表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/16

夢幻からのパスポート

 大衆食堂「プルケ」。


「もぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐ!」


 昼飯前の微妙な時間に、魔女っ娘が滅茶苦茶に自棄食いしていた。オススメ定食を五人前くらいペロリと平らげ、今や六人前に差し掛かっている。こんな小さな身体の何処に収まるのかは不明だが、気にしたら負けであろう。プレデターなんて皆こんな物だ。

 さて、彼女が一体どうしてこんなにもドカ食いしているのかというと、


「飯! 食べずにはいられない! このアタシが、こうも立て続けにクエストを失敗するとは……あァァァんまりダァァアァもぐもぐもぐもぐぅ!」


 御覧の通り、クエストに失敗したからである。初陣のチャンティコこそ止めを刺せた物の、プリテンダーの女とチャラ男の力添えがあったからであり、その後に関しては完全に自業自得の惨敗三昧だ。


『何だ、また失敗したのかワン?』


 すると、そんな傷心中の魔女っ子に、テチワのお局様が話し掛ける。こちらも大盛り定食をモリモリである。


「そういうアナタも何かミスでもしたんですか?」

『おまえと一緒にするなワン。単に徹夜明けで疲れてるだけだワン。新米の子が怪我して、シフトに穴が開いたのよ』

「あらま」

『まぁ、後輩のケツを拭うのは先輩の役目だワン。そもそも、わたしはリーダーだからね』

「………………」


 何処かの唯我独尊と違って、しっかりと上に立っている。


『まぁ、失敗は誰でもあるワン。問題はそれをどう次に活かすのか、だワン』

「……どうすれば良いと思います?」

『おや、今日は随分としおらしいわね。よっぽど酷い目にあったようねぇ?』

「聞いてくれますか?」

『どんと来いだワン!』

「実は――――――」


 お局テチワの言う通り、今の魔女っ娘はしおらしく、どうにも行き詰っているようだった。そのせいか、突っ張り気味な彼女も、ついつい弱音を相談という形で吐いてしまった。


『なるほど……まぁ、普通におまえが悪いワン』

「デスヨネー」


 そんな事は、言われるまでもなく魔女っ娘自身が良く分かっている。だからこそこうして悩み、不貞腐れているのだ。

 しかし、流石に罵倒だけで終わる程、お局テチワも無情ではなかった。


『ようするに、まだまだ修行不足って事だワン。今のおまえに一番必要なのは指南役だワン。どうせその戦い方も、我流なんでしょ?』

「うっ……」


 全く以てその通りである。魔女っ娘がプレデターを目指した時、彼女の知人は(・・・・・・)一人残らず(・・・・・)死んでいたのだから(・・・・・・・・・)、当然の事だ。装備も技も全て借り物。託してくれた人も、既にこの世を去っている。魔女っ娘はずっと独りぼっちだった。


『ちなみに、装備や狩りのスタイルを変える気は?』

「……それだけは、出来ません」


 お局テチワの質問に、魔女っ娘が俯いて返す。今の装備は、どうあっても譲れない物であるらしい。それは拘りというより、意地や脅迫概念に近い物がある。


『……仕方ないワン』

「えっ、修行を付けてくれるんですか!?」

『んな訳あるか。テチワの戦闘スタイルなんて、何の参考にもならないワン』


 それは本当にそう。


『わたしは教えてやれないが……良い人材なら知ってるから、そっちを斡旋してやるワン』


 なるほど、有難い提案である。


「……それって、あの女(・・・)とかではないですよね?」

『ちゃんとプレデターを紹介するワン。おーい!』


 と、お局テチワが、遠くの席でポツンと食事を楽しむ女騎士風のプレデターに声を掛ける。


「おや、どうしたのだ?」

『――――――こいつはどうしようもない奴だが、これでも最上級プレデターの一人だワン。武器は一通り扱えるし、何なら並みの上級プレデターより使い熟せるワン。だから、こいつに……』

「おいおい、いきなりだな。話に付いていけないのだが?」

『それは、かくかくシキ○カで――――――』


 親し気に話す二人の姿を見て、魔女っ娘が驚く。

 最上級戦士と言えば、彼女からすれば雲の上のような存在であり、おいそれと話し掛けられるような相手ではない。そんな頂点の一角が何の因果か、話すどころか稽古まで付けてくれる事になるという。これは渡りに宝船、心躍らずにはいられなかった。


「よろしくお願いします!」

「あい分かった。迷える後輩を導くのも先輩の役目という物だろう」

「やった! ……っと、何か緊急のクエストが来ましたね」


 さらに、都合の良いタイミングで緊急性の高いクエストが発注された。

 内容は“「タモアンチャン」と「アストラン」を繋ぐ街道にて、暴風の蛇神「エエカトル」と空の悪霊「ツィツィミトル」が出現、行商人が立ち往生しているので救助を求む”という物。これは是非とも女騎士とチームを組んで、ご指導ご鞭撻をお願いしたい所だ。


「受けましょう!」

「そうだな。修行云々は置いておくにしても、遭難者の命は一刻を争うだろうからね」

『頑張るワ~ン♪ わたしは寝るから~♪』

「「お疲れ様です」」


 そういう事になった。

 しかし、魔女っ娘はもう少し考えるべきだったかもしれない。憧れの存在である筈の最上級戦士がポツンとテーブルに座り、お局テチワに“どうしようもない奴”呼ばわりされていたのかを。

 具体的には、女騎士がご執心な(・・・・・・・・)プリテンダーの女(・・・・・・・・・)に聞けば(・・・・)、一発で分かったのだが……。

◆エエカトル


 ナワトル語で「強い風」を意味する、暴風を巻き起こす蛇神。「ケツァルコアトル」の化身ともされており、その力は月と太陽をも突き動かす程だと言われているが、人間の少女「マヤウェル」に恋を抱くロマンチストな一面もある(立場が違い過ぎるせいで悲恋に終わるのだが)。

 正体は蛇に似た巨大な蜥蜴。特に有毒有鱗類の絶滅種「モササウルス」に近い系統の生物で、地を這い空を飛ぶよりも、泳ぐ方が得意。ケツァルコアトルの若齢形態でもある。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