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ナナカトルのひみつ

 緑溢るる楽園、その一画。


「………………」


 今日も今日とて、プリテンダーの女は次なる仕事の準備を進めていた。

 先ずは装備の点検。光刃剣と輝盾はあくまで緊急時に使う“奥の手”であり、基本的にはブースターやマスク、防具の整備が優先される。特に使用している化合液のチェックは本当に大事で、もし使用期限を過ぎたり配合率が狂っていたりすれば、装備は忽ちガラクタになってしまう。それくらいに重要なのだ。

 さらに、防具の点検が済んだら、次は武器の調整である。きちんと起動するのか、出力は問題無いのか、摩耗具合はどうなのか――――――調べる事は山程ある。分解出来る物は一度解体して、内部の掃除も忘れない。面倒な事だが、いざという時に弾が出なかったり剣や盾が起動出来ないとあっては命に係わる為、手を抜くなど以ての外だ。

 そして、最後は弾作りである。プリテンダーにとって最も重要なアイテムであり、出来栄え次第では自分処か依頼者にまで累が及んでしまう。多種多様な毒と刺激物を絶妙な割合で配合し、自前の鍋で煮詰めて、薬莢に詰めていく。普通に臭いし、失敗すれば色んな意味で大惨事になる。慎重に慎重を重ねても足りはしない。


「姐御~、そろそろ飯にしませんか~?」


 と、扉を隔てた向こうから、チャラい声が聞こえてきた。前回の一件以来、住み込みで働かせている新米プレデター、もとい家政夫だ。彼は見た目と態度のチャラさとは裏腹に意外と家事スキルが高く、一通り以上に熟せる。特に料理に関しては、“お前は主婦か”と突っ込みたくなる程に上手く絶品だったりする。

 ちなみに、今朝のメニューは「牛肉のニンニク煮込みソパ・デ・アホ・イ・バカ」「アボガドのソース(ワカモーレ)付きの薄焼きパン(トルティーヤ)」「牛肉のスパイス焼き(カルネ・アサーダ)」「サボテンのサラダエンサラーダ・デ・ノパリートス」と、野菜が多めながらもガッツリした料理である。下処理や仕込みが必要な物が多い事からも、彼の腕前と拘りが窺える。


「「いただきま~す」」


 お互いに面と向かって食前の祈りを捧げ、もりもりと頂いていく。朝食は一日の始まりを告げる活力源。しっかりと食べて、体力を付けよう。

 何せ今日からは、二人での狩猟生活がスタートするのだから。


 ◆◆◆◆◆◆


「――――――って事で、訓練から始めるぞー」


 だが、いきなり実戦投入したりはしない。新米とは言えプレデターなのだから基礎的な戦闘技術はあるし、チャラ男の場合はそこそこクエストも熟しているが、それでもプリテンダーの女から見れば雑魚同然だ。飯の種として当てにする以上、立派な捕食者になって貰わねば困る。

 という事で、彼女の用意した実践訓練が、今から執り行われるのだ。


「さて、お前にはこれから採集クエストをして貰う」

「採集ですか?」

「そうだ。この森の奥にある、「魔法の茸(テオナナカトル)」を採って来い」

「………………」


 「テオナナカトル」とは、食べるとハイになれる魔法の茸である。身体強化や体力増強、治癒能力の向上など、効能は多岐に亘る。そのような事もあって、お値段もかなり張る貴重品であり、採集して売るだけでも一山築ける程の稼ぎになる。

 しかし、人を人とも思わないプリテンダーの女が、単なる採集クエストを用意する筈が無い。絶対に何かある。

 まぁ、それを含めての訓練なのだろうが……。


「もちろん、何時も通り倒れて良いのは二回までだ。三回目をカウントした時点で、クエストは失敗となる。さぁ、行って来い」

「……了解」


 プリテンダーの女に促され、チャラ男は狩場である鬱蒼とした森の中へと歩を進めた。

 プレデターの狩りは、三回力尽きた時点で強制的に失敗と見做される。それ以上は本当に命が尽きてしまう危険性があるからだ。幾ら回復薬や休憩を挟んだ所で、限界以上の事は出来ないし、無理を押し通せば普通に死ぬ。「“まだいける”は“もう危ない”」という暗黙のルールを守れない馬鹿から先にくたばるのが運命(さだめ)である。

 ……つまり、ここには“クエスト失敗に繋がるような危ない奴が居る”のだ。随分とお優しい事で。


《さて、やるか……!》


 チャラ男は仮面を付け、奥を目指した。




◆『クエスト名:【「テオナナカトル」の納品】』

◆テオナナカトル


 ナワトル語で「神の肉」を意味する、持っていると犯罪になる“魔法の茸”。強い幻覚作用があり、食べた者は恐怖心を忘れ、神と交信したかのような高揚感を得られるという。端的に言うと、ラリってハイになってるだけである。主に他部族との戦争時や宗教の儀式で用いられていたらしい。

 この世界においては“高い強壮作用”として発現しているが、それはプレデターたちのフィジカルが異常だからであり、地球人が接種したが最後、あっと言う間に廃人と化す。

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