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狙われた女

お巡りさんこいつデス

 その後、狩場へ移動したプリテンダーの女は、討伐のサポート態勢に入ったのだが、


《……んん?》


 何故か「メシカ」の姿が見当たらない。狩猟対象である


《よう、糞女。また会ったな》

《………………》


 どうした物かと思っていたら、背後から声を掛けられた。振り返れば案の定、「メシカ」が勢揃いしている。きちんと消臭剤も撒いており、悪臭は綺麗さっぱり無くなっていた。

 今プレデターたちの眼前に居るのは、サポート用の装備しかないスタイルの良い女が一人だけ。囲って襲って犯してしまおうと顔に書いてあった。


《さっそくだけど、ヤらせろよ。さっきの慰謝料を身体で払ってもらうぜ》


 さらに、直接的な犯行声明までする始末。まさに外道、人間の屑である。


《はぁ……》


 プリテンダーの女は、諦めたように深い溜息を吐きながら腰を上げると、


《へーい》

《きょっ!?》《ぺぇっ!?》


 ズボンを下ろしていた気の早いプレデターたちへ瞬歩で近付き、そのダラシネェ物体を握り潰した。当然、男たちは白目を剥いて倒れ、そのまま動かなくなった。

 残るはリーダー格の新米プレデター、唯独り。


《ななな、ナナナ、NANANA!?》


 一瞬で巻き起こった惨劇に、しっかり股間を防御しつつ、目を白黒させる新米プレデター。


《さて、残るはお前だけだな》


 そして、手をワキワキさせながら、容赦なく歩み寄るプリテンダーの女。さっきと違って一歩一歩が重々しく、纏う殺気は常軌を逸している。とにかく目がヤバい。養豚所の豚を見るかのような冷酷な眼だ。


《お、お前、何で……!?》

《あいつが言ってただろ。“ギルドの職員に手を上げるのは普通に罰則だ”ってな。私に認められていない(・・・・・・・・・・)のは正当防衛だけ(・・・・・・・・)業務妨害をする(・・・・・・・)ような阿呆は(・・・・・・)例外なく始末(・・・・・・)されるんだよ(・・・・・・)。お分かり?」

《だ、だが断る!》

《それを断る。拒否なんて無駄無駄無駄なんだよ》


 しかも、死刑宣告付きである。オワター。


「ひぃぃいいいっ! お、お願いしますぅううううっ! 命だけは、命だけはご勘弁を!」

《ならボールを吹っ飛ばしてやろうか》

「そっちも出来れば穏便にぃ! 数々の無礼な態度、申し訳ございませんでシアターッ!」


 だが、生き意地汚い新米プレデターは、恥も外聞も装備すらもかなぐり捨ててDOGEZAし、プリテンダーの女の足に擦り寄るという最終手段に出た。とても捕食者とは思えない情けない姿だ。宇宙の狩人が見たら呆れ果てる事だろう。


《……ハンッ!》


 事実、プリテンダーの女も、月・水・金に出す燃えるゴミを見るような目で見下しつつ、鼻で嗤っている。

 しかし、このあまりにも無惨なプレデターの命乞いも、決して無駄では無かった。


《ああ、良いよ。その無様な姿に免じて、許してやる》


 意外、それは赦し。てっきり「命だけは取ってやる」とか言いそうだったのに。


「えっ、マジで!?」

《ただし、お前今日から私の奴隷な。狩りの御供は必ず私にして、報酬の半分は貰う。家事全般も当然させるし、身の回りの世話を全てやらせるからな》

「………………」

《返事は?》

「イエッサンッ!」


 プリテンダーの女に、プレデターの男がビシっと敬礼する。彼はこの時、心の底から「生きてて良かった」と思った事であろう。だからと言って、股間の一物も敬礼するのはおかしい気もするが。責められて興奮した?


