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電光石火大戦

 アストランより南東へ進み続けた先に聳える、灼熱の活火山「シトラル」。

 常に溶岩が噴き出し火山灰を麓へ注ぎ続ける地獄のような環境だが、意外にも生物は多い。特に燃える湖「炎湖畔」や、鉱物のような草木が繁茂する「炎樹海」には、幾多の屈強なモンスターたちが潜む。

 当然ながら、生息するモンスターは、熱に強く水や寒さを苦手とする、炎系の物が大半である。中には溶岩に浸かって息抜きする種族もおり、如何に彼らが強靭な肉体を持っているかが窺えるだろう。

 そんな常日頃から燃え上がっているようなモンスターの中でも、頭一つ抜けて強い猛者がいる。それが、これから狩りに向かう「チャンティコ」だ。爆発性の高い分泌物で自らを武装し爆炎と暴力で全てを粉砕する凶悪な一面と、その粗暴さに反する美しい見た目から、“火山の女神”とも別称されている。

 そんな強敵に挑むのは、最近メキメキと頭角を現しつつあるチャラ男と、


「……何で居るのよ」

「「こっちの台詞だよ」」


 さっきギルドでやらかしたばかりの魔女っ娘だった。ギルドが用意した相方が彼女だったのである。

 おそらく、処罰の意味合いも大きいだろう。喧嘩したならきちんと仲直りしろ、という事かもしれない。だからと言って、戦場で友情を育めと言うのは如何な物か……。


「今回の監視役がアンタって事は……ここで会ったが百年目ぇっ! チャンティコの前に殺してやる!」


 まぁ、こいつに仲直りする気があるかと言えば、全く無いのだけれど。


「止めとけって」「頭数も数えられんのか」

「うぐっ……!」


 しかし、それは二人にとっても同じ事。単純な人数差と、こういう時の為(・・・・・・・)に鍛えた体術を活かし、あっという間に取り押さえてしまった。


「姉御の言う通りでしたね。絶対こういう馬鹿がいるから、対人戦闘術は鍛えておけって」

「だろ?」


 スペクターは何故サポーターと呼ばれないのか。それは彼らが観測者であり、監視者だからだ。

 そう、スペクターは狩場の全てを見守っている。モンスターとプレデターの両方を。善き捕食者がピンチに陥れば手助けするが、悪しき捕食者――――――密猟者や殺人犯などは決して見逃さず、必ず抹殺する。公平性を保つ為に。それがスペクターのお仕事。

 プレデターは大柄なモンスターを相手に戦ってばかりなので、どうしても動きが大振りになりがちであり、手練れのスペクターであれば、それこそ赤子の手を捻るように無力化出来る。

 特に元犯罪者であるプリテンダーは直接的に暗殺指令を請け負う事も多く、下級に毛が生えた程度のプレデターでしかない魔女っ娘では、全く以て相手にならない。彼女の生殺与奪は、完全にプリテンダーの女たちの手中に落ちたと言える。


「つーかさぁ、人の目が俺らしか居ないって時点で、ヤバいと思わなきゃ駄目じゃね?」

「だよなぁ。危機管理能力は、戦う者の基本だぞ。……とは言え、殺しちまったら報奨金が無くなるし、解放してやろう。これに懲りたら、大人しく狩りへ向かうんだな」

「くっ……!」


 だが、今回のクエスト条件の関係上、殺す訳にもいかないので、プリテンダーの女とチャラ男は魔女っ娘を雑に解放して、さっさと歩き始めてしまった。まさに“捨て置き”だ。


「とりあえず、付いてってやれ。ただし、最初はあいつを囮にして「観」に徹しろ。……たぶん、面白い事になるから》

「了解っす。それじゃあ、背中は預けましたよ》

《おうよ、任せとけ》


 チャラ男もやれやれという感じで後を追う。もちろん、助ける為ではなく、体よく利用する為だ。最終的に相方が動いてさえいれば良いのだから。

 そんなこんなで、火山帯を突き進む捕食者たち。


《居た》


 そして、歩くだけで汗を掻き、息をするのも辛い灼熱の大地を先へ先へと行った先――――――マグマが湧き出る炎湖畔に、チャンティコは居た。擬人化したコヨーテのような姿をしており、煌めく黄金の毛並みに包まれている。評判通りの美しい面持ちだ。


《居た、けども……》

《う~ん、滅茶苦茶寝てる……》

『ZZZzzz……』


 しかし、あろう事かチャンティコはすやすやと眠っていた。身体を丸め、腕を枕に寝息を掻く、完全なる熟睡である。「野生とは?」と聞きたくなる程に熟睡している。強者の余裕なのだろうが、それで良いのか。


