【流浪のリザードマン】生きる事の意味を失い当てものない旅を続けていたら。暗殺者に追われる女の子を見つけ、私はこの何も救えなかった手でもう一度武器を握ろうと思います
リザードマンと女の子が並ぶのたまらなくないですか?
ちなみに身長差は40cmもあります。
土砂降りの雨は私が歩いてきた足跡をかき消して、歩くたびに跳ねる泥は私の鱗を黒く染めていく。
森の中を通る道を進んでいるはずなのに私以外の気配がなく、一人世界に取り残されてしまったかのようだった。
深く沈み込む足を引き抜きながら一歩、また一歩と歩みを進める。
自分の意志に反して、行く当ても決めず歩きたくもない道を進む私ははたして生きているといえるのだろうか?
あの戦場で私は死んだ、いや死んでしまっていた方が良かった。
こんな私は一体なんの為に生まれてきたのだろうか……。
いつまで私はこの旅を――生き続ければいいのだろうか……。
泥の地面が空を覆っているかの様な厚く暗い雲ではっきりとは分からないが。
多分正午だと思った私は道の端のちょうどよく朽ちて倒れた丸太に座った。
そして肩に背負った手提げ袋から干し肉を取り出し機械的に口へ運んだ。
とても食事をしている様な音ではない咀嚼音を立てながら、岩のように固い干し肉を鋭い歯で噛み砕き飲み込む。
雨はますます激しさを増していき、鱗を伝って雫が口に入り喉を潤す。
数個食べ、残りを手提げに戻し肩に背負い立ち上がる。
数分に満たなかったがこれ以上この場にとどまる意味も無いためまた歩きはじめる。
――そうしようとした時。
耳がこの道を進み始め久しぶりの雨音以外の音を聞き取った。
泥の中を進むぐちゃぐちゃという音、草木が弾かれ揺れる音、そして金属のすれる音。
瞬間、私は丸太に身を隠せば、目の前の道を銀髪の女性が走り去って行き。
その後を十数名の顔を隠した人物たちが追いかけて行った。
(なぜ私は隠れ……)
いまだ微かに足音が聞こえる中また丸太に座り直した。
どうなったっていいと思いながらも咄嗟に隠れてしまった事に、舌打ちをする。
『どうして武器を持つのかって? それはなドレーク。自らの大切なものを守り、その傍ら困っている人々を救うためだ。
もし目の前に困っている人がいたら、お前の出来る範囲で助けてやれ…………』
「父……ッ!」
ふと思い出した身を任してしまいたくなるほど懐かしい父との記憶、毎日家で訓練をする父に付き合っていた私がふと聞いた事。
拳を強く握り座っていた丸太を叩き割って立ち上がる。
「こんな、こんな事さえも忘れていたのかッ!」
生きる意味生きる理由すべて失ってしまった私だが、尊敬する父との、家族との約束。
私は無我夢中になって走りだし追われている女性の後を追った。
今情けなく生き残った私に出来る事。
消える事のない過去への贖罪。
何よりも困っている人を見捨てることなど、たとえ私が死んだとしてもごめんだった。
泥を跳ね飛ばし、SOSのように残り続いている足跡を追って行けば。
少し開けた森の中で倒れ込み、今まさに剣で切られそうになっている女性を発見した。
「待て!」
高く飛びあがって顔を隠した集団を飛び越え女性の前に立ちはだかり、攻撃に割り込み手元をおさえた。
「何故この女性を襲う」
そう問いかけた瞬間。別の仲間が問答無用で攻撃してきたため、抑えている人物を投げ飛ばし両者はぶつかり転倒した。
しかし、顔を隠した集団は倒れた仲間の心配などせず複数で同時に襲い掛かてくる。
何とか攻撃を防ぎ何度も打撃を加えたり、投げ飛ばしたりして反撃するが、怯んだ様子が無くすぐさま立ち上がる。
多勢に無勢、さらに武器も持っていない私では数を減らすこともできず、すべてを捌ききれずに鱗に傷が増えていく。
「……尾無しのくせにしぶとい」
尾無し。尻尾を無くしたリザードマンの別称
あらゆる理由があろうと尾を無くすという事は自らの弱さの証明にしかならず、尾無しのすべからくは部族を追放される。
「ブラスト!!」
その声が響くと同時に集団は素早く離脱し、目の前の泥が暴風ではじけ飛んだ。
「あんた大丈夫!?」
「ああ、この程度問題ない」
銀髪をショートボブにした小柄な女性が立ち上がり泥を払う。