「……それはそうと、クエストはどうしましょうか?」

《問題ない。他に誰も見てない事だし――――――私が狩る(・・・・)

「えっ、あっ……!?」


 言うが早いか、すっかり従順な犬と化した新米プレデターを尻目に、プリデンターの女が狩場へと躍り出る。


『シャアアアアッ!』


 唐突に空から降って来たプリテンダーの女に、オセロットが警戒心を顕わにする。こうして見ると、意外と大きい。尻尾が銃剣のように硬質化している以外は、単に馬鹿デカい山猫だけど。



◆『分類及び種族名称:銃剣超獣=オセロット』

◆『弱点:尻尾』



《いよぅ、猫ちゃん。上手に焼きに来たぜ》


 そんなモンスターの威嚇など歯牙にも掛けず、プリテンダーの女が腰に差している黒い筒を抜く。スイッチ一つで内部機構が起動し、柄から発光する流体が溢れ出て瞬時に固形化、光る刀身を持つ剣となった。

 一方、空いている右手には背負っていた盾を持ち、同じく光る液体でコーティングして、輝くシールドに変える。

 左右は逆だが、まるで剣闘士のような出で立ちである。


『ギャキャアアアアアッ!』


 と、先に抜いたのはそっちだとばかりに、オセロットが飛び掛かってきた。身体を弓のように弾いての一跳躍だ。瞬時に間合いが詰まり、強力な前足の引っ掻きが繰り出される。


《………………》


 だが、プリテンダーの女は冷静に“攻撃の隙間”を見抜き、転がって回避した。


『ギャヴォッ! フシャアアッ!』


 すると、躱されたと見るや否や、オセロットは走りながら尻尾を振るい、何と数発の毒針を飛ばしてきた。尻尾の銃身がリボルバーに似ているなと思ったら、本当にマグナムだった。リボルバー……オセロット……うっ、頭が!


《………………》


 しかし、プリテンダーの女は“数撃っても下手くそじゃ当たらねぇんだよ”とばかりに、足捌きと跳躍、背中のブースターによる短距離移動で全て躱し切った。


《………………》

『ギャビャッ!?』


 さらに、一気にブーストで距離を詰め、シールドバッシュで再び飛び掛かろうとしていたオセロットを殴り飛ばした。自慢の牙がへし折れ、血反吐をぶち撒けながら、もんどうり打って倒れる。


《死ね》


 そして、オセロットが起き上ってくる前に、プリテンダーの女は止めを刺した。切って殴って八つ裂きにする、凄まじいラッシュ攻撃である。これにはオセロットも堪らず、悲鳴すら上げずに息絶えた。討伐完了だ。


「スゲェ……!」


 その一部始終を、新米プレデターは見ていた。凄過ぎて、語彙力が死んでいる。

 まさしく圧倒的。相手に何もさせない一方的な戦い。もはや虐殺に等しい攻撃の嵐は、プレデターとして素直に尊敬し、憧れた。

 だからこそ、だろうか。


《……よーし、終わったぞー》

「姉御ぉ! 俺を弟子にして下さぁい!」

《急にどうした!?》


 帰って来たプリテンダーの女に、新米プレデターがスライディング土下座をするのは、必然だったのだろう。


「家事全般を担当するという事は、半ば住み込みになるんでしょう? それに俺の報酬を半分出すんだから、俺自身が強くなった方が、色々と都合が良いのでは?」

《確かに……》


 何だか言いくるめられたような気もするが、私生活で楽が出来るのならば、どうでも良いか……と思うプリテンダーの女であった。

◆オセロット


 ナワトル語で「ジャガー」を意味する、文字通りの巨大な怪猫。闇の化身「テスカトリポカ」が変身したとも伝えられており、最初の人類を滅ぼした怪物だと言われている。

 正体はオセロット(動物の方)の仲間が突然変異した化け物。なのでジャガーとはあまり関係ない。日本で言う「ムジナ」みたいな扱いである。尻尾がリボルバー式の銃剣型になっており、そこから毒で固めた体毛の弾丸を射出する。

 ちなみに、アステカ神話では爬虫類や両生類が優勢である為、生態系のピラミッドではかなり下に位置しており、割と容易に捕食されてしまう。

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