょっとの短い一生の記憶は、口に出すことも(はばか)られるほどの残酷なものだ。

彼は、小学校高学年から高校2年生の今日この日まで、いじめに遭っていた。内容は、年齢が上がると共に酷いものとなっていき、中学校2年生の頃には、体に一生消えない傷をつけられてしまう。

彼の両親は、彼に医者になることを強要し、いじめられていることを告白した際には、『情けない』、『私の息子のくせに』と彼の人格を否定して罵った。

同級生にはいじめられ、親には全てを否定され、教師には蔑ろにされたきた人生。

死の際に、彼が抱いた感情は死に対する恐怖でも、世界に対する怒りでもなかった。ただ、終わりに対する心からの安堵だった。

駆け巡る走馬灯は、どれも酷いものばかりだった。凄惨で、屈辱的で、辛く哀しい物語。

そんな悲劇の主人公は、自分の人生を振り返って自嘲の笑みを浮かべた。

「……ああ」

辞世の句は、言葉ではなく口から漏れた喜びだった。


ーーー天界ーーー

彼の人生と、この事故の一部始終を見ていた女神は、彼にひどく同情した。

「ああ、そんな……こんな哀しいことなんてありませんわ」

彼女は、美しい水晶玉のようなもので、現世を観察することが趣味だった。今日もいつものように観察をしていると、たまたま彼の事故を目撃してしまった。

彼女は神だ。一目見ただけで、彼の生い立ちなど(わか)ってしまう。

女神の良き理解者である従者の天使が、(ひざまず)いて顔を下にしたまま具申する。

「あの者を『次元の狭間(インテルディメンシオ)』に連れてくればよろしいですね」

女神はその案を静かに聞くと、哀しげな表情のまま小さく首を縦に振った。

先刻の男の御霊が、天界へと登って行った。

天使はその御霊を見つけるなり、ガサツに掴み、目的の場所へと持って行った。

そして天使が秘術を施したことにより、死んだはずの男が目を覚ました。


目を開けると謎の女性が俺を見つめていた。

「え……あれ? 俺は確かに……あれ……」

自分が死んだと言う記憶が確かにある。車に当たった際の衝撃も確かにある。なのに何故だ?

(俺は生きている……?)

「良かったわ。目が覚めたようですね」

謎の女が涙を流しながら喜ばしそうに言った。

「おっ、おい! ここはどこだよ。俺は死んだはずじゃ……?」

あたりを見渡すと、ここは白い立方体のような部屋だった。家具などはなく、ここには俺とこの謎の女しかいなかった。

「初めまして。わたくしは、運命を司る女神、運命神フォルトゥナよ。よろしくね」

「いや……女神? 何言ってんだよ!?」

死んだはずの記憶と謎の白い空間、そして女神を自称する謎の女。

その自称女神は、長い銀髪にエメラルドのような緑色の瞳を持つ超絶ハイパー美人だった。

でも、だから何だ。今の俺には、(たと)え相手が美人であっても関係なかった。

そして俺の脳が狂うのも無理はない。

「俺は! 俺は自由なったはずだ。あの地獄から解放されて、もう苦しまないで済むはずなんだよ!」

俺は涙と鼻水で顔をぐちゃぐちゃにしながら叫んだ。もう、自分でも止められなかった。

「何が女神だよ! 神様なんているわけないだろ! いるんだったら俺がこんなに辛い思いするはずないだろ!……こんなに……くっくそ……」

彼女は俺の話をただ聴いているだけだった。反論ひとつせずに、ただ、優しい微笑を浮かべているだけだった。

不意に彼女が俺に近づき抱きしめる。

「ごめんね。今まで辛かったわよね。でも、もう大丈夫だから」

その台詞(セリフ)を聞き、俺は泣いた。泣きまくった。それこそ母の胸の中でなく赤子のようだっただろう。その時には、恥ずかしさとか、躊躇(ためら)いなんてものはなかった。ただ、悲しくて嬉しくて、感情がぐちゃぐちゃになっていて、心の整理がつかなかった。

