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果てしなき復讐

どうしてこうなった?

《仕方の無い奴だ》


 魔女っ娘が無様を晒したのを見て取り、プリテンダーの女が銃を構え、即座に撃った。傍目には殆ど狙いを付けていないように見えるが、寸分違わずチャンティコの足元に着弾、眩い光と異臭を撒き散らし、黄ばんだ煙幕を張る。


《姉御、手伝いますか?》

《いや、良い。こっちも暇を持て余してるんでな。お前も引いとけ》

《了解っス~》


 チャラ男の方も慣れたもので、直ぐに撤退の準備に取り掛かり、魔女っ娘を飛んできたプリテンダーの女に任せ、自分もさっさと逃げ出した。

 その後は拠点で補給をし直し、ついでに魔女っ娘の治療も行う。と言っても、回復薬をぶっ掛けるだけなのだが。


「ハッ……!」


 そんなこんなで、魔女っ娘は目を覚ましたのだが、


《いや~、華麗なるハンティングでしたね~?」

《ホント、ホント。あの美しい黄金の空中回転は、目を見張るものがあったっスよぉ~?」


 プリテンダーの女とチャラ男の二人に滅茶苦茶煽られた。もちろん、最後のチャンティコラッシュの事だ。


「うがぁーっ!」


 魔女っ娘の顔が羞恥心で真っ赤に染まる。


「ざまぁないねぇ。そんな有様じゃ、私を殺そうなんて夢のまた夢だよ」

「うぬぬぬぬ……!」


 ぐうの音も出ないとはこの事である。プリテンダーの女はモンスターだけでなく人間も退治出来るのだから。


「そもそも、お前は何でそこまで拘るんだ? 私にそんな価値は無いだろ?」


 と、若干自分を卑下しながら、プリテンダーの女が訊ねる。嫌われるのは慣れているが、ここまで殺意剥き出しに付け狙われるのは初めてだ。


「……「ミキーニ」の事、アタシは一生忘れないからよ!」

「なるほど、あの村の……そうかい、そういう事かい……」


 憎々し気に呟いた魔女っ娘の言葉に、プリテンダーの女が納得した。どうやら、彼女たちは「ミキーニ」という村に関りがあるらしい。


「なら、ちゃんと殺しておくべきかな?」


 だが、それは彼女にとっては地雷だったようで、まるで呼吸をするかの如く魔女っ娘の眉間に銃口を押し付けた。


「………………!」


 蛇に睨まれた蛙の如く固まる魔女っ娘。プリテンダーの女が指に力を籠めるだけで、彼女は黄泉への旅路に足を踏み入れる事になる。


(だ、誰か助けて……父さん、母さん……皆……!)


 溶岩洞の奥では、悲鳴は聞こえない。


「姉御ぉ~、どうせ殺すなら、ちゃんと狩場で死んで貰いましょうよ~。ここじゃあ流石に事故は通じないですよ?」

「確かに……」


 しかし、相方であるチャラ男に諭されるとプリテンダーの女も冷静になれたようで、震える魔女っ娘から銃口を逸らす。間違いなく今、魔女っ娘の脳裏に走馬灯が見えた。


「ま、良いさ。殺されたくなかったら、さっさと狩場に戻れ、弱虫野郎」

「……クソがっ!」


 プリテンダーの女の言葉に、魔女っ娘は目に涙を浮かべながら狩場へと戻って行く。その後ろ姿は実に情けなかった。


「じゃあ、俺も戻りますかね》

「今度は抜かるなよ》

《合点承知の助》


 直ぐ後をチャラ男が追い掛ける。流石にクエストは失敗したくないので、ここからが正念場だ。


《……まさか、生きているとはな》


 そんな彼らの背を見送りつつ、プリテンダーの女が呟いた。


 ◆◆◆◆◆◆


『グルルルル……!』

《(かなり気が立っているわね)》《(そりゃそうだろうよ)》


 再び狩場へ舞い戻ると、チャンティコが絶賛警戒態勢を取っていた。あれだけ喧嘩を売ればさもありなんという話ではあるが、こうもレーダーを張られてしまうと動くに動けない。


《(仕方ないな。輝石は高いから、あんまり使いたくないんだけど……)》


 埒が明かないと見て、チャラ男が輝石を取り出す。目晦ましで不意打ちを仕掛けるつもりだろう。

 だが、何度も同じ手ばかりを繰り返していると、向こうも慣れて効果が薄れてくるので、チャンスはおそらく今回限りだ。だからこそ、確実に仕留めたい。


《(先ずは俺が仕掛ける。お前は隙を見てデカいのをぶち込め)》

《(アタシに命令するんじゃないわよ!)》

《(ひょっとして人語も理解出来ないの? まぁいいさ、勝手にやるから)》

《(テメ、この――――――)》

《そーい》


 そして、有って無いような作戦を立てつつ、抜群のコントロールでチャンティコを怯ませた後、チャラ男は攻撃を仕掛けた。足元にピッタリと張り付き、集中的に脚を狙って切り付け、殴り掛かる。


