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マジで普通の異世界転生 〜転生モノの王道を外れたら即死w〜  作者: へぐ(hoeg)
第六章 スリー・オン・スリー
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泥棒猫と百面相


「おい常世、ワクワクだったら蝶に変身すると良いぜ。こういう場合、蝶は羽音を立てないし、蛾と違って見つかっても叩き潰される恐れが少ない」


 カオス()たちの上空を飛んでいた鳩は、冒険のニケが真横で小さな薔薇色の蝶に変わるのを見た。ニケとはマブダチと公言しているスズメも嬉しそうに助言を受け入れ、黒い蝶に変わって子猫とキツネを追いかける。


 この惑星を支配している歌には別のやり方があったので、女神ファレシラは蝶にはならず屋敷に忍び込んだ。


 ミケたちが屋敷に入るとすぐ、青いメイド服を来た2人の女中がかけつけてきて、ミケはともかくマキリンを見るなり深々と頭を下げた。変装はうまく行ったようだ。


「この小娘はわたしが見張る。お前たちは去れ」


 マキリンが命じるとメイドたちは逃げて行き、ミケは猫耳を左右に向けながら小声で言った。


「……メイドらが入った部屋に、他にも使用人が5人くらい。左側奥の部屋に騎士が3名くらいいて、こっちを見張ってる」

「すごいわね。スキルの表示がなかったけど、足音だけで?」

「にゃ。モンスターの気配を探るより簡単」


 2人のいる屋敷の玄関は左右に廊下が伸び、真正面は上り階段で、少し上がった踊り場から緩やかなカーブを描いた階段が右左それぞれに伸びている。踊り場には先々代のラーナボルカの肖像が飾られていて、ファレシラは少し懐かしく思った。あいつは歌の熱心な信者で、まだ小さかった港町を嵐が襲った時に助けてやったっけ。


 ミケはマキリンに扮したキツネに褒められると得意な顔を見せ、「にゃ」と呟いて階段を上がった。


「朝は、玄関右手の広間しか確認できなかった。上のほうを見てみたい」

「わかったわ。だけどノールが作った台本を忘れないでよ? 『ミケが門番をサボっていたので、マキリンのわたしが屋敷の窓拭きを命じた』」

「にゃ。それでマキリンとうっかり会った場合は……」


 子猫は親友と悪巧みするのが楽しいようで、まるでそうなることを期待するように微笑んだ。ユエフーがため息をつく。


「仕方ないからマキリンをはっ倒して気絶させる。でも、できればしたくないわ」

「にゃ。マキリンとは会えないから、子犬の捜索をする。見つけたら勝負を挑む☆」


 左の階段から2階へ上がるとそこは細長い通路に通じていて、通路の左手には大量の客間が並んでいる。


 子猫が鋭く体を光らせた。無詠唱の鑑定で叡智の予想を聞いたミケは多少鎧を鳴らしつつも通路の一番奥まで進み、角部屋に当たる客間のドアノブに手を伸ばた。


「……叡智様が、ここが怪しいって。この角部屋は見晴らしが良いし、広いから、偉い奴用になる……あの子犬は強いから、ここが怪しい。入った瞬間、戦闘になるかも」


 小声でにゃーと詠唱する。


〈——怪盗術:ピッキング——〉


 スキル表示があり、ファレシラはどこかでファイエモンが笑う声を聞いた気がした。密かに応援しているようだ。


 ミケが鍵穴に小指の爪を入れると、それだけで鍵が開く。子猫は無言でマキリンの手を引き、無言・無音で部屋の中に入った。


 ユエフーが後ろ手にドアを閉めた。部屋に飛び込んだ子猫は両手から赤い爪を伸ばして無言で警戒し、


「にゃ……無人か」


 つまらなそうにつぶやいた。マキリンもホッとした声を出す。


「誰もいないわね。安心したけど、ハズレかぁ」


 南側と西側にガラスをはめた窓を持つ部屋には小洒落たテーブルと椅子、細かな装飾を持ったタンスや食器棚があり、大きな天蓋付きのベッドがあった。


「ねえミケ、一旦変身を解除して良い?」


 マキリンが言い、返事を待たずにユエフーに戻った。体型が変化したせいで黒い鎧がずり落ちる。


「にゃ? どうして解除する? 変身のためのMPはカッシェが負担してるはず」

「MPは問題ないけど、身長差がつらいのよ。あのマキリンてひと、わたしより2ジャリは背が高いでしょ? これって変身系のスキルあるあるなんだけど、体の感覚が合わなくてきついのよ。常に下駄を履かされて歩いている感じっていうか」


 ユエフーは手早く鎧を脱ぎ、黒の制服姿で言った。


「それにさ、せっかく無人ならそこのタンスを覗いてみない? マキリンってひとが倉庫に竜素材を隠してるなら、別人に化けたいわ。たとえばさっき逃げてったメイドさんたち、みんな同じ服を着てたわよね? わたし、全員の顔と体型は覚えてるわ……」