何分ぐらい経ったのだろうか。声が枯れるぐらいまでないていた俺も正気を取り戻した。

「ごめん。いきなり叫んだり、泣いたりして」

慈悲深い女神は、怒るどころか俺の頭を優しく撫でる。

「謝らないで。貴方の人生(すべて)を見てきたから」

「俺のすべて……」

再び俺の脳内を、陰惨な記憶が駆け巡る。

先ほどは、開放からの安堵の気持ちでいっぱいだったが、それはだんだんと死への恐怖と、彼らに対する憎悪へと変わっていった。

自分を落ち着かせるためにも、俺はこの状況を推察することにした。

先ほどの自称女神の行動から察するに、俺の脳みそが、最後に粋な計らいをしたようだ。

俺が触れることなんて絶対に許されないような美人の胸の中で泣き、頭を撫でてもらう。我ながら、優秀な脳みそだと思う。

しかし、この自称女神は、俺の説を棄却する。

「違うわ。貴方の想像ではないの。わたくしは本当の女神であり、この空間も実在するものなの」

「神様だって? そんなの人間の想像上のものだろ。いるわけない」

彼女が頬を膨らまして反発する。

「それは貴方が見たことないだけよ。ちゃんと神様はいますぅ!」

可愛らしいところがあるじゃないか、自称女神よ。ただ、俺には確信がある。

「なら、何で俺のことを助けてくれなかったんだよ。神様なら助けてくれたっていいじゃないか」

その話をすると、彼女の表情が曇った。

「それは……ごめんなさい。生きている人間には干渉しないことが、神様の(ルール)なの。許してちょうだい」

俺はこの台詞の中の、1フレーズに引っかかった。

「生きている人間には……ああ、そうか。なら、俺はやっぱり死んだんだな」

気持ちが落ち着いたからだろうか。恐怖も憎悪も少しずつ消えていった。

「そう……ね。貴方は死んでしまったの」

判ってはいたが、こうも面と向かって言われると、少しくるものがある。また、涙が出てきた。

「そうか……そうなんだな」

男の表情は穏やかなものへと変わっていった。自身の死を受け止めたことにより、精神的にも安定したようだった。涙を拭き取り、女神を真っ直ぐと見つめた。

「最期にあんたに会えて良かった」

俺の最期の言葉を聞いた自称女神が、慌てたように言う。

「ちょっと待って! これで終わりで本当に良いの?」

「そんなこと聞かないでくれよ……良いわけないだろ……でも、俺は死んだんだ」

俺はこれ以上泣いてる顔を見られたくなかったので俯いた。

すると彼女は声を大きくして言う。

「もう一度やり直さない?」

その言葉に驚いて彼女の方を見ると、得意げな笑みを浮かべていた。

「やり直すって……それはどう言う意味だよ?」

「ふふん。言ったでしょ? 私は運命を司る女神だってね」

俺は察した。これは輪廻転生と言うやつだ。

「違うわ。それは現世での繰り返し(ループ)のことでしょう。わたくしが言っているのは、魂魄転生術(リンカーネーション)のこと。俗世的に言うなら異世界転生? ってやつよ」

異世界転生、それは厨二病の少年少女諸君なら、必ず1回は憧れたことがあるものだろう。俺もそうだった。ゲームや漫画などでよく見るそれだが、実際にあるとは思ってもみなかった。

「じゃあ、最強チート能力で無双して、たくさんの美女を侍らせて、ハーレム帝国を作れるってことなのか!?」

早口になって低俗な物言いをする俺に困ったのか、自称女神、いや、麗しき運命の女神様は、苦笑いしながら答える。

「それは貴方次第よ。でも、貴方が頑張れば、どんなことだってできるはずよ」

『頑張れば』なんてことは聞こえなかった。正確には、聞こえたけど俺の脳が無視したんだ。この時の俺は、夢にまでみた異世界ライフを送れることに、心の底から歓喜していた。