「どうして助けてくれるの? あなたにメリットなんてないと思うけど」
「君が気にする事じゃない。信念に従ったまでだ」
油断なくボール――【魔法機】を手に浮かべる姿で、彼女が魔法使いなのだと気づく。
「ふーん……。何にしてもラッキーって事ね」
素手のリザードマンに女性の二人に、顔を隠した集団は慎重に間合いを図っている姿から、この女性はよほどの使い手なのだと確信する。
「……奴らは君を警戒しているようだが、どれほどやれるのだ?」
「いやぁ、それが……魔力があまり。ここ最近逃げてばっかで休めなかったから」
――迂闊だった。
話が聞こえてしまったのか集団はすぐに攻撃を開始した。
私は身を挺して彼女への攻撃を防ぎ。
彼女の攻撃で数名の敵を気絶させ倒すことができたがすぐに息が上がってしまった。
「ぜぇー、ぜぇー、ね、ねぇあんた」
「なんだ」
敵の攻撃の合間、彼女は私のピッタリくっ付いて小声で話しかけてきた。
「見たところなんか武器を扱った事があるんじゃない?」
「……ある」
「もうここまで来たらあんたを信用するわ。あいつらを倒しきるのに魔力が足りないから、残りの魔力であんたの武器を生成してあげる。どう? 自信ある?」
武器。
私にもう一度握る資格が……
(情けない……。道はもう歩み始めた。なら信念に従うのみ)
「君が私を信頼してくれるのなら私はそれに答えよう」
「得物は?」
「身の丈ほどのサーベルと丸盾」
素早い詠唱の後、私の両腕が魔法陣に包まれまばゆい光と共にいつの間にか武器と盾を握っていた。
「私の罪、弱さ。今だけは全て忘れる。もう一度振るうことを許してくれ……」
さすがに思ったとおりの物では無かったが、それでも手にかかる重さやその見た目。
自らの失った体を取り戻したかのようだった。
武具を装備した私に警戒を最大まで高めた集団に、盾を前に構え、サーベルを肩に担ぐ。
待ちの姿勢に入った私に集団は、目的達成のため攻撃を仕掛けるしかなく一斉に襲い掛かってきた。
――瞬間。
前面の敵を盾で弾き飛ばし、その勢いのまま回転しながらサーベルを振るい、女性に襲い掛かろうとした敵をまとめて切り捨てた。
「え、つよ!?」
しゃがみこんで身を守っていた女性から驚愕の声がし、生き残った敵は三名と魔法で倒れている者たちを残すのみとなった。
「去れ、お前らにもう勝ち目はない」
「――おいおいおいおい、情けないなお前ら。トカゲ一匹と女一人やれないなんて」
頭上より声が聞こえ見上げた時、閃光が瞬き私は女性を連れ急いで後ろへ飛び退いた。
「ち、うざったいなぁ。僕の手を煩わせないでくれる? ゴミなんだからさぁ」
「誰だ貴様」
「なあ……なあなあなあッ! 誰に声かけてるか分かってる!? 僕はアーリントン・ボブルスだぞ!? 聖七将でアーリントン家のこの僕に貴様だとッ!?」
空中にも関わらず地団太を踏む様子がわかる。
一目でわかる高級な服装を纏い、この雨の中でも光が反射するのがわかる銀髪。そして丸々と太った体躯。
「ま、まずい!? いくら兄とはいえ今の状況じゃ!?」
「兄だと?」
「……認めたくないけどね。ろくに訓練もせず神繍の力だけに頼り切った嫌な奴」
神繡か。
生まれた時に神から授けられた能力。リザードマン風に言えば神の子。人間なら確か、神選ばれたに者と言われていたか。
とにかく神繡を持つものは強大な力を持っている事がほとんどだが、その制御には長き訓練が必要になる。
「動く危険物って事か」
「自分には影響ないからね、ってそんなこと言ってる場合じゃないの! 今すぐ逃げないと」
「とりあえずそこのトカゲは後で殺すとして! アミル。どうだ、いまこの僕に謝り奴隷となるなら父にとりなしてやって――」
「――死んでも嫌よこの豚野郎!」
言い切る前に人間が糞野郎に使うジェスチャー、を相手に着きつけながら断るアミルと呼ばれた女性は。
俺の手を取ってすぐに逃げ始めた。
「絶対、あそこには戻らない! 人殺しの道具なんてあたしは作らない!!」
泥に足をとられながら全速力に逃げ続けるが、空を飛んでいる奴にはすぐい追いつかれてしまう。