「——にゃ! ユエフーはメイドに化ける?」

「あの青いメイド服がタンスにあると良いんだけど」


 少女2人はきゃっきゃしながらタンスを開いたが、結果は残念だった。タンスの中には桃色の寝巻きが数着とレテアリタの貴族が着るようなドレスが数着あるだけだった。


 ユエフーはキツネのしっぽを左右させながら唸った。


「うーん、さすがに客間にメイド服なんて無いか……」

「にゃ。だけどユエフー、これ見て。この服若い子用だし、しっぽ穴がある」


 ミケはピンク色のパジャマを床に並べた。その横に寝転がり、自分と大きさを比較する。


「確かに、ミケくらいの子の大きさね……あるいは、例の子犬くらいの」

「にゃ。たぶんこの部屋、あいつが使ってる。ミケは今朝方騎士団達を見たが、見た中に獣人はひとりもいなかった。たぶんあの犬と、裁判で見た鹿だけ」

「あの鹿さんは大人だったね。男だったし」

「にゃ。確定!」


 ミケは立ち上がり、爛々とした目で部屋を見渡した。始めに子猫は犬の毛でも無いかと床やベッドを見て回ったが、丁寧に掃除されているようで見当たらない。


 続いてミケはテーブルや食器棚、タンスを確認して周り、だんだん苛ついた顔に変わった。


「どしたの?」

「にゃ……あの犬め。良い家具を使ってる」

「そうねぇ。あの犬のってより、ラーナボルカの家具だと思うけど」

「にゃ。子猫はこの前、あの犬とマキリンのせいで倉庫をめちゃくちゃにされたのに……」


 子猫はそう言って常世の倉庫を開いた。ファレシラの耳元で黒いちょうちょが得意げに羽ばたき、冒険の蝶もまた楽しげに舞った。


〈ねえ歌様、わたしは止めないぞ? あの子はファイエモンに気に入られてるし、冒険には「お宝」が無くちゃ〉


 世界神としては軽く顕現して「だめだぞー」と言うつもりだったのだが、まあいいか。


 子猫が開いた〈常世の倉庫〉は荒れ果てていて、ミケが何年もかけて作った木のロフトは崩れ、可愛らしい文机は割れていた。空間の隅には細かいゴミを集めたごみ袋があり、多少片付いた部屋の中央には、ミケがずっと大事にしている豚のぬいぐるみや、親友2人と撮影した数枚の写真がさみしげに置かれている。


「……あら、なによミケ。……あなた、とても悪い顔をしてるわ」


 ユエフーがにやりと笑い、泥棒猫はとてもとても悪い顔をした。


「にゃ。左様。公平にゆえばラーナボルカのおっさんはまだ容疑者の段階です」


 子猫は白々しくも言った。


「にゃ。でもまあ、あのおっさんは絶対〈月の眷属〉で悪者だろーし、いたいけな子猫は、悪者にはなにをしても良いと思うのです」

「……わかったわよ、手伝うわよ。そのゴミを放り出して、代わりに家具を盗んでしまいましょ? あの子犬もわたしたちの店から盗んだし、これでアイコよ、平等!」

「にゃ! キツネは実に口が回ります……ミケがゆいたかったのはそれ!」


 親友が考案した口実に飛び乗り、泥棒猫はラーナボルカの屋敷から家具を盗み始めた。迷宮で鍛えられたステータスを持つ2人にとって、タンスや食器棚の重量はほとんど問題にならない。ユエフーがごみ袋を部屋に放り出すと子猫は片手でタンスを持ち上げ、もう一方の手で食器棚を持って倉庫に入れた。子猫は小洒落た椅子とテーブルも略奪し、子狐は床に敷かれた高そうな絨毯をくるくると丸めた。


「ミケ、この天蓋付きのベッドはどうする? 素敵だけど倉庫に入れたらパンパンね」

「にゃ。これもいただいて、子猫の自宅に設置する☆」

「さすが泥棒猫ね。盗むと決めたら容赦無し」

「当たり前。やると決めたら最後までやれって、怪盗持ちのおばんがゆってた!」


 獣人2名による怪盗グループは10分ほど略奪の限りを尽くし、氷を使える子狐が、子猫が持ち込んだ飲料水に氷を浮かべた時だった。


 ——コンコン、と角部屋のドアがノックされた。


 ニヨついていた猫と狐の顔がひきつる。


〈——ねえアクシノ、これ誰?〉


 犯行を見守っていたファレシラは心配して質問し、叡智から即座に神託を聞いた。同時にミケも連打中の〈鑑定〉を発動させる。


 子猫が鍵を無効化している部屋のドアが、そっと開かれた。




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