『グギャッ!?』


 すると、視力が回復する寸前くらいに、チャンティコがバランス崩した。脚へのラッシュが効いたのであろう。


《だりゃああああっ!》

『グガァアアアアッ!?』


 さらに、魔女っ娘の追撃が脳天に決まり、チャンティコはもんどり打って倒れた。今までのダメージが蓄積していたのも相まって、今度は中々起き上がれない。その間にも二人の追い打ちは止む事無く叩き込まれる。さっきまでの苦戦が嘘のように上手く事が運んでいた。


『――――――クヴォォオオオオオオオオン!』


 しかし、そうは問屋が卸さないらしく、突如チャンティコが跳ね起き、再び全身にマグマの赫を血走らせる。命の危機に瀕し、完全にブチ切れたようだ。ここからは死ぬまで火事場の馬鹿力状態である。


『キシャアアアォォォォッ!』

《げっ、双剣スタイルかよ!?》


 しかも、今度はグローブではなく刃渡り三メートルを超える大剣を形成、灼熱の双剣モードに入った。こうなると前回までの戦い方は参考にならないかもしれない。


『キェアアアアアアアッ!』

《《危なっ!?》》


 ラッシュに次ぐラッシュ。拳闘スタイルの時以上に大振りではあるが、何せ大人二人分くらいの出刃包丁をやたらめったらに振り回してくるので、危険な事この上ない。その上、刃が立つと衝撃で一部の体液が流出して“飛ぶ刃”として襲い掛かってくる為、実質避け続けるしかないのが厄介だ。


『グヴァゥッ!』

《ぐぅへぁっ!?》


 そして、飛び道具に視界を奪われていた魔女っ娘に、刃が地面にめり込む程の威力が込められた、チャンティコの上段大切断が直撃。咄嗟に剣身でガードしたものの、大ダメージを受けた上で魔女っ娘は吹っ飛ばされた。これは暫く立ち直れないだろう。勢い余り過ぎて刃が引き抜けないチャンティコも、それは同じだけれど。


《このっ!》


 と、後退していたチャラ男が投げ込み式の落とし穴を設置、チャンティコの足を取り、身動きを封じた。その隙に止めを刺す……つもりだったのだが、



 ――――――ボコォッ!



《は?》

『ギィッ!?』


 まさかの床が抜けた。溶岩地帯は地下に空隙が出来易く、その上で散々大暴れした事で、地面が脆くなっていたのである。


『クァアアアアォ!?』

《あ~れ~!?》


 むろん、そんなつもりなど毛程も無かったチャンティコとチャラ男は真っ逆様。奈落の底へ落ちて行った。


《ど、何処行くねーん!?》

《俺が知るかぁ!》


 じゃあ誰も知らねぇだろ。


《ヤバいヤバいヤバい!》


 常闇の中を落ちながら、チャラ男が焦りまくる。今の彼はプレデターとして狩り場に来ているので、スペクターの常備品であるブースターを背負っていないのだ。このままでは何時か底に叩き付けられ、見るも無残なトマトジュースになってしまう。


『キィィェアアアアィアアアァッ!』

《こんな時まで攻撃してくるなよ!?》


 しかも、チャンティコは武器を双剣から双鞭に切り替え、チャラを血祭りに上げよう追撃してくる。最初の数発は身を捩って躱したが、流石に全ては無理だった。致命的な軌道で赫熱した鞭が迫る。


《何やってんだよ、まったく!》

《姐御!》


 だが、ギリギリで駆け付けたプリテンダーの女に救出された事で、チャラ男は九死に一生を得られた。とは言え、これで終わりという訳ではない。


『キシャアアッ!』

《《しつこい!》》


 何故なら、四肢と尻尾の先端から炎を噴出して、チャンティコが追ってきたからである。なるほど、これなら不意に落下しても慌てない訳だ。

 さらに、怒りの頂点を突き抜けたせいか全身が燃え上がっており、その姿は爆炎の化身とでも言うべき威容であった。


『ギャヴォオオオオオオオァアアアアッ!』


 情け容赦の無い、恐ろしきチャンティコの牙が迫る。


《……今だ、やれッ!》


 しかし(・・・)それは(・・・)プリテンダーの女が(・・・・・・・・・)飛び込む前に(・・・・・・)張っていた(・・・・・)罠だった(・・・・)


《死ねよやぁあああああっ!》

『グギャヴォァアアアアッ!?』


 二人を追い掛けて割れ目の外に飛び出したチャンティコの瞳に映った物は、フルバーストで大剣を振るう姿。それはつまり、彼女が目にした最後の光景である。


『カッ……!』


 脳天から尻尾の先まで文字通り一刀両断されたチャンティコが、漸く息絶える。


《……クエスト達成っスかね?》

《私に助けられたから二乙分のマイナスな》

《うへぇぁ~》


 それは同時に、クエストの達成も意味していた。




◆『クエスト名:【火事場に住む女たち】』

◆『内容:「チャンティコ」一体の狩猟』


  ⇒完了!

◆ミキーニ


 ナワトル語で「生け贄の村」を意味する土地。とある姉妹の故郷。なんでその名前か明日まで考えといてください。

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