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許されざる存在

モデルは「モ○ハンのネ○タク」デス。

 星が煌めき、三日月が舟を漕ぐ夜空の下。


「「「………………」」」


 苔生した大木や巨大なシダ植物が生い茂る薄気味悪い森の中を、三人の若い男女が慎重な足取りで歩いていた。誰も彼もが厳つい鎧で身を固め、悪魔か鬼を思わせる仮面を被り、デカくてゴツい武器を背負っている。


『ギャォオス!』『ギャァギャァッ!』『キャォオ!』『キェエエッ!』『キシャォッ!』


 と、茂みの陰から、数匹のモンスターが現れた。

 イグアナを直立四足歩行にして、哺乳類のような毛皮を生やした姿をしており、口から一対の鋭く長い牙が伸びている。前足の爪が鉤状なのも鑑みるに、獲物を出血死させる事に特化した生物なのだろう。逆に歯の噛み合わせ自体は悪く、下顎の筋肉もそこまで発達していないので、咬力は弱いのかもしれない。兎に似た大きな耳を持っているが、他の特徴から考えても、彼らが捕食者である事は間違いなかろう。



◆『分類及び種族名称:惨爪超獣=センツォン』

◆『弱点:前歯と爪』



《……来たぞ! 戦闘態勢!》「「了解!」」


 そんな兎型のモンスターたちに対して、三人組が戦闘態勢に入る。鎧の各連結部に光る流体が迸り、武器が変形・展開して、それぞれ巨大な双剣、盾と槍、弓矢となった。

 これらの鎧や武器は(・・・・・・・・・)彼らが狩った獲物(・・・・・・・・)を素材に(・・・・)作られており(・・・・・・)内外に特殊な化合(・・・・・・・・)を施した体液を(・・・・・・・)循環させる事で(・・・・・・・)不思議な力を発揮する(・・・・・・・・・・)


《はぁあああっ!》『ギィッ!?』


 先ずは双剣持ちの女が果敢に切り込み、一体を仕留める。弾丸のように踏み込んで、横一文字に切り開く、強力な一閃だ。これには毛下鱗も意味を成さない。


《フンッ!》『ギェァッ!』


 さらに、返す刃でもう一体の胴を薙いだ。腹部を切り開かれたモンスターは、腸をぶち撒けながら息絶える。


『キァアアアッ!』《おっと!》


 そんな女剣士に別個体が横合いから襲い掛かったのだが、盾持ちの男がそれをガードし、逆に槍で刺し殺す。


《ていっ! せいっ!》『ギャォッ!?』『グギャッ!』


 そして、弓使いの男が残る二体を射抜き、モンスターたちを殲滅した。

 しかし、彼らの本命は、こんな小物たちではない。


《――――――よし、これだけ頭数を減らせば、“奴”もそろそろ出て来るだろう》

《ああ、そうだな。油断せずに行こう》

《二人共、もうすぐ“墓場”ですよ》


 三人は斃した獲物を手早く解体し袋に詰めると、空に向けて信号弾を打ち上げてから、移動を始めた。彼らの狙いは、さっきのモンスターたちの親玉である。


《着いたぞ》

《相変わらず気持ち悪い場所だぜ》

《同感です》


 それから、歩く事十数分。根元が無数の骨で埋め尽くされた、樹木化する程に巨大な「リュウゼツラン」が聳えているという、如何にも曰くが付きそうな場所に辿り着いた。

 だが、ここを根城にしているのは、幽鬼でも精霊でもなく、傷付ければ血を流す生物。生きているのであれば、殺せる筈だ。

 さぁ、狩りを始めよう。


「はっ!」


 女剣士が墓所のど真ん中に、「輝石」と呼ばれる“衝撃が加わると閃光を放つ天然の閃光弾”を放り投げる。


『グヴォォォォッ!』


 すると、唸り声と共に大地が揺れ、骨がカタカタと嗤い、やがて恐ろしい怪物が姿を現した。シルエットこそ先程のモンスターたちと然程変わらないものの、頭や尻尾の付け根にカラフルな羽飾りがあり、体長は七メートルという巨体である。

 この化け物こそ、三人組の狙っている獲物だ。



◆『分類及び種族名称:兇爪超獣=パテカトル』

◆『弱点:頭部』



『グルァアアアアアォッ!』


 と、子分を殺られた怒りか、もしくは眠りを妨げられた腹癒せか、大兎のモンスターが猛然と飛び掛かってきた。強靭な後ろ脚による跳躍と、併せて繰り出される両前足の引っ掻きである。大雑把で野性味溢れる攻撃だが、放ち手がこれだけ大きいと射程範囲も広く、中々に厄介だ。


