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空の落し物

 ある日の昼下がり、楽園都市「タモアンチャン」と辺境国家「アストラン」を繋ぐ街道。


「ふぁー、良い天気だねぇ」

『キュィ~』『キャキィ~』


 運搬車の御者台で、男が呑気に呟いた。彼は行商人であり、これからアストランに向かう所だ。

 街道は言いつつも、全体的に抜かるんでいる上に近くを巨大な河が流れている為、決して歩き易くはないが、荷車を引く「ポチテカ」という草食獣は走破力が高いので、特に問題は無い。

 ちなみに、荷台には幾つかのスパイスと衣類、珍しい鉱石などが積まれている。内陸でしか入手出来ないそれらを売りに行き、帰りにアストランの特産品を持って帰るのである。どちらも貴重な品々なので、運賃などの諸経費込みでも充分に黒字だ。

 だが、旅路に危険は付き物。


『シュラララララ……!』


 早速モンスターが現れた。しかも結構デカい。


「「エエカトル」か……」


 「エエカトル」とは、風を司る蛇神である。

 虹の彼方に消えた最強の蛇神「ケツァルコアトル」とも深い関わりがあるとされており、その力は大気にさえ影響を及ぼし、月と太陽をも動かすという。

 容姿としては、頭部に生えた鳥の翼を思わせる一対の鶏冠が特徴で、十数メートルの長大な肉体と、鋼鉄よりも硬くて強靭な鱗を持つ。リュウゼツランのような背鰭や側鰭、尾鰭を使い、水陸処か空さえも泳ぐとされている。

 まぁ、エエカトルの目撃例自体が少ない為、それらの情報が何処まで信用出来るかは不明だが……。

 何れにせよ、強力なモンスターである事に変わりはない。唯でさえ荷物ばかりなのに、文字通り蛇に睨まれるとは、まさに絶体絶命の状況と言えよう。



◆『分類及び種族名称:暴風超獣=エエカトル』

◆『弱点:頭部の鶏冠』



「チッ、久々だけど、()るしかないか……!」


 しかし、行商人の男は焦らない。彼は元プレデター。怪我が原因で引退してから随分と経つものの、その腕前は衰えていない。倒す事は難しくとも、追い払うくらいは出来るだろう。

 だが、その後行商人の男とエエカトルが刃を交える事は無かった。


『ギゴォォヴァゥゥゥッ!』



 ――――――ドギュギャギャギャギャギャギャッ!



「うぉあっ!?」『シュラァッ!?』


 突如として空襲を受けたからだ。黒曜石のような物体が雨あられと降り注ぎ、次々と爆発する。行商人のとポチテカは咄嗟に近くの森へ退避出来たが、図体のデカいエエカトルは諸に食らってしまった。


「「ツィツィミトル」だと……!?」


 犯人は、空の悪霊「ツィツィミトル」。髑髏を思わせる外殻に包まれた大怪鳥然としたこのモンスターは、世界に暗雲を齎す闇の化身とも言われており、大空を飛び回りながら地表に災厄をばら撒く、超攻撃的な生物とされる。



◆『分類及び種族名称:無頼怪鳥=ツィツィミトル』

◆『弱点:頭部及び尻尾』



『ジュルァッ!』

『ゴルヴァッ!』


 とは言え、この程度で斃れるエエカトルではなく、鰭の隙間から圧縮された空気を噴出して宙を舞い、ツィツィミトルへ襲い掛かる。まさしく大怪獣空中決戦。


「まったく、他所でやって欲しいね……」


 とりあえず、はっきりしている事がある。


「――――――こりゃあ、動けないなぁ」

『ギュァ~』『ギィ~』


 それは行商人たちが立ち往生せざるを得ない、という事である。

 未だに武器を振るえるとは言え、現職のプレデターにはずっと劣るし、何より相棒たるポチテカを置き去りには出来ない。牽引役も只ではないからだ。

 かと言って、森を攻略出来るかと聞かれれば、否と答えるしかないだろう。ここはまだ入り口に過ぎず、進めば進む程に森の強力なモンスターと戦わざるを得なくなる。それを避ける為の街道が使えないのだから、本当にどうしようもない。

 つまり、どう転んでも“詰み”なのである。


「仕方ない、ギルドにクエストを依頼しよう」


 こうなったら、外的要因に頼るしか無いだろう。幸い森は豊かなので、数日程度なら持ち堪えられる。


「頼むよ、ピヨちゃん!」『ピョートゥル!』


 という事で、行商人はもう一羽の相棒、ケツァールに文を括りつけて飛ばした。この幸せを告げる青い鳥ならば、無事にギルドまで救援クエストを届けてくれるに違いない。


「さて、後は天に運命を任せるか」

『キューキュー』『キャウキャウ』


 やれるだけの事は全てやった。後は天命を待つのみ。行商人の男はポチテカと木の実を食べながら、長い長い“待ち”の態勢に入るのだった。



◆『クエスト名:【天と地と人】』

◆『内容:「エエカトル」と「ツィツィミトル」の狩猟』

◆タモアンチャン


 マヤの言葉で「靄の大地」を意味する、伝説の土地。泉が湧き草木生い茂る肥沃な楽園と言われており、神々が住まう神域であるとも伝えられる。かつてケツァルコアトルが、大洪水で滅亡した第三人類の遺骨を持ち帰り、己と他の神々の生き血を注いで作り変え、第四人類を創造した新世界でもある。

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