《さて、どうするかね……》


 それにしても、本当によく寝ている。別に偲びない訳ではないが、どうやって起こしたものだろう。起床と同時に激怒してしまうので、ここは慎重に行きたい。


《どりゃあああああっ!》

《えぇ……》


 だが、断られた。遠慮容赦なく突貫する魔女っ娘の勇姿に、チャラ男は思わず絶句する。


《逃げるんだよぉ~♪》


 しかし、やってしまったものは仕方ない。チャラ男は即座に踵を返し、エリア外へ脱兎の如く逃げ出した。自分からやったならまだしも、自殺行為に巻き込まれるのは御免だ。


《ちょっと、アンタ! 何を勝手に下がって――――――》

『クォオオオオオオオンッ!』

《くっ……!》


 魔女っ娘は文句を言おうとしたが、状況がそれを許してくれなかった。寝起きドッキリをかまされたチャンティコが、猛然と襲い掛かって来たからだ。



◆『分類及び種族名称:爆砕超獣=チャンティコ』

◆『弱点:鼻』



《まぁいいわ! 所詮は雌犬に尻尾を振る駄犬ね! 遠目に見てなさい! アタシの華麗なる戦いを!》


 だが、魔女っ娘は焦らない。まだ下級とは言え、装備は上級。油断せずに戦えば、必ず勝てる筈。


『クァォッ!』


 先ずはチャンティコの攻撃。熱を帯びた鋭い牙で噛み付いてくる。


《ぬぅんっ!》


 対する魔女っ娘は大剣を盾代わりに受け止め、逆に力尽くで弾き飛ばした。


《うぉおおおおおっ!》


 さらに、推進機構で刃諸共、風車の如く反撃に出る。一撃で岩盤を穿つ威力の斬撃が何度も繰り出される様は、かなりの威圧感がある。喰らえば大型モンスターと言えど、相当な深手となるであろう。


『フシャッ!』


 しかし、チャンティコは見た目通りに俊敏なモンスターであり、舞うような動きで魔女っ娘の攻撃を躱していく。


『クォオァッ!』


 そして、魔女っ娘が剣を振り終わった瞬間を狙って、今度は前足を振るった。鋭利な鉤爪を思い切り叩き付ける、文字通りの“お手”である。


《舐めるなぁ!》


 だが、魔女っ娘は推進装置を上手く使い、跳弾が如き立体起動によってお手付きを回避し、チャンティコの頭に刃を叩き付ける。


『キャィン!』


 顔を押さえて悶えるチャンティコ。運悪く弱点である鼻面に直撃してしまった為、大きな隙を晒す形となった。


《オラオラオラァッ!》


 むろん、魔女っ娘は見逃さず、一気にラッシュを叩き込む。切っ先をわざと地面に突き立て、弓を引き搾るように力を溜め、一撃の威力を高めてダメージを稼ぐ。


『――――――ゥヴォオオオオオオオオオオオオオン!』

《くぅっ!?》


 しかし、何時までもやられっぱなしのチャンティコではなく、溶岩洞を震わせる程の遠吠えを上げ、全身にマグマのような赫い光を疾走(はし)らせる。完全な激昂状態だ。


『クァヴォッ!』


 さらに、前足の甲から粘着質の体液を分泌して、それを外気との温度差により瞬時に固形化、即席のグローブを嵌め、両拳を打ち付けて着火する。正真正銘の“炎の拳”が完成した。


『クァアアアアアッ!』

《うっ、ごっ、げぇ!?》


 そして、強烈な大音声で思わず耳を塞いでいた魔女っ娘を、無慈悲にぶん殴る。一発一発が凄まじい威力を持つ上に、溶け出した粘液が纏わり付いて、衝撃と共に爆発、更なるダメージを与える。


《がはっ……!》


 評判通りのチャンティコの拳に沈められ、魔女っ娘は目の前が真っ暗になった。

◆チャンティコ


 ナワトル語で「家に住む女」を意味する、火山を司る女神。竈などの火を使う調理器具の神でもある。有毒のサボテンが蛇のように繋がる冠を頂く、犬の姿をしているとされる。その昔、断食の修行中にパプリカを食った罰として、食物を司る創造神「トナカテクトリ」の力によって変身させられたらしい。おい、やってる事がギリシャ神話と大差無いぞ。

 正体は火山地帯に棲むコヨーテ……ではなく、サラマンダー(サンショウウオ)の一種。マグマの熱に耐える処か吸収して力に変えており、己と体液と混ぜ合わせる事で武器としている。何となくコヨーテに見えるのは、骨格が似通っている事に加え、分泌液が固まった針状の結晶が体毛に見えるから。

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