「特段貴方に何か加護を付けてあげることはできないわ。でも、応援してるわ」

この重要な台詞を、俺は聞いていなかった。この時はもう、美女とのイチャラブライフのことで頭がいっぱいだった。

俺は彼女の両手を取って泣きながら謝る。

「ああ、美しき佳人よ。麗しき女神よ。先ほどまでの無礼をどうかお赦しください。その寛大な御心のもとに、私がはたらいた失礼の数々をお赦しください」

俺は思ってもないことを言うのが得意だ。長年のいじめによって鍛えられた、惨めで卑しい特技だ。

「そっ、そんな謝らないで。じゃあ、準備はいいわね?」

「もちろんでございます!」

俺が激しく首を縦に振ると、見覚えのある美少女が門を開けた。

その少女は急に現れた。おそらく人間ではないのだろう。

「彼女は?」

「彼女の名前は、熾天使ミカエル。またの名を大天使ミカエル。彼女が貴方をここまで運んできてくれたのよ」

なるほど。だから、見覚えがあったのかもしれない。

美しい金髪に、サファイアのような瞳の美少女天使。ああ、夢があるな……。

俺が見()れていると、彼女が凄くドン引きしたような顔で俺を見る。

しかし、それもまた一興。

「フォルトゥナ様、運命の神門(ファートムポルタ)の準備が整いました」

俺は高さ3メートル以上ある、白い大理石の門の前に立つ。

女神様が名残惜しそうに言う。

「短い時間だったけど、楽しかったわ。この先も苦難が待っているかもしれない。でも、忘れないで、貴方には運命の女神がついていると言うことを」

彼女の顔を見て、俺も自然と涙が溢れた。会って数分の関係なのに、何故だろうか。それは判らない。

俺は、最後の挨拶の言葉に悩んでいた。もう一生会うことのないだろう彼女にかけるべき言葉が判らなかった。そして、多分、1番相応しくない言葉を選んでしまったと思う。

「本当にありがとう。フォルトゥナ、またな!」

自分にでき得る限りの笑みを作って言う。彼女に余計な心配をかけさせないように。

彼女も少し瞳が潤っているようだった。指で軽く目を擦り、彼女また、満面の笑みで別れを告げる。

「えぇ、また会いましょう!」

その言葉を聴き終えると、俺は彼女に背を向けた。これ以上ここにいても、別れがより辛くなるだけだ。

天使が俺の横に立つ。

「もうよろしいのですね?」

「ああ、ありがとう」

悔いはない。そうだろ。自分に言い聞かせるように何度も呟くが、俺は我慢できずに、背後(うしろ)を振り返ってしまった。

しかし、そこには誰もいなかった。

「……ありがとう」

女神様は全てお見通しのようだった。

その門へと一歩踏み出すと、目を開けられないほどの(まばゆ)い光に包まれて、そこで意識を失った。



ミカエルが誰もいなくなった門を閉じた。

「彼はもう行きましたよ」

返事が返ってこなかったので、彼女は振り返った。

「フォルン……」

フォルンとは、ミカエルが、2人きりの時だけに使うフォルトゥナの愛称だ。

「ごめんなさい。少し哀しくて」

今までにも彼女が人間を異世界へ送ったことはあった。しかし、こうも別れを惜しんだことはなかった。

そのことに気がつくと、ミカエルは、あの冴えない男が実は凄い人物ではないのかと思った。だが、彼の憐れな言動を思い出して首を振る。

(ふっ、ないな……)

フォルトゥナは知っている。彼女は運命を司る女神だ。運命とは、いくつもの必然が重なって紡がれるものだ。

「ねぇ、ミカ。わたくしはね、いつも言ってるでしょう。運命に偶然はない。偶然と言われるのは、思いもしない必然のことだ、ってね」

彼女が微笑む。その笑みが何を表しているのかは、ミカエルには判った。

女神様は、閉じられた門をそっと撫でて呟く。

「大丈夫。貴方ならきっと……」

何とか1話かけました!

この先、彼を待っているのは本当に無双ハーレム生活なのか!?

まだまだ続く予定なので、ぜひ応援よろしくお願いします!!

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