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姿なき襲撃者

「そう言えば、お前は今日、クエストには行くのか?」


 結構な量だった朝ご飯をペロリと平らげたプリテンダーの女が、チャラ男に尋ねる。


「あ、スイマセン、今日はオフです。アビソトルの毒は後遺症が怖いから、少しは休憩しろって言われましてね」

「言ったのはあいつだな」

「ええ、あのテチワさんです」


 言うまでもなく、お局なテチワである。彼女はスペクターであると同時にドクターでもあるのだ。というか、割とマジで何でも出来る子ちゃんだったりする。


「なら、今日は留守番か?」

「まぁ、そうなりますかね。ちなみに姉御は?」

「仕事が入ってるな。……スゲェ行きたくねぇけど」

「………………?」


 淡々と仕事を熟すタイプのプリテンダーの女にしては珍しい、物凄く嫌そうな顔に、チャラ男が首を傾げる。それ程までに難易度の高いクエストのサポートなんだろうか?


「ああ、いや、内容自体はシンプルで楽な物だよ。「トラルテクトリ」の狩猟に付いて行くだけだからな」

「全然楽じゃない件について……」


 「トラルテクトリ」とは、乾燥地帯に棲息する巨大なカエルで、その貫禄から「大地の主」とも呼ばれる強敵である。まだまだ新米のチャラ男では、狩猟処か撤退すら儘ならないだろう。


「でも、トラルテクトリを倒せるって事は、かなり上位のプレデターなんですね。素直に憧れるっスよ」

「……やめとけ、絶望するぞ」

「どういう事!? 逆に気になるんですけど!?」


 チャラ男からすれば上級戦士は憧れの的でしか無いのだが、プリテンダーの女は彼(もしくは彼女)の何を知っていて、どうしたらそんな感想が浮かぶのか。逆に気になる。


「そんなに気になるなら、一緒に来てみるか?」


 すると、プリテンダーの女から意外な誘いが。


「えっ……良いんですか?」

「お前にも上級のプレデターに成って貰わなきゃ困るからな。予習しておくのも悪くないだろう」

「………………」


 チャラ男は少しだけ悩み、


「――――――行きます! 是非ご一緒させて下さい!」


 力強くそう言った。見た目はチャラいが、根は真面目で向上心のある男だ


「なら、行くか。……後悔するなよ」


 そんなチャラ男の言葉に、何処か試すように尋ねるプリテンダーの女。断られるとは微塵も思っていない顔である。


「モチのロンですよ!」


 もちろん、答えはOK!

 さぁ、今回はスペクターとして初の実践だ!


 ◆◆◆◆◆◆


 「アストラン」から更に北へ北へと進んだ先にある、荒涼とした砂漠地帯。罅割れた大地とゴツゴツとした石ころが転がるだけの不毛な場所だ。


「へぇ、スペクターってこんな所に居るんですね」

「ああ。伏せて撃つスペースさえあれば、大抵は問題なく居座れる」


 そんな渇いた地平線の一点……聳え立つ巨岩石の上に、チャラ男とプリテンダーの女は陣取っていた。狩場全体を見渡せ、尚且つ下からの不意打ちを受け難い、狙撃手には最適の高台である。


「……で、“あの人”が今回の観測対象ですか》


 と、仮面の拡大機能で砂漠地帯を覗き見ながら、チャラ男が尋ねる。彼の目には、如何にも聖騎士という恰好をした女のプレデターが映っていた。何故か剣でなく、盾を両手持ちにしているけど。


「そうだ。ランクとしては★7だな」


 銃に弾を込めつつ、プリテンダーの女が答えた。


《最上級じゃないですか!》


 ギルドはプレデターの強さを「★」で規定していて、★の数が多い程そのプレデターは強い事を意味している。目安として、



 ★1~★4が下級

 ★5~★6が上級

 ★7~★9が最上級



 とされており、★10以上のプレデターは「神」と称される程に強い。

 むろん、誰もが神へと至れる訳ではなく、そもそも★5に到達するだけでも狭き門なのである。★7ともなれば指で数える程度しか存在せず、神に関しては過去の英雄でしかないので、現実的には上級くらいに落ち着けば御の字と言える。

 つまり、チャラ男が見ている女騎士は、その数少ない指折りのプレデターなのだ。チャラ男からすれば憧れの的でしかないのだが、彼女の何処に問題があるのだろうか。


「ま、見てりゃ分かるさ。それより、そろそろ接敵するぞ》


 仮面を付けたプリテンダーの女が呟く。


《えっ、何処ですか?》


 だが、チャラ男の目では判断が付かない。どれもこれも野晒しの石ころに思える。

 スペクターの仮面にはサーモグラフィーが搭載されているので、赤外線であれば視覚化出来るのだが、当然ながら変温動物に関しては効果が無い為、己の視覚に頼る必要がある。見分けられるかどうかは、職人としての勘と慣れ次第と言えるだろう。


《ほれ、あそこだよ。女騎士様の右手前の岩》

《女騎士って……あ、本当だ》


 プリテンダーの女に言われて見れば、確かに女騎士の少し手前の岩が僅かだが動いた。こうして視ると、かなりの擬態精度である。

 しかし、そんな事を言っている場合では無い。普段は小動もしないトラルテクトリが動いたという事は、捕食モーションに入ったという事だ。その上、女騎士は全く気付いていない。俯瞰と水平では見え方が違うのであろう。

 これはもしかして?



 ――――――パクッ!



《《あ》》


 普通に食われた。瞬きする間も無い、見事なまでの丸呑みである。


《くっ! これは臭い弾を……!》

《いや、まだ良い》


 これは由々しき事態だとチャラ男が弾丸を発射しようとしたのだが、何故かそれをプリテンダーの女が止める。


《ちょ、ちょっと、大丈夫なんですか、あれ!?》

《まぁ見てろって。……ドン引きするのはここからだから》

《は?》


 驚くチャラ男が尋ねるも、プリテンダーの女は曖昧に返すばかり。というか、ドン引きするとはどういう事だろう?

◆トラルテクトリ


 ナワトル語で「大地の主」を意味する、軍神にして地母神。全てを嘲笑う不気味な仮面を被り、蛙のような姿勢で世を見下ろしていると言われている。古代の神でもあり、ケツァルコアトルとテスカトリポカとの戦いに敗れ、天地を創造する為の材料となった。

 正体は岩に擬態する巨大な蛙。堅牢な岩の鎧で身を守っているが、所詮は蛙なのでケツァルコアトルに勝ち目は無い。

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