《散開!》《おう!》《了解!》


 しかし、三人は慌てず騒がず、注意を分散させる為、三方向に分かれた。


『グヴォォオッ!』

《俺が狙いかよ!》


 モンスターが選んだのは、一番重くて避け難そうな盾持ちの槍使い。事実、デカい槍と盾を持っているので、どうしても動きが鈍くなり易い。


《こっちです!》『グヴゥッ!?』


 だが、致命的な一撃が振るわれる前に、弓使いの輝石矢が炸裂し、モンスターの目を再度眩ませる。


《オラァッ!》《せいっ!》


 さらに、槍使いのシールドバッシュと女剣士の連撃が叩き込まれた。


『グヴォオオオオオオンッ!』

《チッ、もう怒り出したか!》


 すると、モンスターが月夜に向けて吠え滾り、眼を真っ赤に煌めかせ、隠されていた(・・・・・・)もう一組の鉤爪(・・・・・・・)を展開する(・・・・・)。怒りが頂点に達したのであろう。


《当然だろう! だが、生き物は殺せば死ぬ! それだけの事だ!》

《はいはい、相変わらずなこって》

《リーダーは何時も過激ですね》


 しかし、三人は取り乱さない。何故なら彼らは「プレデター」。狩り食らう者。


《行くぞっ!》《おう!》《殺りますよ!》

『グルヴォァアアアアアアァァァァアッ!』


 そして、怪物と人間の織り成す、血みどろの生存競争が始まった。


 ◆◆◆◆◆◆


《流石だな。私の出る幕は無さそうだ》


 そんな捕食者同士の戦いを、遥か高みから見物する、一人の影。

 死神のような黒衣を纏い、全身を禍々しい鎧で固め、背中にはリュックのような推進装置を装着している。傍目には分かりにくいが、声色からして、どうやら女性のようだ。

 武器は対戦車砲並みに大きなスナイパーライフルであるが、他にも腰に真っ黒な筒が一本、推進装置に肋骨を思わせる盾が取り付けられている。おそらくはプレデターたちと同じ、展開して効果を発揮するのだろう。

 彼女は一体何者で、何の為に高台に登っているのか?

 実は、プレデターたちをこっそりと狙撃する――――――のではなく、その逆。彼らのサポートである。


《――――――ん? 撤退信号? 乱入されたか……》


 スコープ越しに女剣士が撤退の信号弾を上げているのが見える。次いで、視界の端に別のモンスターが乱入してくるのが見えた。


《流石に今の装備じゃ二体相手にするのはきついか》


 それを確認したスナイパーの女が即座に狙いを定め、三人とモンスターたちの狭間へ弾丸を放つ。亜光速で飛んで行った弾は着弾と同時に眩い光を放ち、ついでに物凄い悪臭を撒き散らす。その堪らんコンボにモンスターたちが怯んでいる内に、三人は自前の巨大羽虫に掴まって、さっさと拠点へ引き返した。消費したアイテムを補充し、改めて獲物を討伐する為である。


《こりゃあ、「テチワ」も動かした方が良いかもね》


 それを見届けたスナイパーの女は、光蟲で別の誰かに指示を飛ばしつつ、自らも推進装置で空へ飛び立つ。


《やれやれ、今日は楽に終わるかと思ったのに、ツイて無いね。これだから「スペクター」は不人気なんだよ》


 さらに、目ぼしい高台を見付けると着陸し、せっせと獣散剤(モンスターの糞に色々混ぜ込んで作った悪臭を放つ薬剤)をばら撒き、さっきと同じく狙撃態勢に入る。

 そう、彼女は只者でもプレデターでもない。「スペクター」の一員だ。


《ま、「プリテンダー」の私には関係ないか》


 その中でも訳アリな問題児で、俗に「プリテンダー」と呼ばれる側の人間である。

 彼女たちスペクターやプリテンダーの役割は、プレデターたちが後顧の憂いが無いようにバックアップする事。直接的な戦闘を行わない代わりに戦地以上に気を遣う、かなり割に合わない仕事で、故に人気は何時も底辺であり、引退してやる事の無いプレデターや、過去に何かをやらかした前科者しか就かない。


《さぁて、今度こそ終わらせて貰いましょうか、プレデターの皆さん》


 そして、プリテンダーの彼女は、今日も汚物と悪臭に囲まれ、誰にも感謝される事もなく、戦の花形をサポートする。

 これは普段は気にも止められない、日陰者の物語……。

◆センツォン


 正式名称は「センツォン・トトチティン(ナワトル語で「四百羽の兎」という意味)」。酒の神「パテカトル」とリュウゼツランの化身「マヤウェル」の間に生まれたとされる神々で、文字通り群れを成す兎として描かれている。母なる大樹を守る存在であり、数の暴力で外敵を排除する。

 正体は兎でもイグアナでもなく、特殊化した蝙蝠。鉤爪は羽だった部分であり、実際は折り畳んだ指である。元々は飛行能力によりリュウゼツランの受粉を助ける媒介者だったが、時代と共にニッチを独占した結果、数の暴力と素早さに特化した進化を遂げた。

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