「この売女の娘が!! この僕を豚だと!! 死ぬしかない貴様をペットとして飼ってやろうというこの僕の! 寛大な心を踏みにじるというなら貴様何てもう要らない!!」
俺ですら感じ取れる強大な魔力が奴に集まっていく。
足を止めて見てみれば。目に見えて形成された魔力は茶色をし奴の体よりも大きな球体を形成している。
「ああ、もう……終わりだわ……。あいつの神繡はここら一帯なんて簡単に破壊する。もう逃げ場なんてないわ……」
泥の中へへたり込んでしまったアルミ、その瞳から涙が流れ絶望した表情を浮かべた。
『……もう私たち死ぬしか…………』
背中が熱い。思い出す。あの時を。
「いや、あたしこんなとこで……死にたく――」
「――絶対にお前は死なせない」
地面が激しく揺れる中で、俺は剣を正眼に構える。
「無理よあんたはあいつ――え? あんた……背中……」
剣からはチリチリと火の粉が舞う。
背中の鱗の隅からは炎が時折噴出する。
「この世すべての悪鬼羅刹を焼き尽くし、世の平穏を守り抜く炎神。その力が」
盾に擦りつけ飛び散った火花で剣が燃え上がる。
「我が義父ファフニルの名に懸けて、お前を守り抜くと誓おう」
「あいつら! 僕を無視してゴチャゴチャ喋ってやがる! どこまでも癪に障るやつらだ!」
大地から集めた魔力は空中にできた小さな太陽の様に煌めいていた。
少し集めすぎたかな? と思わなくないが僕を侮辱したあいつが悪いからしょうがないな。
「僕を馬鹿にするやつはこの世からいなくなっちゃえ!!!」
左腕の神繡が煌めき空中に幾十もの魔法陣が形成され、魔力がひと際激しく発光したら。
空に島が浮いているのではないかと思うほどの巨大な土塊が生成された。
そしてそのまま地上に向かって落下し始め、逃げられるはずもない超広範囲にわたり大地を押しつぶした。
森が広がっていた眼下は、今や見渡す限り茶色に塗りつぶされ。
昔から賢くて気に食わなかった腹違いの妹を自分のおもちゃにできると思っていたのに、殺してしまった事を今更公開し始めた。
けど疲れたし、父からの命令も遂行したしさっさと屋敷に帰ってペットと遊ぼう。
そう思った瞬間だった。
天空さえも貫く巨大な火柱が立ち昇った。
「は? はあぁぁぁ!?」
いや、それは火柱では無かった。少しずつ手足が形成され、翼が開いた。
あんなに厚かった雨雲は吹き飛んでおり、いつの間にか青空から巨大な顔が僕を見下ろしていた。
「な、なんだよこれ!? 僕の神繡よりも強い何ておかしいだろ!?」
この世のすべてを焼き尽くしてしまう炎のドラゴン、そう感じさせてしまう威容に僕は完全に腰が抜けてしまった。
そして動けない僕に向かってドラゴンがその翼を羽ばたかせ、口を開き一直線で突っ込んできた。
「ひいいぃぃぃ!!! 死にたくないぃぃ!!!」
食われる。瞬間飛来する剣。
ドラゴンの軌道がその剣でずれたがそれでも僕の右腕を焼き尽くした。
「熱い熱い熱い!! ぼ、僕の腕がぁぁ!!!」
「ほほほ、大丈夫ですか坊ちゃん」
片腕を失った痛みと焼けた傷口の痛みで転げまわる僕の傍に、父に仕える執事が現れた。
ドラゴンはそのまま通り過ぎて行き彼方へと飛んで行った。
「お、おまえ! ぼ、僕をちゃんと助けろ!! 僕はアーリントン家の跡取りなんだぞ!!」
「落ち着いてください坊ちゃま。――命があっただけよかったでは無いですか」
笑っているのに笑っていない。いつも思っているが全てが不気味な男だ。
どうして父はこいつを雇っているのか理解できない。
「しかし、炎神の神繡ですか……。あの時殺したと思ったのですが……。」
なんだよそれ、僕が片腕を失ったのはこいつの不始末のせいかよ!? 帰ったら父に言いつけてやめさせてやる。
「そんなことはいい!! は、早く僕を屋敷に連れていけ!!」
「…………敵を逃がしておいて。まあいいでしょう、ではお送りいたします」
そう言うと次の瞬間僕たちはその場からは居なくなっていた。
お読みいただき誠にありがとうございました。
もし続きが読みたいと思いいただけましたら。
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