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原郷から来た姉妹

何で五連勤が二回も続いて休日が半日なんだよ。

 とある早朝。


「……ここが「アストラン」か」


 一人のプレデターが、アストランの門戸を潜ろうとしていた。

 鴉の濡れ羽を思わせる黒髪に真紅の瞳、魔法使いのような服装が特徴的な少女(というより幼女)だ。左目に眼帯を付け、左腕と左脚が義手・義足に置換されている事を鑑みるに、過去に左半身に大怪我をしたのかもしれない。

 しかし、その小さな背に負うは身の丈を優に超える大剣であり、恰好をも相俟って、かなりちぐはぐな印象を受ける。大剣に近未来的かつ機械的な要素がてんこ盛りに搭載されているのも、アンバランスさに拍車を掛けている。

 そんな不思議が過ぎる魔女っ娘が、北方の辺境国アストランへ訪れようとしている。その目的とは……?


「ここにプリテンダーの女は居るかぁあああああっ!」

「「ゑ?」」


 普通に面倒事だった。大衆食堂プルケへ入店するなり、大声でがなり立てる魔女っ子。


「あ、そう、アンタだよアンタ!」


 そして、チャラ男と合席していたプリテンダーの女を見付けると、これ見よがしに指差してズンズンと近付いて来た。


「何の用?」

「死ねっ!」

「えぇ……」


 さらに、ご自慢の大剣を展開し、推進機構による超加速を以て、神撃の一閃を繰り出す……ようするに、問答無用で斬り掛ったのである。キレる若者かよ。


「おっと待った!」


 だが、素早く反応したチャラ男が剣と盾で軌道を逸らし、受け流してみせた。


(今の感触からして、“装備だけは上位”って感じだな。たぶん、誰かから譲られたんだろうけど……。でも、もう少しで壁を越えそうな感じもするな。油断して良い相手じゃない)


 ついでに、今の一合で魔女っ子のポテンシャルを瞬時に把握、迎撃態勢を取る。実力を肌で感じ取れる辺り、プリテンダーの女との修行の成果が表れて来ていると言えるだろう。


『はい、そこまで。プレデター同士の私闘は禁止だワン』


 と、居合わせたテチワのお局様が止めに入った。ちっちゃいのに存在感が凄い。


「チッ……!」


 すると、魔女っ娘が舌打ちをしつつも剣を収める。流石にスペクターのお偉いさんを敵に回したくはないようだ。


「アタシは絶対にアンタを許さないからね……覚えてなさい!」


 しかし、このまま引き下がるのは癪に障るようで、テンプレートな捨て台詞を残して去っていった。


「えっと、お知合いですか?」

「………………」


 チャラ男の質問に、プリテンダーの女は答えない。


「おお、犬が止めたぞ」「流石は忠犬。雌犬に尻尾振ってやがらぁ」「しっかりと分からされているようで何より」「つーか、あの魔女っ娘は誰?」「一応、プレデターっぽいけど」「スッゲェペロペロしたい」「スペクターさーん、こいつでーす」


 対する外野の方は、好き放題に言っている。まさに混沌(カオス)


「それより、今日はどのクエストを受ける?」


「どうしましょうねぇ?」


 気にした所でどうしようもないので、プリテンダーの女とチャラ男は切り替えて、今日のクエストを受注する事にした。


「これなんてどうです?」


 と、チャラ男が良い感じのクエストを一つ見繕う。



◆『クエスト名:【火事場に住む女たち】』

◆『内容:「チャンティコ」一体の狩猟』



「「チャンティコ」か……」


 「チャンティコ」とは、火山の洞窟に住むという“炎の女神”である。かつては人の姿をしていたが、神罰により犬型の魔物に姿を変えられてしまったとされている。もちろん武器は炎だ。


「――――――あっ、でもこれ、二人以上じゃないと駄目みたいですね」

「ああ、お前まだ下級プレデターだもんな……」


 だが、残念ながらソロクエストではなかった。プリテンダーの女はあくまで補助役なので、誰かしら相手を見繕わないと受注条件を満たせない。これは困った。


「……でも相手が見付けられない場合は、ギルドの紹介でもOKみたいですよ」


 ただ救済措置はあるらしく、ランダムではあるが、相方をギルドが用意してくれるようだ。


「なら、これにするか。ちゃんと炎対策はしとけよ」

「了解っス」


 そういう事になった。

◆アストラン


 ナワトル語で「純白の大地」もしくは「鷺の群生地」を意味する、「メシカ(ナワ族の集団)」の原郷。葦の生い茂る湖が広がる肥沃な土地で、様々な水棲動物や、それを餌にする鷺が無数に棲息する、楽園的な場所とされている。かつてメシカの祖先たちは、この大地に点在する七つの洞窟を住処として暮らしていたが、軍神「ウィツィロポチトリ」の預言によりメキシコ各地へと旅立って行ったという。可愛い子には旅をさせろとは言うが、母娘のいざこざに殺傷力抜群の神器「シウコアトル」を持ち出すようなコイツの預言を信じて、本当に良かったのか?

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